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異世界に転生したのに。また中間管理職でした。  作者: しーするー
第3章 王様と魔王が同じ席に座った日
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第六十七話 三音節の意味が、わかった

第六十七話 三音節の意味が、わかった


前話までのあらすじ

OLAが初めてこちらに来た。二メートルまで近づいた。

OLAがTNAと田中の名前を呼んだ。南と北の方向を確認し合った。

OLAが三音節の言葉を出した。意図がある言葉だったが、意味はわからなかった。

「今日、OLAに名前を呼ばれた。それが今日一番大事なことだった」とメモに書いた。


 五回目の訪問から三日後。

 田中は図書室にいた。

 レオンと一緒に、OLAの音の記録を整理していた。

 今まで五回分の音のパターンを、一枚の羊皮紙に並べた。

 挨拶の音。

 名前。

 方向を示す音。

 肯定の音。

 そして、三音節の言葉。

「レオン、三音節の言葉を分解すると、どうなりますか」

「はい。一音目はG音に近い音です。二音目はO音。三音目はL音です。GOLに近い音です」

「GOL」

「ただ、この言語圏でGOLに近い意味を持つ言葉は、今のところ見つかっていません」

「別の言語圏ではどうですか」

「ランセル語では、GULという言葉があります。崩れる、または開く、という意味です」

「崩れる、または開く」

「そうです。音が近いです。GOLとGUL」

「それは」

「道が開く、ということかもしれません」とレオンが言った。

「そうかもしれません」と田中が言った。

「あるいは、山脈が崩れる、ということかもしれません」

「どちらにしても、同じことを示している可能性があります」

「そうですね。山脈が崩れることで、道が開く」

「OLAは、それを伝えようとしていた」

「そう考えると、一貫しています。OLAが何度も北を示していた。三音節の言葉を何度も繰り返していた。北の山脈が崩れて道が開く、ということを伝えようとしていた」

「向こうから、警告を伝えてくれていた」

「そうかもしれません」

 田中はしばらど羊皮紙を見た。

「レオン、これは確認が必要です」

「どうやって確認しますか」

「次回、OLAに会ったとき、GOLという音を使って、田中が理解しているかどうかを確認します」

「どうやって」

「OLAが以前、北の方向と山脈を示しました。GOLという音を、そこに組み合わせてみます。OLAが肯定の音を返してくれれば、理解が合っている可能性があります」

「なるほど」

「また、ランセルのカラさんに確認してもらいます。GOLとGULが同じ意味を持つかどうか、ランセルの古い記録に何か残っていないかを」

「わかりました。カラさんに手紙を書きます」

「ありがとうございます」

「タナカ、一つだけ」

「はい」

「もし三音節がGOL、道が開く、という意味なら、OLAは田中殿に警告を伝えていたことになります」

「そうですね」

「向こうの生き物が、こちらに警告を伝えようとしていた」

「そうです」

「それは、OLAがこちらを敵と思っていないということですか」

「少なくとも、危険を知らせようとしている。危険を知らせるのは、相手を助けようとしているときだと思います」

「OLAが、こちらを助けようとしている」

「可能性として」

「そうだとすれば、向こうの生き物も、道が開くことを望んでいないかもしれません」

「そうかもしれません。向こうも、道が開くことで困っている可能性があります」

「向こうも、板挟みかもしれません」

 田中は少し止まった。

「向こうも、板挟み」

「北の向こうの何かに押されて、南に来ている。でも、道を開けることを望んでいない。その間で、動けなくなっている」

「そうかもしれません」

「タナカ、魔王軍がこの国に侵攻してきた理由も、北から押されていたからでしたね」

「そうですね」

「OLAも、同じ構造かもしれません」

「そうかもしれません」

「田中、それは、OLAと本当に話し合える可能性があるということですよね」

「そうです。同じ問題を抱えているなら、話し合える」

「魔王軍と同じです」

「同じです」


 その日の夕方、カラから返事が来た。

 レオンが翻訳した。

「タナカ、カラさんから返事です。GOLについて調べてくれました」

「どんな内容ですか」

「ランセルの古い記録に、GULという言葉が出てきます。意味は、大きな変化が来る、または、道が開く、です。山脈に関連する記録に何度か出てきます。GOLとGULは同じ語源から来ている可能性があると書いています」

「やはり、同じ意味に向かっています」

「そうです。カラさんは、OLAが警告を伝えていたと思う、と書いています」

「カラさんも同じ見立てですね」

「はい。そして、一点追加情報があります」

「なんですか」

「同じ記録の中に、GULの後に続く言葉があります。GUL・TNAという組み合わせで使われている箇所があります」

「GUL・TNA」

「はい。意味は、道が開く前に、人が来る、というような意味です」

「道が開く前に、人が来る」

「そうです。GULが起きる前に、TNAという存在が来る、という記録です」

「TNAという言葉が、古い記録に出てくるんですか」

「そうです。カラさんも驚いていました。田中殿の名前と同じ音です」

「……それは、偶然ですか」

「カラさんは、偶然かもしれないし、偶然ではないかもしれない、と書いています」

「どういう意味ですか」

「古い記録に、GULが起きる前にTNAという存在が来る、という話が残っていた。そして実際に、田中殿がこの世界に来た。偶然とは言い切れない、ということです」

 田中はしばらど黙った。

「タナカ、大丈夫ですか」

「大丈夫です。少し、驚いています」

「そうですね。これは、驚く話です」

「私が来ることが、古い記録に残っていた可能性がある、ということですか」

「そうかもしれません」

「それは、私が来るべくして来た、ということかもしれません」

「そうかもしれません」

「あるいは、この世界に来る人間が現れたとき、その人間がTNAと呼ばれるだけかもしれません」

「そうかもしれません。どちらが正しいかはわかりません」

「わかりません」

 田中はメモに書いた。

 ・GOL:道が開く、または大きな変化が来る、という意味の可能性。GULと同語源。

 ・GUL・TNA:道が開く前に、特定の存在が来る、という古い記録がランセルにある。

 ・OLAの三音節:GOLを伝えていた可能性が高い。OLAは警告を伝えていた。


 翌日、田中は王様に報告した。

「OLAが伝えていた三音節の言葉の意味が、わかってきました」

「なんだ」

「道が開く、または大きな変化が来る、という意味の言葉です」

「OLAが、警告を伝えていたのか」

「そうだと思います」

「向こうの生き物が、こちらに警告を」

「はい。OLAも、道が開くことを望んでいないかもしれません」

「向こうも、板挟みということか」

「そうかもしれません」

「田中、そうだとすれば、OLAと協力できる可能性があるということか」

「そうです。共通の問題があれば、話し合えます」

「魔王軍と同じだな」

「同じです」

 王様はしばらど考えた。

「田中、もう一点聞いていいか」

「はい」

「ランセルの古い記録の話を聞いた。GUL・TNA、道が開く前に特定の存在が来る、という記録だ」

「はい」

「それが、お前のことかもしれないと」

「可能性として」

「お前は、そのことをどう思っているんだ」

「…まだ、整理できていません」

「整理できていないか」

「はい。帰るかどうかという問いと、来るべくして来たという話が、頭の中で混在しています」

「整理できないまま、どうするんだ」

「やることがある限り、動きます」

「そうか」

「はい」

「田中、一つだけ」

「はい」

「お前が来るべくして来たとしたら、帰ることも、来るべくして来たことの一部かもしれないな」

「どういう意味ですか」

「来るべくして来て、やるべきことをやって、帰るべくして帰る。それが全体の話かもしれない」

「そうかもしれません」

「ならば、帰ることを恐れる必要はない。やることをやって、帰るときが来れば帰る。それだけだ」

 田中は少し止まった。

「……王様は、それで納得できますか」

「納得できない。ただ、そうかもしれないと思っている」

「そうですか」

「お前がいなくなるのは、余は嫌だ。ただ、お前が帰るべき理由があるなら、止めるのは余の都合だ。余の都合で止めることはしない」

「……ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えたな」

「今日は、言わないわけにいかないので」

「そうか」

「はい」

「田中、今日もやることがあるんだろう」

「あります」

「動けるか」

「動けます」

「では、動こう」

「はい」


 夕方、田中は一人で中庭に出た。

 空が橙色だった。

 夕日が沈んでいた。

 田中はしばらど空を見た。

 来るべくして来た、かもしれない。

 帰るべくして帰る、かもしれない。

 それが全体の話かもしれない。

 田中は少し、その言葉を頭の中で繰り返した。

 受け入れられるかどうかは、まだわからなかった。

 ただ、少し、楽になった気がした。

 やることをやって、帰るときが来れば帰る。

 それだけだ。

 田中はメモアプリを開いた。

 一行書いた。

 ・王様が言った。「来るべくして来て、やるべきことをやって、帰るべくして帰る。それが全体の話かもしれない」。

 書いてから、もう一行書き足した。

 ・今は、やるべきことがある。だから、動く。

 田中は中庭から、城の中に戻った。

 廊下を歩いた。

 石畳の音が響いた。

 今日も、やることがある。

 それだけで、動ける。

 田中はいつもの歩き方で、廊下を歩いた。


次回「第六十八話 OLAと、初めて協力した」へつづく

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