第百二十話 セルムの反発の理由を探った
第百二十話 セルムの反発の理由を探った
前話までのあらすじ
セルム公国が四国同盟に強く反対する書状を送ってきた。外交関係の縮小、貿易ルートの見直しも示唆した。
シアに前に出て対応してもらうことにした。ガルドがバルト卿と話すことにした。
「セルムが反発した。田中が全部動かなかった。シアが動いた。ガルドが動いた。それが今の形だ」とメモに書いた。
シアから報告が来た。
セルムへの書状を送ったとのことだった。
レオンが翻訳した。
「タナカ、シアさんから報告です」
「どんな内容ですか」
「セルムへの書状の内容が書いてあります。三点、伝えたとのことです」
「読んでください」
「一点目。魔王軍は、四国同盟が周辺国を支配する意図を持っていないことを伝えた。余自身が、長くこの国と対立してきた。その余が同盟を組んでいるのは、共通の問題があるからだ、と書いた」
「シアさんが、自分たちの経緯を出したんですね」
「そうです。二点目。セルムが持っている懸念を、正直に教えてほしいと頼んだ。余たちが気づいていない問題があれば、知りたい、と書いた」
「懸念を聞く姿勢を示したんですね」
「そうです。三点目。北の問題について、セルムでも変化が確認されているかどうかを聞いた。共通の問題があれば、一緒に動ける、と伝えた」
「三点目は、田中の手法ですね」
「そうですね。北の問題を共通の話題にして、入り口を作る」
「シアさんが、田中のやり方を使いました」
「そうです。シアさんが自分で考えて、田中のやり方を応用しました」
「そうですね」
「タナカ、どんな気持ちですか」
「嬉しいです」
「珍しくすぐ言えましたね」
「今日は言えます。シアさんが自分で考えて動いた。それが嬉しいです」
三日後、シアからセルムの返事を受け取ったとの連絡が来た。
内容も含まれていた。
レオンが読んだ。
「タナカ、セルムからの返事が来たとのことです。シアさんが全文を送ってくれています」
「どんな内容ですか」
「セルムの返事は、前回の書状より少し柔らかい言葉になっています。三点あります」
「読んでください」
「一点目。セルムは、四国同盟が解消されるべきだという主張を維持する。ただし、魔王軍からの連絡を受け取り、少し考えが変わった部分がある」
「少し変わったんですね」
「そうです。二点目。セルムの本当の懸念は、貿易ルートの変化だとのことです。四国同盟が成立したことで、物資の流れが変わり、セルムを経由しなくなりつつある。それが、セルムにとって経済的な打撃になっている」
「貿易ルートの変化が、本当の懸念でしたか」
「そうです。影響力の拡大への懸念は、表向きの理由だったかもしれません」
「バルト卿と同じですね。以前、バルト卿も表向きの懸念と本当の懸念が違いました」
「そうですね。本当の懸念は、経済的な打撃でした」
「三点目は」
「三点目。北の問題について、セルムでも変化が確認されているとのことです。具体的な情報は、信頼関係が構築された後に共有したい、と書いています」
「少し開いてきましたね」
「そうですね。最初の書状より、明らかに柔らかくなっています」
「シアさんが話しかけたことで、変わりました」
「そうです」
田中はガルドからの報告も受け取った。
ガルドがバルト卿と話した結果だった。
「田中、バルトと話してきた」とガルドが言った。
「どうでしたか」とレオンが翻訳を挟みながら田中が言った。
「バルトは、セルムの書状の内容を聞いて、少し動揺していた」
「そうですか」
「貿易ルートの見直しを検討すると書いてあった。バルトの港は、セルムとの取引もある。その部分が影響を受けるかもしれない」
「そうですね」
「ただ、余がバルトに話した」
「何を話しましたか」
「四国同盟は、バルトの港を中心にした物資の流れを作った。セルムとの取引が減っても、四国との取引が増えれば、バルトの港は続く。むしろ、広がる可能性がある」
「そうですね。そのことをバルト卿に伝えたんですか」
「そうだ。バルトは、少し落ち着いた。ただ、セルムとの関係が悪化することへの懸念は残っている」
「そうですね」
「余は、セルムの本当の懸念が経済的なことなら、対話の余地があると思う、と伝えた」
「良い判断ですね」
「田中がよくやることだ。本当の懸念を探る」
「ガルド卿が判断したことです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
「田中、セルムとどう動くか、考えているか」
「はい。一点、提案があります」
「聞かせてくれ」
「セルムの本当の懸念が貿易ルートの変化なら、バルト卿が動く場面があります」
「バルトが、ですか」
「そうです。バルト卿は港を持っています。セルムとの貿易ルートも知っています。セルムに、バルト卿が新しい提案をすることで、状況が変わるかもしれません」
「バルトがセルムと話す、ということか」
「そうです。国と国の外交ではなく、商売人同士の話し合いです」
「なるほど。その方が、セルムも話しやすいかもしれない」
「そうです。外交の話より、商売の話の方が、セルムも本音が出やすいかもしれません」
「余が、バルトにそう伝えるか」
「ガルド卿がバルト卿に伝えてもらえますか。田中からより、ガルド卿からの方が、バルト卿は動きやすいかもしれません」
「わかった。余が動く」
「ありがとうございます」
「田中、今回の件、余がずいぶん動いたな」
「そうですね」
「以前は、田中が全部動いていた。今回は、余とシアが動いた」
「そうですね」
「それが変化か」
「そうです」
「良い変化だな」
「そうですね」
「田中、余はこの変化を、続けていく」
「そうですね」
「田中がいなくなっても、余は動ける」
「そうです」
「それが、田中が余に渡したものだ」
「王様が受け取ってくれたものです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
夜、田中はメモを整理した。
【セルムの対応・現状】
・本当の懸念:貿易ルートの変化による経済的打撃。
・シアの働きかけ:柔らかい返事が来た。北の変化も確認しているとのこと。
・ガルドとバルト卿:バルト卿がセルムと商売人同士で話す可能性。
・次のアクション:バルト卿がセルムと話すかどうかを待つ。
田中はリストを見た。
今回の件で、田中が直接動いたのは最初のシアへの手紙だけだった。
後は、シアが動いた。ガルドが動いた。バルト卿が動こうとしている。
田中は待っていただけだった。
以前なら、全部自分で動いていた。
今は、全員が動ける。
田中が待つことで、全員が動けていた。
待つことも、仕事だった。
最後に一行書き足した。
・セルムの本当の懸念は、貿易ルートの変化だった。シアとガルドとバルト卿が動いた。田中は待った。待つことも仕事だとわかった日だった。
次回「第百二十一話 セルムの内部事情が見えてきた」へつづく




