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異世界に転生したのに。また中間管理職でした。  作者: しーするー
第3章 王様と魔王が同じ席に座った日
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第六十二話 内乱の後始末は、また別のやることだった

第六十二話 内乱の後始末は、また別のやることだった


前話までのあらすじ

夜明け前、バルト卿の兵士が城下町の港区画を占拠した。

バルト卿の命令ではなく、兵士たちが独自に動いた。バルト卿を守りたかっただけだった。

バルト卿本人が兵士に話をして、二時間で収まった。

「一人でやらなかった。それが二時間で収まった理由だ」とメモに書いた。


 内乱が収まった朝。

 田中は王様に報告した。

 ロイドが一緒だった。

 王様は報告を聞いた。

 黙って聞いた。

 最後まで聞いた。

「二時間で収まったのか」

「はい」

「田中が動いたからか」

「ガルド卿、ロイド卿、レオン、バルト卿が動いてくれたからです」

「また同じことを言う」

「事実なので」

「わかった」

 王様はしばらど考えた。

「バルトは、今後どうなる」

「バルト卿は、田中殿についていくと言ってくれました。情報共有を続けながら、協力体制を作っていきます」

「グレイドは」

「魔王城側の問題です。魔王陛下とシアさんが対処しています。ただ、グレイドと話した結果、方向は見えていると思います」

「余は何かすべきか」

「バルト卿への対応について、陛下からバルト卿に一言かけていただけると助かります」

「責めない、ということか」

「そうです。バルト卿は間違えましたが、すぐ対処しました。それを認めていただくと、バルト卿が動きやすくなります」

「わかった。バルトを呼ぶ」

「ありがとうございます」

「田中」

「はい」

「よくやった」

「皆さんが動いてくれました」

「それも含めて、よくやった。お前が皆を動かせる状態にしてきたからだ」

「……ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えたな」

「今日は、受け取る余裕があります」

「余裕があるか」

「少しだけ」

「そうか。少しでもあれば十分だ」


 午前中、ガルドを訪ねた。

「昨夜は助かりました」

「余は情報を集めただけだ」

「その情報があったから、動けました」

「田中、一つだけ」

「はい」

「バルトの兵士が独自に動いたのは、余の調査が足りなかったからかもしれない」

「そうですか」

「余が集めた情報は、グレイドとバルトの接触だった。ただ、バルトの兵士の動きまでは把握できていなかった。もっと深く調べれば、事前に防げたかもしれない」

「防げたかどうかはわかりません。ただ、ガルド卿が動いてくれたから、発生後に二時間で収められました」

「後手に回った、ということだ」

「後手に回りましたが、早く対処できました。それで十分だと思います」

「田中は、甘いな」

「そうかもしれません。ただ、全部を先手で防ぐのは難しいです。防げなかったとき、早く対処できるかどうかの方が、長い目で見ると重要だと思います」

「後手でも、早く対処できれば良い、か」

「そうです。先手を打てるに越したことはないですが、全部は無理です。後手を想定した仕組みも大事です」

「なるほど」

「今回、ガルド卿がいてくれたから、早く対処できました。その仕組みが機能しました」

「余が仕組みの一部になった、ということか」

「そうです」

「田中、余はお前から多くを学んだな」

「ガルド卿が身につけたものです」

「また同じことを言う。ただ、今日は反論しない」

「そうですか」

「反論する元気がない」

「そうですか」

「昨夜から動いていた。疲れた」

「お疲れ様でした」

「田中は疲れていないのか」

 田中は少し考えた。

「疲れています」

「疲れているのか」

「はい。今日は少し疲れています」

「珍しいな。お前が疲れたと言うのは」

「今日は、言える気がしました」

「なぜだ」

「皆さんが動いてくれたからだと思います。一人で全部やっていると、疲れたと言えない。でも、皆さんが動いてくれると、疲れたと言える余裕ができます」

「余裕、か」

「そうです」

「田中、今日は早く休め」

「やることが終わったら」

「やることが終わる前に休め」

「それは難しいです」

「難しいのはわかっている。ただ、今日くらいは」

「善処します」

「善処は無理するときの言葉だと、誰かに言われたんじゃないか」

「レオンに何度も言われています」

「では、努力します、くらいにしておけ」

「努力します」

「それでいい」

 田中は立ち上がった。

「ガルド卿、今日もありがとうございました」

「礼はいい」

「今夜は早く眠ってください」

「田中に言われるとは思わなかった」

「疲れているとおっしゃっていたので」

「……そうだな。今夜は早く眠る」

「ありがとうございます」

「余に礼を言うのか」

「早く眠っていただけると、明日もガルド卿が動けます。それがありがたいです」

「合理的だな、相変わらず」

「そうですか」

「まあ、悪くない」


 午後、田中はシアに手紙を書いた。

 内乱の経緯と結果を報告した。

 バルト卿の兵士が独自に動いたこと、バルト卿が対処したこと、二時間で収まったこと。

 グレイドとの件については、魔王陛下とシアさんに任せると書いた。

 ただ、一点だけ追加した。

 『グレイドの懸念は、この城を守りたい、という気持ちから来ています。バルトの兵士の行動も、同じ種類の気持ちから来ていました。守りたいという気持ちは、間違った方向に出ることがありますが、気持ち自体は理解できます。グレイドを追い詰めずに、守りたいものを守れる役割を示す方向で対処できれば良いと思います』

 書いてから、レオンに見せた。

「どうですか」

「……シアさんに、グレイドへの対処方法を示しているんですね」

「そうです。シアさんがどう動くかはシアさんが判断しますが、参考になるかもしれないので」

「タナカは、魔王城のことも考えていますね」

「繋がっているので」

「一国の補佐官じゃないですね、もう」

「そうかもしれません」

「どちらの補佐官かわからない、という話が前にありましたよね」

「そうですね」

「今は、どちらの補佐官だと思いますか」

「やることがある方向の補佐官です」

「前と同じ答えですね」

「同じことしか言えないですが、本当にそうなので」

「わかりました。封じます」


 夕方、アレンが田中を訪ねてきた。

「タナカさん、今日は大変でしたね」

「そうでしたね」

「俺、何もできませんでした」

「そうですか」

「夜明け前に起きたと聞いて、行こうとしたんですが、レオンさんにここで待機するよう言われて」

「レオンが言ったんですか」

「はい。タナカさんのやることに、俺の出番はないと言われました」

「そうですね。今回は、剣が必要な場面ではありませんでした」

「わかっています。ただ、何か役に立ちたかった」

「役に立っていますよ」

「どうやってですか。何もしていないのに」

「アレンさんが山脈の巡回を続けてくれているから、北の情報が入ってきます。それがあるから、内乱の問題にも集中できました。全部が繋がっています」

「でも、今日は直接は関わっていません」

「直接関わらないことが、今日のアレンさんの役割だったと思います」

「役割、か」

「そうです。みんなが同じことをする必要はないです。アレンさんは、アレンさんにできることをしています。それが全体を支えています」

 アレンはしばらど考えた。

「……わかりました。ただ、一つだけ聞いていいですか」

「どうぞ」

「次に何か起きたとき、俺が役に立てる場面はありますか」

「あります。必ずあります」

「いつですか」

「向こうとの対話が進んだとき、アレンさんに一緒に来てほしいと思っています」

「向こうとの対話に、俺が」

「はい。アレンさんは向こうの生き物を最初に目視した人間です。向こうも、アレンさんを知っているかもしれません」

「そうか」

「来てもらえますか」

「もちろんです。絶対に行きます」

「ありがとうございます」

「タナカさん、今日は疲れましたか」

「疲れました」

「珍しいですね、正直に言うのが」

「今日は、言えます」

「なんでですか」

「皆さんが動いてくれたからだと思います。一人でやっていると、疲れたと言えない。でも今日は、皆さんがいたので」

「俺もその一人ですか」

「そうです」

「俺は何もしていないけど」

「いてくれるだけで、十分です」

「いるだけで、か」

「そうです」

「タナカさんみたいな言葉ですね」

「そうですか」

「タナカさんが以前、俺に言ってくれた言葉です。外で待っているだけで、役に立つと」

「そうでしたね」

「今日、俺も同じ気持ちでいました。外で待っているだけでも、タナカさんが戻ってくる場所があると思って」

「そうでしたか」

「そうです。今日、タナカさんが戻ってきたとき、良かったと思いました」

「ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えましたね」

「今日は言える日です」

「昨日も言える日でしたよね」

「そうでしたね」

「だんだん言える日が増えていますね」

「そうですね」

「良いことだと思います」

「そうかもしれません」


 夜、田中は部屋に戻った。

 レオンが待っていた。

「タナカ、今日のやること、全部終わりましたか」

「ガルド卿、王様、ロイド卿、シアへの手紙、アレン。全員と話しました」

「終わりましたね」

「終わりました」

「では、今日は終わりです」

「はい」

「約束ですか」

「約束です」

「良かったです」

「レオン、今日もありがとうございました」

「当たり前です」

「当たり前でも、ありがたいです」

「毎回そう言いますね」

「毎回、本当にそう思っているので」

 レオンは少し目が赤くなった。

「タナカ、一つだけ」

「はい」

「今日、タナカが疲れたと言っていました」

「言いました」

「それが聞けて、良かったです」

「そうですか」

「タナカが疲れたと言えるようになったのは、良い変化だと思います」

「そうですか」

「一人で全部抱えなくなった証拠だと思います」

「そうかもしれません」

「これからも、疲れたと言ってください」

「わかりました」

「約束ですか」

「約束です」

「良かったです」

 レオンは部屋を出た。

 田中は一人になった。

 窓を開けた。

 夜風が入ってきた。

 星が多かった。

 今日は、少し違う夜だった。

 田中はメモアプリを開いた。

 【本日の完了事項】

 ・王様への報告:完了。

 ・ガルドへの報告:完了。

 ・シアへの手紙:送付済み。

 ・アレンとの話:完了。

 ・今日のやること:終わり。

 「今日のやること:終わり」という一行を見た。

 最近、こういう締め方ができるようになってきた。

 田中は最後にもう一行書き足した。

 ・今日、疲れたと言えた。それが、今日一番の変化だったかもしれない。

 窓を閉めた。

 ベッドに横になった。

 目を閉じた。

 すぐに眠れた。

 今日は、本当に疲れていた。

 でも、疲れたと言えた。

 それだけで、少し、楽だった。


次回「第六十三話 王様が、初めて一人で判断した」へつづく

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