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第七十八話 魔王城の幹部への説明。グレイドが意外な動きをした

第七十八話 魔王城の幹部への説明。グレイドが意外な動きをした


前話までのあらすじ

ランセルが三国同盟への参加を希望した。条件三点が提示され、全点受け入れ可能と判断した。

魔王陛下がミラ公王に直接伝えたいと言った。田中が間に入らなくても、向こうから動き始めていた。

「GOLを乗り越えた体験が、同盟への抵抗を下げている。共通体験の力だ」とメモに書いた。


 シアから手紙が来た。

 田中は封を開けた。

 内容を読んだ。

 レオンが横にいた。

「どうですか」

「魔王城の幹部会議で、同盟の話をしたそうです」

「どうなりましたか」

「シアさんが説明したところ、ほとんどの幹部が反対しなかったそうです」

「そうですか。以前は反対していた幹部がいましたね」

「そうです。グレイドも以前は強硬派でした。ただ、今回は違う動きをしたようです」

「グレイドが、ですか」

「そうです。シアさんの手紙に詳しく書いてあります」

 田中は手紙を読み直した。

 『幹部会議で同盟の話をした。予想より反発が少なかった。一番驚いたのは、グレイドの発言だ。グレイドは会議の中で、こう言った。「余は長く、この国との協力に反対してきた。ただ、GOLを止めたとき、余の考えが変わった。城を守ることと、城が生き残ることは、同じではない。城が生き残るためには、一人では無理だとわかった。同盟を支持する」。グレイドがそう言った瞬間、会議室が静かになった。他の幹部たちも、反対の言葉が出なくなった。田中がグレイドと話してくれたことが、今日に繋がった』

 レオンがしばらく黙った。

「……グレイドが、そう言ったんですか」

「そうです」

「以前、田中がグレイドと話したときに、何かが変わっていたんですね」

「そうですね」

「城を守ることと、城が生き残ることは、同じではない、か」

「グレイドが自分の言葉で気づいたことです」

「田中との話がきっかけだったんですよ」

「グレイドが考えたからです」

「また同じことを言う」

「事実なので」

「わかりました」

 田中はメモに書いた。

 ・グレイドが同盟を支持すると発言。幹部会議での反発がほぼなくなった。


 田中はすぐ王様に報告した。

「魔王城の幹部会議で、同盟の話をしたそうです。ほとんど反発がなかったとのことです」

「そうか」

「特に、グレイドという幹部が同盟を支持する発言をしました。それが、他の幹部の反発を抑えた形になったようです」

「グレイドというのは、以前強硬派だった幹部か」

「そうです。田中が以前、直接話した人間です」

「田中が話したのか」

「はい。内乱の頃に、魔王城を訪ねて話しました」

「それが今日に繋がったのか」

「グレイドが考えたからだと思います」

「また同じことを言うが、今日は反論しない」

「そうですか」

「田中が話しかけなければ、グレイドは考えなかった。どちらも本当だ」

「そうですね」

「これで、二国の内部がほぼ揃ったな」

「そうですね。あとはこの国の貴族への説明です」

「ガルドが動いているか」

「動いています。明日、貴族への説明会があります」

「わかった。余も出る」

「よろしくお願いします」


 翌日の説明会の前に、田中はガルドと打ち合わせをした。

「今日の説明会の流れを確認させてください」

「まず余が話す。今回は三国同盟の話なので、二国の停戦実績と、GOLを乗り越えた実績を先に出す。その上で、同盟という次のステップを提案する。田中が補足する。その後、質問を受ける」

「完璧な構成ですね」

「田中がいつもやっていることを、余がやるだけだ」

「そうですね」

「田中、一つだけ確認したい」

「はい」

「今回、反発が出そうな点はどこだと思う」

「二点あります。一点目は軍事的な義務の範囲。魔王軍と同盟を結べば、戦争になったとき、余計な戦いに巻き込まれるのではないかという懸念が出るかもしれません」

「対処は」

「今回の同盟は攻守同盟ではなく、共同行動の枠組みです。攻撃的な軍事行動の義務はないことを明確にします」

「二点目は」

「貿易ルートへの影響です。魔王軍と同盟を結ぶことで、既存の貿易関係が変わるのではないかという懸念です。特にバルト卿が気にするかもしれません」

「バルトは最近、こちらに協力的だが」

「そうです。ただ、港の商売への影響は、常に気にしています。事前にバルト卿に話しておきました」

「もう話したのか」

「昨日、簡単に」

「早いな」

「驚かせると反発が大きくなるので」

「わかった。では、始めよう」


 説明会が始まった。

 貴族たちが集まっていた。

 ガルドが話した。

 停戦の実績。GOLを止めた経緯。三国が協力して乗り越えた事実。

 それから、同盟の提案。

 貴族たちは黙って聞いていた。

 田中は、貴族たちの顔を観察した。

 懐疑的な顔が何人かいた。

 ただ、以前の貴族説明会ほど、緊張した空気ではなかった。

 ガルドが話し終えた。

 田中が補足した。

「今回の同盟は、攻撃的な軍事行動を義務付けるものではありません。共通の問題に一緒に取り組む枠組みです。北の問題、情報共有、食料と物資の相互支援。これが中心です」

 一人の貴族が手を上げた。

「軍事的な義務はないというが、魔王軍が攻撃を受けた場合、この国も戦わなければならないのか」

「今回の同盟文書には、そのような条項は入りません。共同行動は、双方が合意した場合のみです」

「それは確実か」

「文書に明記します。文書に明記されたことは、後で確認できます」

 別の貴族が言った。

「三国同盟と聞いたが、ランセルはどんな役割を持つのか」

「ランセルは山脈に最も近い国です。北の問題に関する情報提供が、主な役割です。ランセルの五年分の記録が、GOLを止める際に重要な役割を果たしました。その貢献は、同盟文書に明記します」

「なるほど」

 バルト卿が言った。

「貿易への影響はどうなるか」

「既存の貿易ルートへの影響はありません。むしろ、魔王領との往来が増えることで、新しい貿易の機会が生まれる可能性があります」

「新しい機会、か」

「魔王領には、この国にない資源があります。同盟が成立すれば、それが動きやすくなります」

「それは興味深いな」

「詳細は、同盟成立後に別途話し合います」

 バルト卿は少し頷いた。

「わかった」

 全体的に、反発は少なかった。

 説明会が終わった後、ガルドが田中に言った。

「予想より、スムーズだったな」

「そうですね」

「GOLを止めた実績が効いた。あれを経験した貴族たちは、三国の協力の意味を体感している」

「そうです」

「以前の貴族説明会とは、空気が違った」

「そうですね。以前は、魔王軍との関係を作ることへの抵抗がありました。今は、関係が既にあります。同盟は、その延長です」

「延長として受け取れたということか」

「そうです」

「田中、この結果は、一年かけて積み上げてきたものだな」

「皆さんが動いてきたからです」

「また同じことを言う。ただ、今日は田中の言葉を借りて言わせてくれ」

「どうぞ」

「どちらも本当だ」

「そうですね」


 夜、シアに手紙を書いた。

 貴族説明会の結果を報告した。

 大きな反発がなかったこと。

 バルト卿が貿易への影響を確認したこと。

 次のステップとして、条件の草案を作って三国で確認することを提案した。

 手紙を書き終えて、田中はメモを整理した。

 【本日の完了事項】

 ・貴族説明会:完了。大きな反発なし。

 ・ガルドとの打ち合わせ:完了。

 ・シアへの報告:送付済み。

 ・次のアクション:条件の草案作成。三国での確認会の設定。

 最後に一行書き足した。

 ・グレイドの言葉が幹部会議を変えた。貴族説明会が想定より早く終わった。皆が同じ方向を向いている。これが積み上げだ。


次回「第七十九話 貴族への説明。ガルドが先に話した」へつづく

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