第七十七話 ランセルも加わる可能性が出てきた
第七十七話 ランセルも加わる可能性が出てきた
前話までのあらすじ
同盟の条件整理を始めた。ロイドとシアに軍の連携の条件を直接話し合うよう依頼した。
ランセルへ同盟参加の打診の手紙を出した。
「今日、田中がやることが変わった。全部やる人間から、方向を揃える人間になった。それが積み上げの証拠だ」とメモに書いた。
ランセルへの手紙を出して、二日後。
ミラから返事が来た。
予想通り、早かった。
田中は封を開けた。
読んだ。
レオンが横で待っていた。
「どうですか」
「ミラ公王らしい返事です」
「どんな内容ですか」
田中は手紙を読み上げた。
『田中殿、返事が遅れた。議会に諮る必要があったため、二日かかった。結論から言う。ランセルは加わりたい。ただし、条件がある。条件は三点だ。一、同盟の対象に北の問題への共同対処が明示されること。二、小国であるランセルの軍事的負担が、大国と同等にならないこと。三、情報共有において、ランセルが入手した山脈近辺の情報が正当に評価されること。この三点が満たされれば、ランセルは加わる。田中殿が整理してくれると思っている』
レオンはしばらく黙っていた。
「……ミラ公王、条件がはっきりしていますね」
「そうですね。ミラらしいです」
「三点とも、正当な条件だと思います」
「正当です。ランセルは小国です。大国と同じ義務を負えば、負担が大きすぎる。情報提供については、五年間記録してきた実績があります。その価値を認めてほしいということです」
「これは、まとまりますか」
「まとまります。三点とも、こちらも魔王軍側も、認められる条件です」
「なぜそう思いますか」
「一点目の北の問題は、もともと同盟の中心的な目的です。入れない理由がありません。二点目の負担については、各国の規模に応じた負担という考え方で整理できます。三点目の情報の評価については、ランセルの情報なしでGOLは止められませんでした。その実績が答えです」
「すでに答えが出ているんですね」
「そうです。確認するだけです」
田中はメモに書いた。
・ランセル参加の条件:三点。北の問題の明示、負担の規模按分、情報の正当評価。全点対応可能。
田中はすぐシアに手紙を書いた。
ランセルの条件三点を伝えた。
魔王軍側がこれを受け入れられるかどうか、確認を依頼した。
それから、王様に報告した。
「ランセルが参加を希望しています。条件が三点あります」
「なんだ」
「北の問題の明示、負担の規模按分、ランセルの情報の正当評価です」
「余は構わない」
「そうですか」
「田中がランセルの情報なしでGOLは止められなかったと言った。それは事実だ。ランセルの情報の価値は、余も認めている」
「ありがとうございます」
「ただ、規模按分の仕組みは、どうやって決める」
「各国の人口や経済規模に応じて、負担の割合を決める方法があります。具体的な数字は、次回の会談で話し合います」
「わかった。ランセルを入れよう」
「ありがとうございます」
「三国同盟になるな」
「そうですね」
「田中、三国が揃うのは、GOLのときに続いて二度目だな」
「そうですね」
「あのときは、問題に対処するために揃った。今回は、関係を築くために揃う」
「そうです」
「それは、良い変化だな」
「そうですね」
「田中、お前はそれを意図していたか」
「意図していたというより、そうなっていきました」
「自然にそうなった、か」
「そうです」
「お前らしいな」
「そうかもしれません」
その日の夕方、アレンが田中のところに来た。
「タナカさん、三国同盟になるって本当ですか」
「本当です」
「すごいですね」
「そうですね」
「俺には、何かできることがありますか」
「あります」
「なんですか」
「引き続き、前線の村の巡回を続けてください」
「それだけですか」
「それだけです。ただ、同盟が成立した後の前線がどう変わるか、観察して報告してもらえると助かります」
「同盟成立前と後で、前線は変わりますか」
「変わると思います。魔王軍の兵士との関係が、少し変わるかもしれません。以前、アレンさんがゲルトという兵士と話しましたね」
「はい。腹が減ったとか、寒いとか、そういう話をしました」
「同盟が成立すれば、そういう話がもう少しやりやすくなるかもしれません」
「そうか」
「前線の変化を教えてもらえれば、同盟が実際に機能しているかどうかがわかります」
「書類の話だけじゃなくて、現場の話も大事なんですね」
「同盟は、書類で成立します。ただ、本物になるのは、現場が変わったときです」
「なるほど」
「アレンさんの報告が、それを教えてくれます」
「わかりました。ちゃんと見てきます」
「よろしくお願いします」
「タナカさん、一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「同盟が成立したら、何が変わりますか。普通の人にとって」
田中は少し考えた。
「すぐには変わりません」
「そうですか」
「書類が変わるだけで、翌日から劇的に変わることはありません。ただ、少しずつ変わります」
「どう変わりますか」
「魔王領との往来が少し増えます。食料の流通が安定します。北の問題が再び起きたとき、一国で対処しなくていい安心感が生まれます」
「安心感、か」
「そうです。安心感は、目に見えません。ただ、ないと困るものです」
「なるほど」
「書類が安心感を作ります。安心感が、普通の生活を支えます」
「タナカさん、書類が嫌いな人間の言葉とは思えないですね」
「書類が嫌いな人間がいるんですか」
「アレンがそうです。ただ、今は少し好きになりました」
「そうですか」
「タナカさんのおかげです」
「アレンさんが練習したからです」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかりました」
アレンは少し笑った。
「タナカさん、三国同盟、うまくいきますよ」
「根拠はありますか」
「ありません。ただ、そう思います」
「ありがとうございます」
「根拠のない言葉でも、ありがたいですか」
「ありがたいです」
「良かったです」
三日後、シアから返事が来た。
レオンが翻訳した。
「タナカ、シアさんから返事です」
「どうぞ」
「ランセルの三点の条件、魔王陛下が全部受け入れると言っています。一点だけ、魔王陛下からの追加コメントがあります」
「なんですか」
「『ランセルの五年分の記録は、この同盟の根拠の一つだ。その価値は十分に認める。ミラ公王に直接伝えたい』とのことです」
田中は少し止まった。
「魔王陛下が、ミラ公王に直接伝えたいと」
「そうです」
「それは良いことですね」
「そうですね。田中が間に入らなくても、向こうから動いています」
「そうですね」
「タナカが言っていた通りです。田中が作った繋がりが、田中なしで動き始めている」
「魔王陛下とミラ公王が動いているからです」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかりました」
田中はミラへの返事を書いた。
シアからの返事を全部伝えた。
魔王陛下が直接伝えたいと言っているが、よろしいか、という確認も入れた。
それから、田中は一行追加した。
『ミラ公王の五年分の記録が、この同盟の根拠の一つです。その事実は、同盟文書に明記します』
「レオン、この一行、大事ですか」とレオンが聞いた。
「大事です。ミラ公王が一番心配していたのは、ランセルの貢献が正当に評価されるかどうかです。文書に明記することで、それが確定します」
「なるほど」
「口で言うより、書いた方が確実です」
「タナカらしいですね」
「そうかもしれません」
「文書に残すことで、消えなくなる」
「そうです」
夜、田中はメモを整理した。
【同盟の現状・整理】
・この国:王様が同盟に賛成。ガルドが根回し中。
・魔王軍:魔王陛下が同盟に賛成。シアが条件の確認中。
・ランセル:ミラ公王が議会の承認を得て参加希望。条件三点が提示済み。全点受け入れ可能。
・軍の連携:ロイドとシアが直接話し合い中。
・次のアクション:三国の条件を一枚にまとめた草案を作る。全員で確認する。
田中はリストを見た。
整理すると、全員が同じ方向を向いていた。
反対している人間が、今のところいなかった。
これは珍しいことだった。
貴族会議でも、魔王城の幹部でも、必ず反発があった。
今回は、なぜ反発がないのか。
田中は少し考えた。
GOLを一緒に乗り越えた。
それが、全員の共通体験になっていた。
共通体験があると、反発が起きにくい。
田中は最後に一行書き足した。
・GOLを乗り越えた体験が、同盟への抵抗を下げている。共通体験の力だ。
次回「第七十八話 魔王城の幹部への説明。グレイドが意外な動きをした」へつづく




