第七十六話 同盟の条件を整理する。田中が三国分の調整をする
第七十六話 同盟の条件を整理する。田中が三国分の調整をする
前話までのあらすじ
魔王がこの国の城に来た。王様と魔王が三時間、直接話した。
同盟の中身の骨格が合意された。共同行動の枠組み、情報共有、食料と物資の相互支援、軍の連携。
「今日、二人が『同盟』という言葉を同時に使った。それが今日の一番大事なことだった」とメモに書いた。
翌朝。
田中はメモアプリを開いた。
【同盟の条件整理・やることリスト】
一、昨日の会談の議事録を双方に送付する。
二、骨格合意の内容を整理して、条件案を作る。
三、ランセルへの共有。同盟にランセルを加えるかどうかの確認。
四、各方面への根回し。ガルド、ロイド、シア。
五、次回会談の日程を決める。
五項目書いてから、田中は少し考えた。
三番目が一番重要かもしれない。
この国と魔王軍の二国同盟として進めるのか、ランセルも含めた三国同盟として進めるのか。
方向によって、条件の整理が変わる。
田中はメモに書き足した。
・優先確認事項:二国同盟か三国同盟か。
朝食の後、田中はレオンと一緒に作業した。
「昨日の議事録を双方に送りましょう」
「はい。今朝のうちに仕上げます」
「ありがとうございます。あと、一点だけ確認したいです」
「なんですか」
「レオンは、この同盟をどう思いますか」
「私がですか」
「そうです。作業をずっと一緒にしてきた人間として」
「そうですね」
レオンはしばらく考えた。
「当然の流れだと思います」
「当然の流れ、ですか」
「GOLを一緒に止めた。魔王陛下が城に来た。王様と魔王陛下が話せた。その流れの上に、同盟がある気がします」
「そうですね」
「ただ、一点だけ気になることがあります」
「なんですか」
「この国の人たちは、まだ魔王軍と同盟を結ぶことへの抵抗があるかもしれません。GOLが止まったとはいえ、長く敵だった相手です」
「そうですね」
「田中はそれをどう対処しますか」
「情報と実績を使います。GOLを一緒に止めた実績。停戦が一年近く続いている実績。それを丁寧に出していきます」
「丁寧に、ですね」
「急ぐと反発が大きくなります。少しずつ、段階を踏む方がいいです」
「段階を踏む、か」
「そうです。条件を整理する。骨格を合意する。各方面に説明する。調印式をする。全部、順番にやります」
「タナカのやり方ですね」
「そうかもしれません」
「わかりました。議事録、仕上げます」
午前中、田中はミラに手紙を書いた。
内容は一点だった。
『この国と魔王軍の間で、同盟の話が進んでいます。ランセル公国も加わることをご検討いただけますか。もしくは、まず二国で進めて、後からランセルが加わる形でも構いません。ミラ公王のお考えを聞かせてください』
書いてから、田中は少し考えた。
ミラの性格からすれば、直接的な返事が来るはずだ。
ただ、急かさない方がいい。
ミラには議会がある。ミラ一人で決められる話ではない。
田中はもう一文追加した。
『お時間は取りません。ただ、方向性だけ教えていただけると助かります』
封じた。
レオンに渡した。
昼過ぎ、田中はシアに手紙を書いた。
今度は、条件の整理についての手紙だった。
骨格合意の内容を箇条書きにして、各項目について魔王側の優先順位を確認する内容だった。
四点あった。
一、軍の連携の範囲と条件。
二、食料と物資の相互支援の具体的な内容。
三、情報共有の仕組みの拡充。
四、北の問題に関する共同対処の枠組み。
「レオン、この四点について、向こうの優先順位を確認します」
「全部、同じくらい重要ではないですか」
「向こうから見れば、重要度が違うかもしれません。食料の問題が一番切実かもしれない。軍の連携が一番関心が高いかもしれない。向こうの優先順位を知れば、条件の整理がしやすくなります」
「なるほど。交渉の基本ですね」
「そうです。相手が何を一番求めているかがわかれば、こちらが何を出すかが決まります」
「タナカ、一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「今回の同盟、まとまると思いますか」
「まとまります」
「珍しいですね、断言するのが」
「まとまらない理由が見つからないので」
「理由がないから、断言するんですね」
「そうです」
「わかりました。シアさんへの手紙、翻訳します」
夕方、ロイドを訪ねた。
「同盟の条件整理について、相談があります」
「なんだ」
「軍の連携の条件について、ロイド卿に整理していただきたいです」
「どういう内容だ」
「三点あります」
田中は指を立てた。
「一点目。平時における情報共有の頻度と方法。二点目。有事における共同行動の条件。具体的にどういう状況で、どちらがどう動くか。三点目。合同訓練や連絡会議の仕組み」
「三点だな」
「ロイド卿がシアさんと直接話して、すり合わせていただけますか」
「余とシアが直接話す、ということか」
「そうです。田中が間に入るより、軍の専門家同士が話した方が、現実的な条件が作れます」
「田中が間に入らない」
「今回は、ロイド卿の方が専門です」
「珍しいな、田中が間に入らないことを提案するのは」
「向いている人が動く方が、良い結果になります」
「そうだな。わかった。シアと話す」
「ありがとうございます」
「田中、一つだけ」
「はい」
「余は、シアのことを少し知っている。魔王城に来たとき、何度か話した」
「そうですね」
「話が通じる人間だ」
「そうです」
「軍の話は、余とシアで進められる」
「そうだと思います」
「田中が作った繋がりが、田中なしで動き始めているな」
「ロイド卿とシアさんが動いてくれるからです」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかった」
夜、田中は部屋でメモを整理した。
今日一日で動かしたこと。
議事録の送付。ランセルへの打診。シアへの条件確認。ロイドへの軍連携の依頼。
四つ動いた。
それぞれが、並行して進んでいた。
田中はリストを見た。
今回の整理で、一つ見えてきたことがあった。
今回の同盟は、田中が全部やる必要がない。
ロイドとシアが軍の話をする。
ガルドが貴族への説明をする。
ミラが議会をまとめる。
それぞれが、それぞれの役割で動ける。
田中がやることは、全体の方向を揃えること、情報が行き渡るようにすること、詰まったときに間に入ることだった。
以前より、役割が絞られていた。
田中は少し考えた。
これが、この六ヶ月の積み上げだった。
田中が全部やっていた状態から、全員が動ける状態になった。
田中は最後に一行書き足した。
・今日、田中がやることが変わった。全部やる人間から、方向を揃える人間になった。それが積み上げの証拠だ。
次回「第七十七話 ランセルも加わる可能性が出てきた」へつづく




