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異世界に転生したのに。また中間管理職でした。  作者: しーするー
第3章 王様と魔王が同じ席に座った日
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第五十一話 会談後、各国に持ち帰った結果は

第五十一話 会談後、各国に持ち帰った結果は


前話までのあらすじ

ランセルを訪問した。ミラが五年前から北の問題を一人で記録してきたことがわかった。

五年分の記録を三国で共有することになった。

「三国が本当の意味で同じ方向を向き始めた。これが次の始まりだ」とメモに書いた。

帰り道、レオンが「タナカが向こうと話すとき、私もついていっていいですか」と言った。


 ランセルから戻って、一週間が経った。

 田中は朝、メモアプリを開いた。

 【会談後・各国の状況確認リスト】

 一、この国の貴族への説明:ガルドと一緒にやる予定。

 二、魔王城の幹部への説明:シアが担当。状況を確認する。

 三、ランセルの議会への説明:ミラが担当。状況を確認する。

 四、三国の情報の統合:ミラの五年分の記録が届いたら始める。

 四点書いてから、田中は少し考えた。

 一点目から始めよう。

 貴族への説明は、ガルドと一緒にやると決めていた。

 今日、ガルドを訪ねる。


 ガルドの部屋に行った。

「会談の結果について、貴族への説明の準備を始めたいのですが」

「待っていた」

「いつ頃が良いですか」

「来週の初めに集まれるか、確認する。それまでに資料を作ってくれ」

「わかりました。資料の内容について、事前に確認していただけますか」

「構わない。できたら持ってこい」

「ありがとうございます」

「田中、一点だけ確認したい」

「はい」

「会談の合意内容を貴族に説明するとき、北の問題のタイムラインが縮まった話もするのか」

「します」

「それは、不安を煽る可能性がある」

「その通りです。ただ、隠すと後で信用を失います」

「それはわかっている。ただ、説明の順番が大事だということを言いたかった」

「順番、ですか」

「不安を煽る情報を先に出すと、その後の話が入らなくなる。先に対処の話をしてから、問題の話をした方が、受け取りやすい」

 田中は少し考えた。

「……それは、正しいですね」

「余が月次報告から学んだことだ」

「月次報告の構成を参考にしてくれたんですか」

「そうだ。いつも、現状、課題、対処の順番で書いてあった。それが読みやすかった。今回も同じ順番にすればいい」

「現状、対処、課題、ですね。課題を最後に持ってくる」

「そうだ。対処があった後に課題を出すと、乗り越えられる感じがする」

「ガルド卿、それは良い提案です」

「お前に言われると、少し照れるな」

「本当のことです」

「わかった。資料の順番、そうしてくれ」

「かしこまりました」


 資料を作りながら、田中はシアに手紙を書いた。

 魔王城の幹部への説明状況を確認する内容だった。

 返事は二日後に来た。

 シアからだった。

 内容を読んだ。

 レオンが横で翻訳してくれた。

「幹部への説明は、一部で難航しているようです」

「難航、というのはどういう意味ですか」

「シアさんによると、強硬派の幹部二名が、この国との協力に反対しているとのことです」

「理由は」

「長年の敵と協力するのは、矜持に関わる、という意見だそうです」

「矜持、か」

「感情的な反発ですね」

「そうですね。数字では動かない種類の反発です」

「シアさんはどう対応しているんですか」

「魔王陛下が直接話をしているとのことです。ただ、二名のうち一名はまだ納得していない」

「一名、ですか」

「はい。名前はグレイドという幹部です。軍の強硬派の中心人物で、長く魔王軍にいる人物だそうです」

 田中はメモに書いた。

 ・魔王城:幹部グレイドが反対。強硬派。矜持の問題。数字では動かない可能性。

「シアさんは、田中に何か頼みたいことがある、と書いていますか」

「……書いています」

「何と」

「グレイドと話してもらえないか、とのことです」

「私が、ですか」

「田中殿なら話が通じるかもしれない、という判断のようです」

 田中は少し考えた。

 グレイドという人物に会ったことはない。

 ただ、強硬派で、矜持に関わる問題で動かない人間、というのは、どんな種類の人間か、少し想像できた。

「シアさんへの返事を書きます。会いに行きます、と」

「魔王城にまた行くんですか」

「行きます。ただ、今回は来月のシアとの月次情報交換に合わせて行きます。そのときにグレイドとも話せるか、確認してもらいます」

「効率的ですね」

「一回の移動で二つできます」


 次の日、ミラからも手紙が来た。

 レオンが読んだ。

「ランセルの議会への説明は、概ね順調とのことです」

「概ね、というのは」

「一点だけ問題があります。議会の中の一派が、この国と魔王軍が停戦していることへの懸念を示しているとのことです」

「懸念の内容は」

「停戦が崩れた場合、ランセルが巻き込まれるリスクがある、ということだそうです」

「正当な懸念ですね」

「そうですね。ミラ公王は、どう対応するつもりですか」

「手紙には、田中殿に何か良い説明の仕方があれば教えてほしい、とあります」

「なるほど」

 田中はしばらど考えた。

「停戦が崩れた場合のリスクと、停戦が続いた場合の利益を、数字で比較する資料を作ります。ミラ公王に送ります」

「数字で比較するんですね」

「感情的な懸念は、数字で整理すると判断しやすくなります」

「セルム卿に似た対応ですね」

「同じ種類の問題です」

「なるほど」

「あと、停戦が崩れた場合のリスクの中に、北の問題が悪化した場合の話も入れます」

「北の問題が悪化したら、停戦どころではなくなる、ということですか」

「そうです。北の問題の前では、三国が協力している方が有利だ、という話を入れれば、停戦への理解が得やすくなります」

「なるほど」

「ミラ公王に確認してから使ってもらいます」

「わかりました。資料を作ったら、私が翻訳します」

「ありがとうございます」


 夕方、王様に現状を報告した。

「各国の状況です。この国は来週、貴族への説明会を開きます。ガルド卿と一緒にやります」

「ガルドが先に話すんだったな」

「はい」

「ガルドが動いてくれるのは、助かる」

「そうですね」

「魔王城はどうだ」

「一名の幹部が反対しています。来月、私が会いに行きます」

「また魔王城に行くのか」

「月次情報交換に合わせて行きます」

「わかった。ランセルは」

「議会の一部に懸念がありますが、ミラ公王が対応中です。資料を送ります」

「どこも一筋縄ではいかないな」

「そうですね。ただ、問題の種類が見えているので、対処できます」

「問題の種類が見えている、か」

「はい。この国の貴族は、情報と対処を示せば動きます。魔王城の幹部は、矜持の問題なので別のアプローチが必要です。ランセルの議会は、リスクと利益の比較で動きます。それぞれ違う対処が必要です」

「一つのやり方では全部に対応できないな」

「そうです。相手によって、話し方を変えます」

「それをお前はいつも自然にやっているな」

「意識したことはないですが、そうしてきました」

「元の世界でも、そうだったのか」

「そうだったと思います。上司と部下と取引先で、話し方が全部違いました」

「それが染みついているんだな」

「そうかもしれません」

 王様はしばらど考えた。

「田中、一つだけ聞いていいか」

「はい」

「最近、元の世界のことを考えるか」

 田中は少し止まった。

「……たまに、考えます」

「どんなことを考える」

「元の世界で、まだやりかけのことがあるな、と」

「やりかけのこと」

「はい。引き継ぎメモを書いていなかった案件があります」

「案件、か」

「はい。帰るタイミングがわからないので、気になっています」

「帰るタイミング、か」

「まだわかりません」

「余は、お前に帰ってほしくないと思っている」

「そうですか」

「ただ、お前の元の世界にも、やることがあるんだろう」

「そうかもしれません」

「難しいな」

「難しいです」

 二人でしばらど黙った。

「田中」

「はい」

「今はここにいてくれ」

「はい」

「今は、やることがある」

「そうですね」

「帰るときは、言ってくれ」

「言います」

「約束か」

「約束です」

 王様は頷いた。

 田中は頭を下げた。

 部屋を出ながら、メモに書いた。

 【本日の完了事項】

 ・ガルドとの打ち合わせ:貴族説明会の準備。資料の順番を現状→対処→課題に変更。

 ・シアからの返事:幹部グレイドが反対。来月、魔王城訪問時に話す。

 ・ミラからの手紙:議会の一部に懸念。数字で比較する資料を作成して送る。

 ・王様への報告:完了。元の世界の話になった。

 最後に一行書き足した。

 ・王様が「帰るときは言ってくれ」と言った。約束した。

 田中はメモを見た。

 帰るとき。

 まだ、そのときがいつか、わからない。

 ただ、王様が言ってくれた言葉は、重かった。

 田中は窓を開けた。

 夜風が入ってきた。

 星が多かった。

 今夜も、早めに眠ろうと思った。

 やることは、まだある。

 ただ、今夜は、少し、先のことを考えた。

 元の世界。

 この世界。

 どちらにも、やることがある。

 どちらにも、待っている人がいる。

 田中は窓を閉めた。

 答えは、まだ出なかった。

 ただ、今夜は、それでいいと思った。


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