第六十八話 OLAと、初めて協力した
第六十八話 OLAと、初めて協力した
前話までのあらすじ
三音節の言葉がGOL、道が開く、という意味の可能性が出てきた。
ランセルの古い記録にGUL・TNAという言葉があった。道が開く前に特定の存在が来る、という意味。
OLAは警告を伝えていた。向こうも道が開くことを望んでいないかもしれない。
王様が「来るべくして来て、やるべきことをやって、帰るべくして帰る。それが全体の話かもしれない」と言った。
六回目の訪問は、五回目から一週間後だった。
今回は田中、レオン、カラ、アレンの四人で来た。
アレンは「今回は俺も行きたい」と言った。
「理由はありますか」とレオンが聞いた。
「俺が最初に見た。だから、最後まで一緒にいたい」とアレンが言った。
「最後まで、というのは」とレオンが聞いた。
「OLAと何かが解決するまで」とアレンが言った。
田中は、アレンを連れてきた。
岩場に着いた。
OLAは今日も来ていた。
今回は、岩場の上ではなかった。
田中たちが来た道の途中に、すでにいた。
「待っていたんですか」とカラが言った。
「そうかもしれません」と田中が言った。
「田中殿たちが来ることを、知っていた」
「前回も、こちらに向かってきていました。今回は、待っていた」
「信頼が生まれています」
「そうですね」
田中はOLAに近づいた。
「OLA」
OLAが前足を踏んだ。
「TNA」とOLAが言った。
「はい」と田中が言った。
OLAが、三音節の言葉を言った。
GOL。
「GOL」と田中が繰り返した。
OLAが肯定の音を出した。
「GOLは、道が開くという意味だと理解しています」と田中が言った。
OLAは田中を見た。
「田中殿、北を示してみてください」とカラが言った。
田中は北を示した。
「GOL、北」と田中が言った。
OLAが強く前足を踏んだ。
「そうです。北で道が開く、ということを確認しています」とレオンが言った。
「はい」と田中が言った。
それから、田中は試みた。
前回からずっと考えていたことだった。
田中は南を示した。
「TNA、GOL、止める」
この言語圏に「止める」という音があるかどうかは、わからなかった。
ただ、動作を加えた。
両手を前に出して、止める、という動作をした。
OLAが、少し動いた。
田中の動作を見ていた。
「反応していますね」とカラが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「田中殿の意図が伝わっているかどうか」
「確かめてみます」
田中は、もう一度試みた。
今度は、レオンが教えてくれたこの言語圏の「止める」に近い音を使った。
「GOL、止」
止、に近い音を出した。
OLAが、動いた。
今度は、今まで見たことがない動作をした。
両方の前足を、同時に地面に置いた。
「あれは」とアレンが言った。
「見たことがない動作です」とカラが言った。
「どういう意味だと思いますか」
「わかりません。ただ、止まった動作に見えます」
「止まった」
「両足を地面に置いて、動かない。止まっている」
「GOLを止める、という動作を示したのかもしれません」とレオンが言った。
「そうかもしれません」と田中が言った。
「OLAも、止めたい」
「止めたい、か、または、止めることができる、ということかもしれません」
「どちらかはわかりませんが、GOLを止める、という概念がOLAに伝わった可能性があります」
「そうですね」
田中はOLAを見た。
「OLA、TNA、GOL、止」
田中は、両足を地面に置く動作を真似した。
OLAが、肯定の音を出した。
「肯定しました」とレオンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「田中殿とOLAが、GOLを止めることで合意している、という状況です」
「そうかもしれません。まだ、合意とまでは言えないかもしれませんが」
「方向としては、同じを向いている」
「そうです」
それから、一時間、田中とOLAは過ごした。
完全に言葉が通じたわけではなかった。
ただ、音と動作を使って、少しずつ意思を伝え合った。
OLAが北の方向を示した。
田中も北を示した。
OLAが山脈に向かって、何か音を出した。
長い音が続いた。
田中には意味がわからなかった。
ただ、聞いた。
OLAが止まった。
田中を見た。
田中は頷いた。
頷く動作がOLAに伝わるかどうかはわからなかった。
ただ、やってみた。
OLAが、少し首を動かした。
「あの動作は何ですか」とアレンが言った。
「わかりません。ただ、田中殿の動作に反応しているようです」とカラが言った。
「田中殿の動作を真似しているのかもしれません」
「そうですね」
「OLAが田中殿の動作を学んでいるように見えます」
「田中も、OLAの音を学んでいます」と田中が言った。
「お互いに学んでいる」
「そうですね」
OLAがまた音を出した。
今回は短い音が連続した。
レオンが聞いていた。
「タナカ、少し聞き取れた気がします」
「どんな音ですか」
「OLAが出す音に、繰り返しのパターンがあります。一つの音が二回続いています」
「二回続く」
「はい。例えば、SKO・SKOという感じです。同じ音が繰り返される」
「それは、強調しているということですか」
「強調か、または、急いでいる、という意味かもしれません。この言語圏でも、同じ音を繰り返すことで強調や緊急性を表すことがあります」
「OLAが急いでいる、ということですか」
「そうかもしれません」
田中はOLAを見た。
OLAが北を示した。
それから、同じ音を何度も繰り返した。
「急いでいます」と田中が言った。
「そうだと思います」とレオンが言った。
「北の状況が、急いでいる」
「そうです。GOLが近い、ということかもしれません」
「タイムラインが早まっているということですね」
「そうかもしれません」
田中は少し考えた。
「OLA、GOL、いつ」
「いつ」に近い音を出してみた。
OLAが反応した。
動作を見せた。
太陽の方向を示した。
それから、指の数を示すような動作をした。
「太陽、三つ」とカラが言った。
「三日、ということですか」
「そうかもしれません」
「三日後にGOLが来る可能性がある」
「そう解釈できます」
三人が静かになった。
アレンが言った。
「タナカさん、三日後ですか」
「OLAの示した動作が、そういう意味だとすれば」
「確実ですか」
「確実ではありません。ただ、急いでいることは確かです」
「どうしますか」
「今日中に、三国に伝えます。OLAとの話の内容を全部共有します」
「わかりました」
「アレン、今日すぐ城に戻れますか」
「戻れます」
「ロイド卿に、今夜中に報告してください。明日の朝、私から詳細を話します」
「わかりました。今すぐ出ます」
「ありがとうございます」
アレンは馬に乗って、先に戻っていった。
田中はOLAを見た。
「OLA、TNA、戻る」
戻る、という動作を示した。
去っていく動作だ。
OLAが、動いた。
田中に向かって、一歩近づいた。
今まで最も近い距離だった。
一メートルほどだった。
田中は動かなかった。
OLAが、低い音を出した。
長い音だった。
それから、OLAは田中から離れた。
ゆっくりと、岩場の方に戻っていった。
「田中殿、今の音、何だったと思いますか」とカラが言った。
「わかりません。ただ、別れの言葉かもしれません」と田中が言った。
「そうかもしれません」
「また来る、という意味かもしれません」
「そうですね」
「次に会えるかどうかは、わかりません」
「三日後にGOLが来るとすれば」
「そうですね」
「田中殿、次に会ったとき、OLAに何を伝えたいですか」
田中は少し考えた。
「GOLを止めるために、TNA、OLA、三国が一緒に動く、ということを伝えたいです」
「一緒に動く、ということを」
「そうです。OLAは一人で伝えに来てくれた。こちらも、一人ではないということを伝えたいです」
「田中殿、それは、大事なことですね」
「そうですね」
「OLAに、味方がいる、ということを伝える」
「そうです」
「それができれば、本当の意味で協力できます」
「そうなるといいですね」
カラはしばらど田中を見た。
「田中殿、一つだけ言っていいですか」
「どうぞ」
「今日、田中殿とOLAが、初めて同じ方向を向きました。それが今日の一番大事なことだと思います」
「そうですね」
「GOLを止めるという同じ目標を持った。言葉は通じなくても、目標が同じなら、協力できます」
「そうですね」
「それが、田中殿のやり方ですよね」
「そうですね」
「魔王軍とも、ランセルとも、バルト卿とも、グレイドとも。目標が同じなら、話し合える」
「そうです」
「今日、OLAとも同じになりました」
「そうですね」
「田中殿は、最初からそれを目指していましたか」
「目指していたというより、やってみたらそうなりました」
「田中殿らしいですね」
「そうかもしれません」
帰り道。
田中とレオンとカラの三人で馬を進めた。
山脈が背後に見えた。
大きかった。
「タナカ、三日後に何が起きると思いますか」とレオンが言った。
「わかりません。ただ、備えます」と田中が言った。
「備えるとは」
「三国に伝える。ロイド卿と軍の準備を確認する。OLAとの対話の内容を全部共有する。それだけです」
「それだけですか」
「今できることは、それだけです」
「向こうが来たら、どうしますか」
「来てから考えます」
「来てから」
「来る前に全部考えようとすると、動けなくなります。来てから、その場でできることをやります」
「やってみないとわからない、ですね」
「そうです」
「わかりました」
「レオン、今日の記録を整理してもらえますか。今夜中に三国へ送りたいです」
「はい。今夜中にやります」
「ありがとうございます」
「カラさんも、今日の記録を送っていただけますか。ランセルへ」
「今日中に送ります」
「ありがとうございます」
田中は馬を進めながら、メモアプリを開いた。
【六回目の訪問・記録】
・OLAが待っていた。信頼が生まれている。
・GOLを止める、という意思をOLAに伝えた。OLAが肯定した。
・OLAが急いでいるサインを出した。三日後の可能性を示した。
・OLAが一メートルまで近づいた。今まで最も近い距離。
・今日、OLAとTNAが同じ方向を向いた。
最後に一行書き足した。
・三日後に何かが来るかもしれない。ただ、一人ではない。OLAも、同じ方向を向いている。
次回「第六十九話 三日目の朝、山脈が光った」へつづく




