第六十九話 三日目の朝、山脈が光った
第六十九話 三日目の朝、山脈が光った
前話までのあらすじ
OLAと初めて協力した。GOLを止めるという同じ目標を持った。
OLAが急いでいるサインを出した。三日後の可能性を示した。
OLAが一メートルまで近づいた。今まで最も近い距離だった。
「三日後に何かが来るかもしれない。ただ、一人ではない。OLAも、同じ方向を向いている」とメモに書いた。
一日目。
田中は三国に緊急の手紙を送った。
OLAとの対話の内容。三日後の可能性。準備を急ぐよう要請。
ロイドと軍の準備を確認した。
「何が来るかわからない」とロイドが言った。
「そうです」と田中が言った。
「わからなくても、動ける準備はある」
「そうです」
「兵站を整える。連絡網を確立する。避難の経路を決める」
「避難の経路、ですか」
「山脈の近くの村人を、安全な場所に移動させる。もし何かが来たとき、被害を最小限にする」
「それは、すぐ動いた方がいいですね」
「今日中に動かす。アレンに村への連絡を頼む」
「わかりました」
アレンが動いた。
その日のうちに、山脈近くの村人が安全な場所に移動し始めた。
二日目。
シアから手紙が来た。
魔王城でも山脈の音が最大になっている。魔王軍も準備を急いでいる。グレイドも、今回は協力すると言っている。
田中はメモに書いた。
・グレイドが協力する。それだけで、魔王城は一枚岩に近くなった。
ミラからも手紙が来た。
カラが伝えてくれた。ランセルも最大警戒態勢に入っている。ミラ自身が山脈近くに来ている。
田中はメモに書いた。
・ミラが現地に来ている。頼もしい。
二日目の夜。
田中は眠れなかった。
ただ、昨日のような迷いからではなかった。
やることを考えていた。
三日目に何が来るかわからない。
ただ、やることは見えていた。
見えていれば、動ける。
田中は目を閉じた。
少しだけ、眠れた。
三日目の朝。
夜明け前に目が覚めた。
田中は起き上がった。
窓を開けた。
北の空を見た。
山脈が見えた。
光っていた。
青白い光が、山脈の全体から出ていた。
今まで見たことがない光だった。
点ではなく、線になっていた。
山脈の稜線に沿って、光が走っていた。
「……来た」
田中は呟いた。
メモアプリを開いた。
一行書いた。
・三日目の朝、山脈が光った。
それだけ書いて、着替えた。
部屋を出た。
廊下を歩くと、レオンが来た。
「タナカ、見ましたか」
「見ました」
「どうしますか」
「まず、王様に報告します。それからロイド卿に。シアとミラには使者を出します」
「わかりました。私はシアとミラへの手紙を書きます」
「ありがとうございます」
「タナカ、怖いですか」
「怖いです」
「でも、動けますか」
「動けます。やることがあるので」
「わかりました」
レオンが動いた。
王様の部屋に行った。
王様はすでに起きていた。
窓から北の空を見ていた。
「田中、見えているな」
「はい」
「来たな」
「そうです」
「どうする」
「ロイド卿と動きます。シアとミラにも伝えます。OLAとも、できれば連絡を取りたいです」
「OLAと連絡を取るとは」
「OLAが何かできることがあるかもしれません。向こうも、GOLを止めたいと思っているなら」
「そうだな。ただ、どうやって連絡を取る」
「山脈に行きます」
「今から行くのか」
「はい。今日、現地にいる必要があります」
「危険だ」
「わかっています。ただ、OLAと直接話せる場所は山脈しかありません」
「わかった。ロイドに護衛をつけさせる」
「ありがとうございます」
「田中」
「はい」
「帰ってこい」
「帰ります」
「約束か」
「約束です」
「何回目かわからないが、今日は特に言いたかった」
「わかっています」
「わかっているなら、守れ」
「守ります」
ロイドのところに行った。
「山脈に行きます」
「余も行く」
「ありがとうございます」
「何名で行くか」
「田中、レオン、カラ、ロイド卿、騎士二名、アレン。七名です」
「アレンも連れていくか」
「はい。OLAが最初に見た人間です。OLAもアレンを知っているかもしれません」
「わかった。今すぐ出発するか」
「できるだけ早く。ただ、出発前に一点確認させてください」
「なんだ」
「万が一のとき、城の判断は誰がしますか」
「王だ」
「王様一人でできますか」
「できる。バルトの件で、一人で動いた。あれと同じだ」
「そうですね。ガルド卿にも城にいてもらえますか」
「話す」
「ありがとうございます」
「田中、一つだけ」
「はい」
「今日は、お前が全部やろうとするな」
「どういう意味ですか」
「現地に行けば、お前が動きたいことが山ほど出てくる。ただ、今日は周りに任せることも必要だ」
「任せると言っても」
「OLAとの対話はお前がやる。それ以外のことは、余とロイドとアレンに任せろ。お前がやるべきことと、任せるべきことを分ける。それがお前のやり方だろう」
「そうですね」
「忘れるな」
「忘れません」
「では、行こう」
七名で馬を進めた。
夜明け前の空は、いつもより明るかった。
山脈から出る光が、空を照らしていた。
道中、カラが田中の横に並んだ。
「田中殿、今日はOLAに何を伝えますか」
「GOLを止めるために、一緒に動く、ということを伝えます。ただ、どうやって止めるかは、OLAに聞きたいです」
「OLAが知っているかもしれない」
「そうです。こちら側だけでは、どうやって止めるかがわかりません。ただ、向こう側を知っているOLAなら、何か知っているかもしれません」
「なるほど」
「向こうの世界のことは、向こうの世界を知っている存在に聞くのが一番です」
「田中殿らしい考え方ですね」
「そうですか」
「わからないことは、わかる人に聞く」
「そうです」
「誰に頼めばいいかを知っている」
「そうかもしれません」
「それが、田中殿の強さだと思います」
「そうかもしれません」
アレンが横に来た。
「タナカさん、今日は俺も話しかけていいですか。OLAに」
「もちろんです。OLAはアレンさんを知っています」
「俺が最初に見たから」
「そうです。OLAにとって、アレンさんは最初にこちら側で会った人間かもしれません」
「そうか。なんか、緊張しますね」
「そうですね」
「タナカさんは緊張していますか」
「しています」
「でも、いつも通りですね」
「いつも通りに動く方が、うまくいくので」
「そうですね。俺も、いつも通りにします」
「それで十分です」
レオンが言った。
「タナカ、山脈の光が、さらに強くなっています」
「そうですね」
「近づくにつれて、明るくなっています」
「そうです」
「美しいですね」
「そうですね」
「こんな状況なのに、美しいと思うのは変ですか」
「変ではないと思います。美しいものは、美しい」
「タナカらしいですね」
「そうかもしれません」
村の手前で馬を止めた。
村はすでに無人だった。
二日前にアレンが村人を安全な場所に移動させていた。
「ロイド卿、村で少し待機してもらえますか」と田中が言った。
「田中たちが進む間か」
「はい。まず、田中、カラ、レオン、アレンの四人で岩場に向かいます。何かあれば合図を出します」
「護衛なしで行くのか」
「護衛がいると、OLAが警戒するかもしれません。今日は、田中たちだけで行きます」
「わかった。村で待つ。合図があればすぐ動く」
「ありがとうございます」
「田中」
「はい」
「今日は、無理するな」
「わかっています」
「わかっているか確認している」
「わかっています。ロイド卿が村で待ってくれているので、安心して動けます」
「そうか」
「それが、ロイド卿がいてくれる意味です」
「わかった。行ってこい」
四人で岩場に向かった。
山脈の光が近かった。
岩場に着いた。
OLAがいた。
今回は一頭だけだった。
田中を見ていた。
「OLA」と田中が言った。
OLAが前足を踏んだ。
「TNA」とOLAが言った。
田中はOLAに近づいた。
一メートル。
OLAは動かなかった。
「OLA、GOL、近い」と田中が言った。
OLAが強く反応した。
「わかっています、ということですね」とカラが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「OLA、TNA、止め方、教えて」
「教えて、という音に近いものを使います」とレオンが言った。
「どんな音ですか」
「この言語圏で、教える、または知らせる、に近い音はDAN音です」
「DAN、GOL、止め方、というような意味で言ってみます」
「はい」
「OLA、DAN、GOL、止」と田中が言った。
OLAが、しばらど田中を見た。
それから、動いた。
田中の横を通り過ぎた。
「田中殿、後ろです」とカラが言った。
田中は振り返った。
OLAが、田中の後ろに来ていた。
そして、田中と同じ方向、北を向いていた。
「OLAが、田中殿と並んでいます」とアレンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「同じ方向を向いている」
「そうです」
「OLAが、一緒に行く、ということを示しているのかもしれません」とカラが言った。
「一緒に行く」
「田中殿が、OLAに一緒に行くことを求めた。OLAが応えた」
「そうかもしれません」
「では、行きますか」
「行きます」
田中は北に向かって、歩き始めた。
OLAが、田中の横を歩いた。
カラ、レオン、アレンが後ろについた。
五者が一緒に、山脈に向かって歩き始めた。
山脈の麓まで来た。
光が、目の前にあった。
近くで見ると、光は山脈の岩の間から出ていた。
青白い光が、岩の隙間から漏れていた。
「これが、道が開こうとしている場所ですか」とレオンが言った。
「そうだと思います」と田中が言った。
「どうやって止めるんですか」
「OLAに聞きます」
田中はOLAを見た。
「OLA、これをどうすればいいですか」
「どうすればいい」という音を組み合わせた。
OLAが、光の場所に向かって、音を出した。
長い音だった。
田中には意味がわからなかった。
ただ、OLAの音が、光に向かって伝わった気がした。
光が、少し揺れた。
「揺れました」とアレンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「OLAの音に反応しています」
「そうです」
「OLAが光に話しかけているんですか」とレオンが言った。
「そうかもしれません」
「田中殿も、話しかけてみますか」とカラが言った。
「試してみます」
田中は光に向かって、音を出した。
「GOL、止」
光が、また揺れた。
「反応しました」とアレンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「OLAとTNAの両方の音に、反応している」
「そうです」
「つまり、OLAだけでなく、田中殿の音も届いている」
「そうかもしれません」
「ということは、田中殿もOLAと同じように、光に語りかけられる」
「そうかもしれません」
OLAが、また音を出した。
今度は、田中に向かって言った。
田中は聞いた。
レオンが言った。
「タナカ、この音は、前に聞いた音に近いです」
「どんな音ですか」
「一緒に、または、共に、という意味に近い音だと思います」
「一緒に」
「はい。OLAとTNAが一緒に、という意味かもしれません」
「OLAと田中が一緒に、光に働きかける、ということですか」
「そうだと思います」
「では、やってみます」
田中はOLAの横に並んだ。
OLAが、田中を見た。
田中もOLAを見た。
「一緒に」と田中が言った。
OLAが前足を踏んだ。
田中とOLAが、同時に光に向かって音を出した。
OLAが低い長い音を出した。
田中が、覚えている限りの言葉を出した。
「GOL、止、TNA、OLA、一緒」
光が、大きく揺れた。
「揺れています」とアレンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「前より大きく揺れています」
「そうです」
「何かが変わり始めていますか」
「わかりません。ただ、反応しています」
OLAが、また音を出した。
今度は、繰り返しのパターンだった。
急いでいるサインだった。
「急いでいます」とレオンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「もう一度、やりますか」
「もう一度」
田中とOLAが、もう一度同時に音を出した。
今度は、田中は日本語も混ぜた。
「お願いします。止まってください。GOL、止。TNA、OLA、三国、一緒、止める」
光が、揺れた。
それから、少し、弱くなった。
「弱くなりました」とカラが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「止まっていますか」
「止まっているかどうかは、わかりません。ただ、弱くなりました」
「それは、進みましたか」
「前進だと思います」
「どのくらいの前進ですか」
「わかりません。ただ、やってみて、反応があった。それが今日の一番大事なことです」
OLAが低い音を出した。
穏やかな音だった。
「これは」とレオンが言った。
「はい」と田中が言った。
「この音、以前も聞きましたね」
「はい。OLAが田中殿に感謝しているような音だ、と思っていた音です」
「そうですね」
「今日も、その音を出しています」
「OLAが、今日のことを良かったと思っているかもしれません」
「そうですね」
「田中殿も、良かったですか」とカラが言った。
「良かったです」と田中が言った。
「全部解決したわけではないですが」
「そうですね。まだ続きます。ただ、今日は前進しました」
「そうですね」
田中はOLAを見た。
「OLA、また来ます」
田中が言った。
OLAが前足を踏んだ。
「TNA」とOLAが言った。
「はい」と田中が言った。
帰り道。
ロイドが待っていた。
「どうだった」
「光が少し弱くなりました」
「止まったのか」
「止まったかどうかはわかりません。弱くなりました」
「前進か」
「前進です。ただ、終わったわけではありません」
「そうか。続けるということか」
「続けます。また来ます」
「何度でも来るか」
「OLAが必要だと言う限り、来ます」
「わかった。余はいつでも護衛をつける」
「ありがとうございます」
「田中、今日はよくやった」
「OLAが一緒に動いてくれました」
「OLAと、か」
「はい。OLAがいなければ、今日は動けませんでした」
「お前が来てくれたから、OLAが動いたんだろう」
「そうかもしれません。ただ、どちらかだけではなかったです」
「どちらもあった」
「そうです」
「田中、珍しいな」
「何がですか」
「今日は、自分も動いたと認めた」
「そうですね。今日は、認められる気がしました」
「なぜだ」
「OLAが一緒にいてくれたからかもしれません」
「OLAがいると、認められるのか」
「OLAと一緒にやったことは、一人でやったことではないので、認めやすいです」
「なるほど」
「今日は、OLAと一緒にやりました」
「そうだな」
ロイドは短く頷いた。
「田中、帰ろう」
「はい」
七名で馬を進めた。
山脈の光が、背後に見えた。
まだあった。
ただ、来るときより、少し弱かった。
田中はそれを確認して、前を向いた。
やることが、まだある。
ただ今日は、一人じゃなかった。
OLAと一緒だった。
それが、今日の一番大事なことだった。
田中はメモアプリを開いた。
【三日目・記録】
・山脈の光:朝から全体が光った。
・OLAと山脈の麓まで行った。
・田中とOLAが同時に光に働きかけた。光が弱くなった。
・まだ終わっていない。続けることが必要。
最後に一行書き足した。
・今日、OLAと一緒にやった。それが、今日の一番大事なことだった。
次回「第七十話 三国と一頭で、もう一度やった」へつづく




