第百十九話 西の国・セルム公国が反発した
第百十九話 西の国・セルム公国が反発した
前話までのあらすじ
ネルが成長していた。三ヶ月で、観察すること、見ること、どちらも本当だということを身につけた。
アレンとネルが一緒に東の山脈の変化をまとめた。
「ネルが三点を持って帰ると言った。それが続いていく。田中がいなくなっても」とメモに書いた。
朝、使者が来た。
西の旗を持っていた。
セルム公国からだった。
田中は応接室で受け取った。
「セルム公国より、書状をお持ちしました」
「ありがとうございます。内容を教えていただけますか」
「王様への書状です。私から内容をお伝えする権限はありませんが、急ぎとのことです」
「わかりました。王様に届けます」
使者は書状を渡して、帰った。
田中は封を開けた。
読んだ。
もう一度読んだ。
レオンに渡した。
「読んでください」
レオンが読んだ。
「タナカ、これは」
「そうですね」
「強い言葉で書かれています」
「そうです」
「要点は二点ですか」
「そうです。読み上げてもらえますか」
「はい。一点目。セルム公国は、四国同盟の拡大に強く反対する。四国同盟が北の問題を口実にして、周辺国への影響力を拡大しようとしていることは明らかだ。二点目。セルム公国は、四国同盟が解消されない限り、外交関係を縮小する。貿易ルートの見直しも検討する」
「そうです」
「タナカ、これは、脅しに近いですね」
「そうですね」
「どう対応しますか」
「まず、王様に報告します」
王様に報告した。
「セルムから書状が来ました」
「セルムか。前回は検討中だと言ったが」
「今回は、強い反対の表明です」
「どんな内容だ」
「四国同盟の拡大に反対する。解消されない限り、外交関係を縮小する。貿易ルートの見直しも検討する」
「脅しか」
「そのように読めます」
「余はどうすべきだと思うか」
「まず、セルムの反発の本当の理由を探ることです」
「本当の理由、か」
「書状には、影響力の拡大への懸念と書いてあります。ただ、それが本当の理由かどうかわかりません」
「別の理由があるかもしれないということか」
「そうです。以前、バルト卿が停戦に反対していたとき、本当の理由は情報が足りなかったからでした。セルムも、書状に書いてある理由の奥に、別の理由があるかもしれません」
「どうやって探るんだ」
「セルムと直接話す必要があります」
「田中が行くか」
「今回は、別の方法を試したいです」
「どんな方法だ」
「シアさんに動いてもらいます」
「シアが、ですか」
「そうです。セルムは、この国と魔王軍の同盟を警戒しているかもしれません。ただ、魔王軍が単独でセルムに話しかければ、少し違う見え方をするかもしれません」
「魔王軍が直接セルムに話しかける、ということか」
「そうです。田中がいつも間に入ってきましたが、今回はシアさんが前に出る方が良いかもしれません」
「シアは動けるか」
「シアさんに相談します」
「わかった。田中に任せる」
「ありがとうございます」
「田中、一つだけ」
「はい」
「今回の件、田中が動かなくてもいいのか」
「田中が動くことが必要な場面では動きます。ただ、まずシアさんが動ける場面かどうかを確認します」
「田中が全部やらない、ということだな」
「そうです」
「以前と違うな」
「そうですね」
「田中が成長したということか」
「そうかもしれません」
シアに手紙を書いた。
セルムからの書状の内容を伝えた。
シアに前に出てほしいという依頼を書いた。
理由も書いた。
『田中がいつも間に入ってきましたが、今回はシアさんが魔王軍の代表として、セルムに直接話しかけることを提案します。魔王軍がセルムに歩み寄ることで、四国同盟が一国に支配されていないことを示せます。シアさんが動けると思っています。ただし、田中も後ろで支えます』
書いてから、レオンに確認した。
「どうですか」
「良いですね」とレオンが言った。
「シアさんに前に出てもらう理由が、明確に書かれています」
「そうですね。シアさんが動く理由がわかれば、動きやすくなります」
「タナカ、この手紙を書いていて、一つ気づきましたか」
「何ですか」
「以前、タナカが全部動いていたとき、タナカは自分が動く理由を誰かに説明しませんでした」
「そうですね」
「今日、シアさんに動く理由を説明しました。それが変化ですね」
「そうかもしれません」
「人に動いてもらうとき、理由を伝える。それが、タナカが学んできたことですよね」
「そうですね」
「タナカ自身に、それが返ってきた」
「そうかもしれません」
「良い変化だと思います」
「ありがとうございます」
「珍しくすぐ言えましたね」
「今日は言えます」
翌日、シアから返事が来た。
速かった。
「タナカ、シアさんから返事です」とレオンが言った。
「どんな内容ですか」
「三行です。読みます。『田中の提案、受け入れる。余がセルムに話しかける。ただし、一点だけ確認させてくれ。田中は、余がうまくできなかった場合、どうするつもりか』とのことです」
「シアさんが確認してきましたね」
「そうです。うまくできなかった場合の対処を聞いています」
「シアさんが準備をしているんですね」
「そうです。以前のシアさんとは違います」
「そうですね。以前は、田中が全部考えていました。今は、シアさんが自分で先を考えています」
「成長ですね」
「そうです」
「どう答えますか」
「田中が次に動く、と答えます。ただし、シアさんがうまくやると思っています、という言葉も入れます」
「信頼を伝えるんですね」
「そうです。シアさんが一人ではない、ということを伝えます」
返事を書いた。
『シアさん、確認ありがとうございます。うまくできなかった場合、田中が次に動きます。ただし、田中はシアさんがうまくやると思っています。セルムは、直接的に話しかけてくる相手に反応します。シアさんが正直に、魔王軍として話せば、伝わると思います。後ろで待っています』
レオンが翻訳した。
「タナカ、後ろで待っています、という最後の一文が良いですね」
「そうですか」
「シアさんが一人ではないことが、一言でわかります」
「そうですね」
「田中がいつも言っていた言葉ですね。一人ではない、という」
「そうかもしれません」
「今度は、田中がその言葉を使ってシアさんに伝えました」
「そうですね」
「良かったです」
「出してください」
「はい」
その日の夕方、ガルドが田中のところに来た。
「田中、セルムの件、聞いた」
「そうですか。王様から聞きましたか」
「そうだ。貿易ルートの見直しを検討すると書いてあったとのことだ」
「そうです」
「バルトが動揺するかもしれない」
「そうですね。バルト卿の港は、セルムとの貿易ルートとも関係があります」
「余がバルトと話してくる」
「田中なしで、ですか」
「そうだ。バルトは余の古い知り合いだ。余が話した方が早い」
「そうですね」
「田中がいつもやっていたことを、余がやる。それで良いか」
「それで良いです。ありがとうございます」
「礼はいい。余のやることがある」
「そうですね」
「田中の言葉が余に移った」
「ガルド卿が身につけたんです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
「では、行ってくる」
「よろしくお願いします」
夜、田中はメモを整理した。
【セルムの反発・対応状況】
・セルムから強い反対の書状:外交関係の縮小、貿易ルートの見直しを示唆。
・対応:シアがセルムに直接話しかける。田中は後ろで待機。
・ガルドがバルト卿と話す。田中なしで。
・次のアクション:シアの動きを待つ。
田中はリストを見た。
今日、田中が直接動いたのは、手紙を二通書いただけだった。
シアが動いてくれた。
ガルドが動いてくれた。
田中は後ろで待っていた。
以前は、こういう状況で田中が全部動いていた。
今は、全員が動ける。
田中が動かなくても、動いている。
最後に一行書き足した。
・セルムが反発した。田中が全部動かなかった。シアが動いた。ガルドが動いた。それが今の形だ。
次回「第百二十話 セルムの反発の理由を探った」へつづく




