第七十四話 GOLが止まった後、次の問いが生まれた
第七十四話 GOLが止まった後、次の問いが生まれた
前章までのあらすじ
第三章完結。田中とOLAが協力し、三国の代表が揃い、GOLが止まった。光が消えた。
王様が「来るべくして来て、やるべきことをやって、帰るべくして帰る。それが全体の話かもしれない」と言った。
「次の扉の前に立った。扉の向こうは、まだ見えなかった。ただ、扉の前には立てた」
光が消えてから、三日が経った。
田中は朝、メモアプリを開いた。
やることリストを確認した。
三国への報告書。OLAとの対話記録の整理。シアとの月次情報交換。ランセルへの連絡。
並べてみると、多かった。
ただ、今日は少し、多さの種類が違った。
先週までは、GOLを止めるためのやることだった。
今週からは、GOLが止まった後のやることだった。
問いが、変わった。
田中はメモを閉じた。
窓を開けた。
北の空を見た。
山脈が見えた。
光がなかった。
ただの山脈だった。
大きかった。
ただ、今朝は、向こう側の問いではなく、こちら側の問いが頭にあった。
GOLが止まった。
では、次は何をするのか。
田中は窓を閉めた。
答えを出す前に、まず情報を集める。
いつもと同じだ。
朝食を食べていると、王様が来た。
珍しいことだった。
王様が食堂に来るのは、全員で食べるときだけだった。
「田中、少し話せるか」
「どうぞ」
王様は田中の向かいに座った。
スープが運ばれてきた。
王様は一口飲んだ。
「田中、GOLが止まった後、余は何をすればいいと思うか」
「何をしたいですか」
「何をしたい、か」
「やることを決める前に、何をしたいかを聞きます。したいことがあれば、やることが見えやすくなります」
「そうだな」
王様はしばらく考えた。
「余は、魔王と正式に手を結びたいと思っている」
「正式に、というのは」
「停戦のままではなく、同盟として。書状ではなく、両国が認める正式な形で」
田中は少し間を置いた。
「同盟、ですか」
「そうだ。GOLが止まった今、魔王軍と正式に同盟を結ぶ意味があると思っている。北の問題は続く。一時的な停戦より、正式な同盟の方が、長く続く」
「なるほど」
「田中は、どう思うか」
「方向としては、正しいと思います」
「ただし、が続くだろう」
「ただし、条件の整理と、各方面への根回しが必要です」
「やはりそうなるか」
「そうなります。ただ、今回は向こうもこちらも、同じ方向を向いています。根回しの難易度は、以前より低いと思います」
「以前より低い、か」
「GOLという共通の問題を乗り越えた実績があります。その実績があれば、同盟の根拠が作りやすいです」
「なるほど」
「陛下、一点確認させてください」
「なんだ」
「魔王陛下は、同盟に前向きだと思いますか」
「そうだな」
王様は少し考えた。
「余は、そうだと思っている。GOLを一緒に乗り越えた。それが、余と魔王の間に何かを作った気がする」
「何かを、ですか」
「信頼、と言えばいいのか。余には、その言葉が合っているかどうかわからないが」
「信頼だと思います」
「そうか」
「信頼があれば、同盟の話ができます。信頼がない状態で同盟の話をしても、条件の争いになります。今は、話せる状態です」
「では、話し合いを始めるか」
「はい。ただ、まず田中がシアに打診します。魔王側の意向を確認してから、正式な話し合いに入った方がいいです」
「そうだな。田中に任せる」
「かしこまりました」
王様はスープを飲み終えた。
「田中、一つだけ」
「はい」
「余は、この話をずっとしたかった」
「そうですか」
「GOLの問題で、余裕がなかった。ただ、心の中では、GOLが止まったら、次は同盟の話をしようと思っていた」
「そうでしたか」
「余も、やることが見えていた。ただ、言えなかった」
「今日、言ってくれました」
「そうだ。田中が聞いてくれたから、言えた」
「陛下が話してくれたから、聞けました」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかった」
王様は立ち上がった。
「田中、頼む」
「かしこまりました」
午前中、田中はシアへの手紙を書いた。
内容は一点だった。
『王様が、正式な同盟の話を進めたいと言っています。魔王陛下は、同盟についてどのようにお考えですか。まず意向を確認させてください』
短い手紙だった。
レオンに渡した。
「急ぎで届けてもらえますか」
「はい。内容は」
「同盟の打診です」
レオンは少し目を丸くした。
「同盟、ですか」
「停戦から、同盟へ」
「それは、大きい話ですね」
「大きいですが、今だからできる話だと思います」
「GOLが止まったから」
「そうです。共通の問題を乗り越えた後だから、同盟の話ができる」
「なるほど」
「返事を待ちます」
「わかりました。今日中に使者を出します」
その日の午後、田中はロイドを訪ねた。
「少し、相談があります」
「なんだ」
「同盟の話が出ています」
「同盟、か」
「王様が、魔王軍と正式な同盟を結びたいと言っています。軍事的な観点から、どう思いますか」
ロイドはしばらく考えた。
「同盟と停戦では、何が変わる」
「法的な拘束力が変わります。停戦は、双方が合意を守ることで成り立っています。同盟は、一方が攻撃された場合に、もう一方が支援する義務が生まれます」
「支援する義務、か」
「そうです。北の問題が再び起きたとき、同盟があれば、共同で対処できます。停戦だけでは、それができません」
「なるほど」
「ロイド卿は、どう思いますか」
「軍事的には、同盟がある方が動きやすい。ただし」
「ただし?」
「魔王軍の軍事力と、この国の軍事力のバランスを確認する必要がある。同盟は、一方が強すぎると、従属関係になる」
「そうですね」
「対等な同盟にするためには、双方の軍事力の把握が必要だ」
「それをシアに確認します」
「頼む。余からも、一点だけ言っていいか」
「どうぞ」
「軍の連携の仕組みを、同盟文書に入れてほしい。どちらの軍が、どういう状況でどう動くかを、文書で決めておく」
「それは大事ですね。田中が整理します」
「頼む」
田中はメモに書いた。
・ロイド提案:軍の連携の仕組みを同盟文書に明記する。
夕方、ガルドを訪ねた。
「同盟の話が出ています。貴族への説明の準備を始めたいです」
「同盟か。停戦と何が違う」
「ガルド卿、一点だけ確認させてください。今、貴族たちの停戦への支持状況はどうですか」
「安定している。GOLが止まったことで、停戦の意義が理解されてきた」
「では、同盟の話は、その延長として説明できます」
「どういう説明をするつもりだ」
「停戦は、双方が攻撃しない約束です。同盟は、一緒に動く約束です。GOLという共通の問題を乗り越えた今、一緒に動く関係に進む、という説明です」
「なるほど。停戦の延長として説明するわけか」
「そうです。大きな転換ではなく、自然な次のステップとして見せます」
「反発は出るか」
「出ます。ただ、GOLが止まったという実績があります。その実績を使えば、反発を減らせます」
「わかった。田中が資料を作れ。余が先に話す」
「いつも通りですね」
「そうだ。それがうまくいくとわかったから、また同じようにやる」
「ありがとうございます」
「礼はいい。やるべきことをやるだけだ」
夜、田中は部屋でメモを整理した。
今日一日で、動きが始まった。
王様が同盟を望んでいる。
ロイドが軍の連携の文書化を求めている。
ガルドが貴族への説明を引き受けてくれた。
シアへの打診の手紙を出した。
田中はリストを見た。
やることが、また増えた。
ただ、今回は少し違う感覚があった。
GOLを止めるためのやることは、追われている感覚があった。
同盟に向けてのやることは、作っていく感覚があった。
守るためではなく、築くためのやることだった。
田中は最後に一行書き足した。
・GOLが止まった後、次の問いが生まれた。同盟という問いだ。これは、築くためのやることだ。
次回「第七十五話 王様と魔王が、同盟という言葉を初めて口にした」へつづく




