第七十話 三国と一頭で、もう一度やった
第七十話 三国と一頭で、もう一度やった
前話までのあらすじ
三日目の朝、山脈が光った。
田中とOLAが山脈の麓で同時に光に働きかけた。光が少し弱くなった。
「今日はOLAと一緒にやった。それが今日の一番大事なことだった」とメモに書いた。
まだ終わっていない。続けることが必要だった。
山脈の光が弱くなったという報告を受けて、三国が動いた。
シアから手紙が来た。
『光が弱くなったことは、魔王城でも確認した。魔王が、田中とOLAが何かをしたからだと言っている。もう一度試みるなら、魔王軍も協力する。魔王が現地に来ると言っている』
ミラからも手紙が来た。
『カラから報告を受けた。田中殿の動きを聞いて、私も現地に行くべきだと判断した。三国の代表が揃えば、もっと強く働きかけられるかもしれない。明日、山脈に行く』
田中は両方の手紙を持って、王様のところに行った。
「魔王陛下とミラ公王が、山脈に来ると言っています」
「そうか」
「王様にも、来ていただけますか」
「余も行く」
「三国の代表が揃います」
「田中、一つだけ聞いていいか」
「はい」
「三国の代表が揃えば、何が変わる」
「確実なことはわかりません。ただ、田中とOLAの二者より、三国とOLAの四者の方が、働きかけが強くなる可能性があります」
「可能性があるということか」
「そうです。確実ではありません」
「わかった。行く」
「ありがとうございます」
「ただし、田中が段取りをしろ」
「かしこまりました」
翌朝。
山脈の麓に、全員が集まった。
王様、田中、レオン、ロイド、アレン。
魔王、シア。
ミラ、カラ。
合計九名。
そして、OLAが来ていた。
岩場の上ではなく、麓で待っていた。
田中が近づいた。
「OLA」
OLAが前足を踏んだ。
「TNA」とOLAが言った。
「はい」と田中が言った。
「皆が来ました。一緒に、もう一度やります」
OLAが、全員を見た。
王様を見た。
魔王を見た。
ミラを見た。
それぞれを、順番に見た。
「OLAが、全員を確認しています」とカラが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「多くの人間が来たことを、理解しているようです」
「そうです」
王様が田中の横に来た。
「余は何をすればいい」
「昨日と同じです。光に向かって、言葉を出してください。言語は何でも構いません。気持ちが大事だと思います」
「気持ちが大事か」
「そうです」
「余には、難しいことはできない」
「難しいことはしなくていいです。ただ、止まってほしいという気持ちを、声に出してください」
「わかった」
魔王が田中のところに来た。
「田中、余も同じか」
「はい。同じです」
「気持ちを声に出す」
「そうです」
「余は、長くこの問題を抱えてきた。その気持ちを出せばいいか」
「そうです」
「わかった」
ミラが来た。
「田中殿、私も同じか」
「はい」
「私は、五年間記録してきた。その五年間の気持ちでいいか」
「十分です」
「わかった」
OLAが、田中を見た。
「OLA、皆が来ました。一緒に、GOLを止めます」
OLAが肯定の音を出した。
全員が光の前に並んだ。
山脈の光は、昨日より少し弱かった。
ただ、まだあった。
田中の左にOLAがいた。
右にレオンがいた。
後ろに、王様、魔王、ミラ、シア、カラ、ロイド、アレンがいた。
「皆さん、準備はいいですか」と田中が言った。
全員が頷いた。
「OLAが先に音を出します。それから、皆さんが声を出してください。言語は何でも構いません。止まってほしいという気持ちを、声に出してください」
「わかった」と王様が言った。
「わかった」と魔王が言った。
「わかりました」とミラが言った。
「では、OLA、お願いします」
OLAが、低い長い音を出した。
山脈の光が、揺れた。
「今です」と田中が言った。
田中が声を出した。
「GOL、止。TNA、OLA、三国、一緒、止める」
王様が声を出した。
「余の国を守れ。この地を守れ」
魔王が声を出した。
「余は、この問題と三十年向き合ってきた。止まれ」
ミラが声を出した。
「五年間、記録してきた。それを無駄にさせるな。止まれ」
シアが声を出した。
「田中が繋いでくれた。その繋がりを壊すな」
カラが声を出した。
「山脈の番人として、止まることを求める」
ロイドが声を出した。
「この城を守る。止まれ」
アレンが声を出した。
「OLAと田中さんが一緒にやった。俺たちも一緒だ。止まれ」
レオンが声を出した。
「タナカがここまで来た。無駄にしたくない。止まれ」
全員の声が、光に向かって届いた。
光が、大きく揺れた。
今までより、大きく揺れた。
OLAが、また音を出した。
今度は、田中に聞いたことがない音だった。
長く、重い音だった。
山脈に向かって、何かを告げるような音だった。
光が、揺れ続けた。
田中は、光を見ていた。
揺れていた。
強くなるのか、弱くなるのか、まだわからなかった。
田中はもう一度声を出した。
「OLA、TNA、一緒にやっています。もう一度、止める」
OLAが田中の声に合わせて音を出した。
光が、揺れた。
それから、少し、収まった。
「弱くなっています」とカラが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「昨日より弱くなっています」
「そうですね」
「止まっていますか」
「止まっているかどうかは、まだわかりません。ただ、弱くなっています」
OLAが、また穏やかな音を出した。
昨日と同じ音だった。
田中に向かって出した音だった。
「昨日も聞いた音ですね」とレオンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「感謝の音かもしれません」
「そうかもしれません」
王様が田中の横に来た。
「田中、どうだ」
「光が弱くなりました。昨日より弱い」
「止まったか」
「まだわかりません。ただ、弱くなっています」
「前進か」
「前進です」
「田中、皆の声が届いたか」
「届いたと思います。光が揺れました」
「そうか」
「王様の声も届いたと思います」
「余の声が」
「はい。全員の声が、届きました」
王様はしばらど光を見た。
「田中、これで終わりか」
「終わりではないと思います。ただ、今日は大きく前進しました」
「続けるということか」
「続けます。また来ます。OLAと一緒に」
「そうか」
「今日、三国が揃いました。そのことが、OLAにも届いたと思います」
「OLAに届いた」
「一国だけでなく、三国が一緒に来た。それは、OLAにとっても意味があると思います」
「そうかもしれないな」
魔王が田中のところに来た。
「田中、今日はよくやった」
「皆さんが来てくれたからです」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかった」
魔王はOLAを見た。
「田中、あれが、向こうの生き物か」
「そうです」
「余の城の近くにも来ていたかもしれないな」
「そうかもしれません」
「悪いものではないな」
「そうですね。OLAは、警告を伝えに来てくれていました」
「向こうの生き物が、こちらに警告を。余は、長い間、向こうは敵だと思っていた」
「そうでしたね」
「田中、お前は最初から、話し合えると思っていたか」
「思っていませんでした。ただ、やってみないとわからないと思っていました」
「やってみたら、話し合えた」
「そうです」
「田中らしいな」
「そうですか」
「やってみないとわからないことは、やってみる。それがお前のやり方だ」
「そうです」
「今日も、それで前進した」
「そうですね」
「田中、余はお前に感謝している」
「魔王陛下が来てくれたから、今日が動けました」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかった」
魔王は低く笑った。
全員で、しばらく光の前にいた。
光は、少しずつ弱くなっていた。
止まったとは言えなかった。
ただ、弱くなっていた。
田中はOLAを見た。
OLAが田中を見た。
「また来ます」と田中が言った。
OLAが前足を踏んだ。
「TNA」とOLAが言った。
「はい」と田中が言った。
「OLA、GOL、止、続ける」
OLAが肯定の音を出した。
「約束しました」とレオンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「OLAとの約束は、守ります」
「それが、全部の始まりですね」
「そうですね」
「田中、いつから約束を守り始めましたか」
「最初からです」
「元の世界でも」
「そうです」
「それが、タナカです」
「そうかもしれません」
田中はOLAに頭を下げた。
OLAは動かなかった。
田中たちが後退した。
OLAはずっと見ていた。
全員が見えなくなるまで、そこにいた。
帰り道。
九名で馬を進めた。
山脈の光が、背後に見えた。
昨日より、弱かった。
「田中」と王様が言った。
「はい」
「今日は、良かった」
「そうですね」
「余、魔王、ミラが揃った。OLAも来た。全員が声を出した」
「そうですね」
「田中が段取りしたからだ」
「皆さんが来てくれたからです」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかった」
魔王が横に来た。
「田中、余は長くこの問題を一人で抱えていた」
「そうでしたね」
「今日、三国が揃った。田中がいなければ、そうはならなかった」
「皆さんが動いてくれたからです」
「それを言う前に、一つ言わせてくれ」
「はい」
「田中、ありがとう」
「……ありがとうございます」
「珍しくすぐ言えたな」
「今日は、受け取れます」
「そうか。良かった」
ミラが横に来た。
「田中殿、私も同じだ。五年間、一人で抱えていた。今日、三国が揃った」
「ミラ公王が五年間記録してくれていたから、今日があります」
「田中殿が繋いでくれたから、今日がある」
「どちらも本当です」
「そうだな。どちらも本当だ」
「そうです」
「田中殿、ありがとう」
「ありがとうございます」
「三回目ですね、今日は」とレオンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「王様、魔王陛下、ミラ公王の三人から、今日ありがとうをもらいました」
「受け取れましたか」
「受け取れました」
「良かったです」
「今日は、受け取れる日でした」
「これからも、受け取れる日が増えるといいですね」
「そうですね」
城に戻った夜。
田中は部屋で一人だった。
窓を開けた。
北の空を見た。
山脈の光が、まだあった。
ただ、今夜は昨日より弱かった。
弱くなっていた。
確かに、弱くなっていた。
田中はしばらど光を見た。
まだ終わっていない。
続けることが必要だった。
ただ、今日は、大きく前進した。
三国とOLAが揃った。
それが、今日の一番大事なことだった。
田中はメモアプリを開いた。
【本日の記録】
・三国の代表とOLAが揃った。全員が声を出した。
・光が弱くなった。昨日より弱い。
・OLAとの約束:続けること。また来ること。
・王様、魔王陛下、ミラ公王から感謝を受け取った。
最後に一行書き足した。
・今日は、受け取れる日だった。それが今日の変化だった。
窓を閉めた。
ベッドに横になった。
目を閉じた。
今日は、眠れた。
すぐに、眠れた。
明日もやることがある。
それだけで、十分だった。
次回「第七十一話 光が、消えた」へつづく




