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異世界に転生したのに。また中間管理職でした。  作者: しーするー
第3章 王様と魔王が同じ席に座った日
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第四十八話 王様と魔王が初めて対面した。最初の十分

第四十八話 王様と魔王が初めて対面した。最初の十分


前話までのあらすじ

三者が山の中腹に集まった。

アレンが昨日のうちに一人で下見に来ていた。頼んでいないのに、自分で考えて動いた。

魔王が「最初の十分に田中への感謝を言う」と自分で考えてきた。

魔王とミラが初対面で「思ったより小さいな」を同時に言った。

「これが次の始まりだ」と田中は思いながら、テントに入った。


 テントの中は、外より少し暗かった。

 日差しが布越しに入ってきて、柔らかい光になっていた。

 テーブルが三つ、向かい合う形で並んでいた。

 王様側のテーブルに、王様とレオン。

 魔王側のテーブルに、魔王とシア。

 ランセル側のテーブルに、ミラと随行員一名。

 田中は中央のテーブルに座った。

 議事録用の羊皮紙と羽ペンを確認した。

 全員が座った。

 しばらく、沈黙があった。

 田中は三人を見た。

 王様は少し前を向いていた。

 魔王は腕を組んでいた。

 ミラは周囲を見回していた。

 田中は口を開こうとした。

 その前に、魔王が動いた。


 魔王が立ち上がった。

 全員が魔王を見た。

 魔王は王様を見た。

「余が最初に話してもいいか」

 田中は少し驚いた。

 王様も少し驚いた顔をした。

「構わない」

 魔王はゆっくり話した。

「今日、ここに来られたことを、まず感謝する」

 王様は黙って聞いていた。

「この会談が実現したのは、田中という人間のおかげだ」

 全員が田中を見た。

 田中はメモを取る姿勢のまま、動かなかった。

「田中は、余の城に一人で来た。話を聞いた。問題を整理した。この国とのつながりを作った。余が何年もかけてできなかったことを、短い時間でやった」

 魔王はミラを見た。

「ランセルとのつながりも、田中が作った」

 ミラが頷いた。

「そして今日、ここに三国が集まった。田中がいなければ、この場は存在しなかった」

 魔王は王様に視線を戻した。

「余は、この国と長く争ってきた。あなたと直接話したことは、一度もなかった。今日、初めて顔を合わせる。それは、田中のおかげだ」

 沈黙があった。

 王様はしばらど魔王を見た。

 それから、立ち上がった。

「余も、同じことを思っている」

 王様は田中を見た。

「田中が来てから、この城が変わった。余が変わった。それは事実だ」

 王様は魔王を見た。

「あなたと話すことになるとは、一年前は思っていなかった。ただ、今日こうして同じ場所にいる。田中が段取りをしてくれたから、できた」

 王様は少し間を置いた。

「田中、この場を作ってくれてありがとう」

 田中は少し止まった。

 二人から同時に感謝された。

 田中はメモを取る手を置いた。

「……ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えたな」とシアが小声で言った。

「言えました」と田中が小声で返した。

 ミラが言った。

「私からも言う。田中殿がいなければ、ランセルは今日ここにいなかった。感謝する」

「ありがとうございます」

「田中殿、一つだけ」

「はい」

「今日、田中殿がどれだけ話すかは知らないが、田中殿がいるだけで、この場が安定する。それは確かだ」

「ありがとうございます」

「受け取れたか」

「受け取りました」

「良かった」

 三者全員が座った。

 テントの中が、少し柔らかくなった気がした。

 田中はメモを取り直した。

 羽ペンを持った。

「では、始めてもよろしいですか」

 三者が頷いた。

「最初に、三国の現状を共有します。まず、この国から」


 王様が話した。

 停戦の状況。食料交易の進捗。アレンが目視した生き物のこと。

 田中が補足した。

 数字が必要なところは羊皮紙を出した。

 魔王が話した。

 魔王城の状況。山脈の音の変化。動物の移動。

 シアが補足した。

 ミラが話した。

 ランセルの状況。岩の崩れ。青白い光。川の色の変化。来年のタイムライン。

 田中はメモを取り続けた。

 三国の話が揃ったところで、田中は資料を出した。

「三国の情報をまとめた一枚です」

 それぞれに渡した。

 三者が読んだ。

 しばらく、静かだった。

 魔王が言った。

「三国とも、三ヶ月前から変化が始まっている」

「はい」

「偶然ではない」

「そうだと思います」

「向こう側で、三ヶ月前に何かが起きた」

「可能性があります」

 ミラが言った。

「来年の半ばまでに、山脈に変化が起きる可能性がある」

「はい」

「早ければ来年の春、という見立てもある」

「そうですか」

「私が山脈の専門家に見せたところ、そういう意見が出た」

 田中はメモに書いた。

 ・早ければ来年の春の可能性。専門家の意見。

「王様、ロイド卿にも伝える必要があります」

「わかった」

 魔王が言った。

「田中、三国が協力して北に対処するとして、何が必要だと思うか」

 田中は少し考えた。

「三点あります」

「言え」

「一点目。情報の共有。三国が持っている情報を一か所に集めて、全体像を把握する。今日の会談がその始まりです」

「二点目は」

「各国の準備を進めながら、共通の方針を決める。何が来ても対応できる準備と、三国が同じ方向を向いた方針が必要です」

「三点目は」

「向こうと話す方法を探すことです」

 三者が田中を見た。

「話す方法、とは」と王様が言った。

「はい。向こうの生き物は、アレンと目が合ったとき、攻撃しませんでした。観察して、立ち去った。何かを考えている可能性があります。話せる相手かもしれません」

「向こうと話し合うつもりか」と魔王が言った。

「可能性として持っておきたいと思っています。話し合えれば、戦わずに済む可能性があります」

「話し合えない可能性もある」とミラが言った。

「あります。ただ、試してみないとわかりません」

 三者が少し黙った。

 魔王が言った。

「……田中、お前は何でも話し合おうとするな」

「話し合いで解決できるなら、その方がいいので」

「余も、シアも、ランセルも、田中がそうやって繋いでくれた」

「そうですね」

「向こうとも、そうできるかもしれない」

「できると思っています」

「根拠は」

「今のところ、攻撃してこなかったことです」

「それだけか」

「それだけです。ただ、それが今持っている最も確かな情報です」

 魔王は少し考えた。

「……わかった。試す価値はある」

 王様が言った。

「余も、賛成だ。田中がそう言うなら、方法はあるはずだ」

「方法はこれから考えます」

「考えてくれるか」

「考えます」

 ミラが言った。

「田中殿、一つだけ」

「はい」

「向こうと話し合う役は、誰がやるんだ」

 田中は少し止まった。

「……今のところ、私がやることになりそうです」

「そうか」とミラが言った。

「そうか」と王様が言った。

「そうか」と魔王が言った。

 三者が同時に同じことを言った。

 シアが小声で「田中、逃げ場がないぞ」と言った。

「わかっています」と田中が小声で返した。

「大丈夫か」とシアが言った。

「やることがあるので」と田中が言った。

「また同じことを言う」とシアが言った。

「同じことしか言えないので」と田中が言った。

 テントの中が、少し和やかになった。


 会談は三時間続いた。

 三国の現状共有が終わった。

 今後の連携の枠組みが決まった。

 月次で三国が情報を共有する。ランセル、この国、魔王城の三か所を繋ぐ。

 軍の連携については、ロイドの提案を元に、各国の軍担当者が別途話し合うことになった。

 北への対処方針は、情報収集を続けながら、準備を並行して進める、という中間的な方針で合意した。

 向こうとの対話の可能性については、田中が引き続き方法を探す、という形で保留になった。

 田中は全部、議事録に残した。

 終わり際、田中は三者に議事録を渡した。

「内容を確認して、問題なければサインをお願いします」

 三者が読んだ。

 王様が最初にサインした。

 魔王が次にサインした。

 ミラが最後にサインした。

「田中殿、三国の合意文書を作ったな」とミラが言った。

「はい」

「歴史的な文書だ」

「そうかもしれません」

「田中殿が議事録を取ったから、文書になった」

「形にしておかないと、後で確認できないので」

「相変わらず実務的だな」

「そうですか」

「それが田中殿の強さだ」

「ありがとうございます」

 魔王が言った。

「田中、今日はよくやった」

「ありがとうございます」

「今日だけでなく、今日まで、よくやった」

「……ありがとうございます」

「受け取れたか」

「受け取りました」

「よかった」

 王様が言った。

「田中、帰ったら、飯を食おう」

「はい」

「今日のことを、ゆっくり話したい」

「はい」

「余とシアと、三人で」

「三人で、ですか」

「シアも帰りに城に寄れるか」とシアに言った。

「……寄れます」とシアが答えた。

「では、三人で」と王様が言った。

「かしこまりました」と田中が言った。


 会談が終わった。

 三者がテントを出た。

 外に出ると、空が広かった。

 アレンが外の定位置から駆けてきた。

「タナカさん、どうでしたか」

「うまくいきました」

「本当ですか」

「本当です」

「良かった!」

 アレンは珍しく大きな声を出した。

 田中は少し驚いた。

「アレンさん、外で何もなかったですか」

「何もなかったです。ただ、テントの中から声が聞こえるたびに、ちゃんと話しているんだな、と思っていました」

「声が聞こえましたか」

「少し。怒鳴り声じゃなかったので、安心しました」

「怒鳴り声が心配でしたか」

「王様は感情的になることがあるので」

「それは正しい心配でした」

「でも、怒鳴らなかったですね」

「怒鳴りませんでした」

「王様、成長しましたね」

「そうですね」

「タナカさんのおかげですよ」

「王様が成長したのは、王様の力です」

「またそれを言う」

「事実なので」

 アレンは笑った。

 ロイドが田中の横に来た。

「会談、成功か」

「大筋で合意が取れました」

「軍の連携の件は」

「別途、各国の軍担当者で話し合うことになりました」

「余が出ればいいか」

「よろしくお願いします」

「わかった」

 ロイドは少し間を置いた。

「田中、よくやった」

「ありがとうございます」

「今日だけでなく、今日まで」

「魔王陛下も同じことをおっしゃっていました」

「そうか」

「そうです」

「では、言っておいて良かった」

「はい」

 田中はレオンを見た。

 レオンが笑っていた。

「タナカ、よく言えましたね」

「何がですか」

「ありがとうございます、と」

「三回言えました」

「三回、珍しいですね」

「今日は言える気がしました」

「なぜですか」

「今日は、受け取る準備ができていたので」

 レオンは少し目が赤くなった。

「……タナカ、今日、本当に良かったです」

「ありがとうございます」

「四回目ですね」

「今日は言える日です」

 二人で少し笑った。


 三者がそれぞれの方向に帰り始めた。

 魔王がシアとともに田中のところに来た。

「田中、今夜は城に寄る。王が招いてくれた」

「はい、三人で食事をすることになりました」

「三人で食事か。余と王が同じ席で飯を食うのは、初めてだな」

「そうですね」

「田中がいれば、できそうだ」

「できます」

「頼む」

「かしこまりました」

 魔王は少し田中を見た。

「田中、一つだけ」

「はい」

「今日、余はここに来て良かった」

「そうですか」

「来る前は、不安だった。でも、来て良かった」

「良かったです」

「田中に会って良かった」

 田中は少し止まった。

「……私もです」

「そうか」

「はい」

「では、今夜また」

「はい」

 魔王は歩いていった。

 田中はしばらく立っていた。

 レオンが隣に来た。

「タナカ、大丈夫ですか」

「大丈夫です」

「なんか、少し、顔が違います」

「そうですか」

「なんというか、少し、ほっとしている顔です」

「そうかもしれません」

「ほっとしていますか」

「少し」

「良かったです。タナカがほっとしているのを見ると、私もほっとします」

「そうですか」

「今日は、本当に良い一日でした」

「そうですね」

 田中は空を見た。

 青かった。

 山脈が遠くに見えた。

 大きかった。

 でも今日は、向こう側に何があるかを知っていて、こちら側に誰がいるかも知っていて、何をするかも、少しだけ、見えていた。

 田中はメモアプリを開いた。

 一行だけ書いた。

 ・今日、三国が同じ席に座った。

 それだけ書いた。

 他には、何も書かなかった。

 今日は、それだけで十分だった。


次回「第四十九話 会談が動き出す。共通の敵を前に、二人が変わっていく」へつづく

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