表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/120

第七十四話 GOLが止まった後、次の問いが生まれた

第七十四話 GOLが止まった後、次の問いが生まれた


前章までのあらすじ

第三章完結。田中とOLAが協力し、三国の代表が揃い、GOLが止まった。光が消えた。

王様が「来るべくして来て、やるべきことをやって、帰るべくして帰る。それが全体の話かもしれない」と言った。

「次の扉の前に立った。扉の向こうは、まだ見えなかった。ただ、扉の前には立てた」


 光が消えてから、三日が経った。

 田中は朝、メモアプリを開いた。

 やることリストを確認した。

 三国への報告書。OLAとの対話記録の整理。シアとの月次情報交換。ランセルへの連絡。

 並べてみると、多かった。

 ただ、今日は少し、多さの種類が違った。

 先週までは、GOLを止めるためのやることだった。

 今週からは、GOLが止まった後のやることだった。

 問いが、変わった。

 田中はメモを閉じた。

 窓を開けた。

 北の空を見た。

 山脈が見えた。

 光がなかった。

 ただの山脈だった。

 大きかった。

 ただ、今朝は、向こう側の問いではなく、こちら側の問いが頭にあった。

 GOLが止まった。

 では、次は何をするのか。

 田中は窓を閉めた。

 答えを出す前に、まず情報を集める。

 いつもと同じだ。


 朝食を食べていると、王様が来た。

 珍しいことだった。

 王様が食堂に来るのは、全員で食べるときだけだった。

「田中、少し話せるか」

「どうぞ」

 王様は田中の向かいに座った。

 スープが運ばれてきた。

 王様は一口飲んだ。

「田中、GOLが止まった後、余は何をすればいいと思うか」

「何をしたいですか」

「何をしたい、か」

「やることを決める前に、何をしたいかを聞きます。したいことがあれば、やることが見えやすくなります」

「そうだな」

 王様はしばらく考えた。

「余は、魔王と正式に手を結びたいと思っている」

「正式に、というのは」

「停戦のままではなく、同盟として。書状ではなく、両国が認める正式な形で」

 田中は少し間を置いた。

「同盟、ですか」

「そうだ。GOLが止まった今、魔王軍と正式に同盟を結ぶ意味があると思っている。北の問題は続く。一時的な停戦より、正式な同盟の方が、長く続く」

「なるほど」

「田中は、どう思うか」

「方向としては、正しいと思います」

「ただし、が続くだろう」

「ただし、条件の整理と、各方面への根回しが必要です」

「やはりそうなるか」

「そうなります。ただ、今回は向こうもこちらも、同じ方向を向いています。根回しの難易度は、以前より低いと思います」

「以前より低い、か」

「GOLという共通の問題を乗り越えた実績があります。その実績があれば、同盟の根拠が作りやすいです」

「なるほど」

「陛下、一点確認させてください」

「なんだ」

「魔王陛下は、同盟に前向きだと思いますか」

「そうだな」

 王様は少し考えた。

「余は、そうだと思っている。GOLを一緒に乗り越えた。それが、余と魔王の間に何かを作った気がする」

「何かを、ですか」

「信頼、と言えばいいのか。余には、その言葉が合っているかどうかわからないが」

「信頼だと思います」

「そうか」

「信頼があれば、同盟の話ができます。信頼がない状態で同盟の話をしても、条件の争いになります。今は、話せる状態です」

「では、話し合いを始めるか」

「はい。ただ、まず田中がシアに打診します。魔王側の意向を確認してから、正式な話し合いに入った方がいいです」

「そうだな。田中に任せる」

「かしこまりました」

 王様はスープを飲み終えた。

「田中、一つだけ」

「はい」

「余は、この話をずっとしたかった」

「そうですか」

「GOLの問題で、余裕がなかった。ただ、心の中では、GOLが止まったら、次は同盟の話をしようと思っていた」

「そうでしたか」

「余も、やることが見えていた。ただ、言えなかった」

「今日、言ってくれました」

「そうだ。田中が聞いてくれたから、言えた」

「陛下が話してくれたから、聞けました」

「また同じことを言う」

「事実なので」

「わかった」

 王様は立ち上がった。

「田中、頼む」

「かしこまりました」


 午前中、田中はシアへの手紙を書いた。

 内容は一点だった。

 『王様が、正式な同盟の話を進めたいと言っています。魔王陛下は、同盟についてどのようにお考えですか。まず意向を確認させてください』

 短い手紙だった。

 レオンに渡した。

「急ぎで届けてもらえますか」

「はい。内容は」

「同盟の打診です」

 レオンは少し目を丸くした。

「同盟、ですか」

「停戦から、同盟へ」

「それは、大きい話ですね」

「大きいですが、今だからできる話だと思います」

「GOLが止まったから」

「そうです。共通の問題を乗り越えた後だから、同盟の話ができる」

「なるほど」

「返事を待ちます」

「わかりました。今日中に使者を出します」


 その日の午後、田中はロイドを訪ねた。

「少し、相談があります」

「なんだ」

「同盟の話が出ています」

「同盟、か」

「王様が、魔王軍と正式な同盟を結びたいと言っています。軍事的な観点から、どう思いますか」

 ロイドはしばらく考えた。

「同盟と停戦では、何が変わる」

「法的な拘束力が変わります。停戦は、双方が合意を守ることで成り立っています。同盟は、一方が攻撃された場合に、もう一方が支援する義務が生まれます」

「支援する義務、か」

「そうです。北の問題が再び起きたとき、同盟があれば、共同で対処できます。停戦だけでは、それができません」

「なるほど」

「ロイド卿は、どう思いますか」

「軍事的には、同盟がある方が動きやすい。ただし」

「ただし?」

「魔王軍の軍事力と、この国の軍事力のバランスを確認する必要がある。同盟は、一方が強すぎると、従属関係になる」

「そうですね」

「対等な同盟にするためには、双方の軍事力の把握が必要だ」

「それをシアに確認します」

「頼む。余からも、一点だけ言っていいか」

「どうぞ」

「軍の連携の仕組みを、同盟文書に入れてほしい。どちらの軍が、どういう状況でどう動くかを、文書で決めておく」

「それは大事ですね。田中が整理します」

「頼む」

 田中はメモに書いた。

 ・ロイド提案:軍の連携の仕組みを同盟文書に明記する。


 夕方、ガルドを訪ねた。

「同盟の話が出ています。貴族への説明の準備を始めたいです」

「同盟か。停戦と何が違う」

「ガルド卿、一点だけ確認させてください。今、貴族たちの停戦への支持状況はどうですか」

「安定している。GOLが止まったことで、停戦の意義が理解されてきた」

「では、同盟の話は、その延長として説明できます」

「どういう説明をするつもりだ」

「停戦は、双方が攻撃しない約束です。同盟は、一緒に動く約束です。GOLという共通の問題を乗り越えた今、一緒に動く関係に進む、という説明です」

「なるほど。停戦の延長として説明するわけか」

「そうです。大きな転換ではなく、自然な次のステップとして見せます」

「反発は出るか」

「出ます。ただ、GOLが止まったという実績があります。その実績を使えば、反発を減らせます」

「わかった。田中が資料を作れ。余が先に話す」

「いつも通りですね」

「そうだ。それがうまくいくとわかったから、また同じようにやる」

「ありがとうございます」

「礼はいい。やるべきことをやるだけだ」


 夜、田中は部屋でメモを整理した。

 今日一日で、動きが始まった。

 王様が同盟を望んでいる。

 ロイドが軍の連携の文書化を求めている。

 ガルドが貴族への説明を引き受けてくれた。

 シアへの打診の手紙を出した。

 田中はリストを見た。

 やることが、また増えた。

 ただ、今回は少し違う感覚があった。

 GOLを止めるためのやることは、追われている感覚があった。

 同盟に向けてのやることは、作っていく感覚があった。

 守るためではなく、築くためのやることだった。

 田中は最後に一行書き足した。

 ・GOLが止まった後、次の問いが生まれた。同盟という問いだ。これは、築くためのやることだ。


次回「第七十五話 王様と魔王が、同盟という言葉を初めて口にした」へつづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ