第百十六話 四国目が加わった。同盟が広がった
第百十六話 四国目が加わった。同盟が広がった
前話までのあらすじ
ドランが半年を待たずに参加を決断した。東の変化が加速しているためだった。
王様が「今の段階で、余は一人で動ける。ありがとう」と言った。
「ドランが動いた。四国が揃いつつある。やることが増えた。ただ、今日は空を見る時間があった。それで十分だった」とメモに書いた。
三国からの返事が揃った。
シアから。
「ドランの参加を歓迎する。東の変化の情報は、すぐ魔王城でも確認する。手続きを進めてほしい」
ミラから。
「受け入れる。ドランが早く決断したのは、田中殿が良い仕事をしたからだ。来月、四国で確認会を開こう」
田中はレオンに言った。
「三国とも、速い返事でしたね」
「そうですね。皆さん、待っていた感じがします」とレオンが言った。
「そうかもしれません。ドランが動くかどうか、見ていたんでしょうね」
「動いたから、すぐ動けた、ということですね」
「そうです。準備ができていたから、速かったです」
「ミラ公王が四国確認会を提案していますね」
「そうです。ミラ公王らしいですね。次の段取りをすぐ出してくる」
「田中に似ていますね」
「そうかもしれません」
「確認会は、田中が段取りをしますか」
「今回は、ミラ公王が提案したので、ミラ公王に段取りをお願いしてみます」
「ミラ公王に、ですか」
「そうです。田中が全部段取りをしなくても、ミラ公王はできると思います」
「なるほど。引き継ぎの一つですね」
「そうです」
「わかりました。ミラ公王への返事に、段取りをお願いする旨を入れます」
「よろしくお願いします」
ミラへの返事を書いた。
四国確認会の提案を受け入れること。
段取りをミラ公王にお願いしたいこと。
田中は補足で一文入れた。
『ミラ公王が段取りをしてくれれば、田中は参加するだけで十分です。田中が全部やるより、ミラ公王が進めることで、四国目のドランもミラ公王を頼りにするようになります』
レオンが翻訳しながら言った。
「タナカ、この一文、良いですね」
「そうですか」
「ミラ公王に段取りをお願いすることの理由を説明しています。ただお願いするより、理由があると動きやすいですね」
「そうです。お願いするとき、なぜお願いするかを伝えると、相手が受け取りやすくなります」
「タナカがいつもやっていることですね」
「そうかもしれません」
「わかりました。出します」
ミラから返事が来たのは、二日後だった。
レオンが読んだ。
「タナカ、ミラ公王から返事です。短いです」
「どんな内容ですか」
「『わかった。段取りをする。ただし、田中殿が確認会で議事録を取ること。それが条件だ』とのことです」
「議事録は田中が取る、ということですか」
「そうです」
「それは、構いません」
「ミラ公王、段取りは引き受けるが、記録は田中に頼む、ということですね」
「役割分担ですね。ミラ公王が進行して、田中が記録する」
「良い分担だと思います」
「そうですね。ミラ公王が全体を動かして、田中が残す。どちらも大事な役割です」
「お互いの強みを使っています」
「そうです」
「タナカ、ミラ公王との関係は、本当に良い関係ですね」
「そうですね。最初に会ったとき、話が早い方だと思いました。今も変わっていません」
「タナカも話が早い方ですよね」
「そうかもしれません」
「だから、うまくいくんでしょうね」
「そうかもしれません」
四国確認会の準備が始まった。
ミラが日程と場所を決めた。
二週間後、山の中腹の場所だった。
前回の三国会談と同じ場所だった。
「ミラ公王、同じ場所を選びましたね」とレオンが言った。
「そうですね。田中が選んだやり方を、ミラ公王が使ってくれたんですね」
「そうです。同じ場所で続けることで、繋がりが見えます」
「田中から覚えたんですね」
「ミラ公王が身につけたんです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
ドランへの連絡もバインが担当した。
四国確認会に向けて、ドランが持参する資料の依頼も、バインとレオンが直接やり取りした。
「タナカ、バインさんとのやり取りは、私が担当できます」とレオンが言った。
「そうですね。よろしくお願いします」
「タナカが間に入らなくても、できます」
「そうですね」
「そうなってきました」
「そうです」
「良い変化ですね」
「そうですね」
二週間後。
四国確認会が開かれた。
山の中腹の場所だった。
今回は、王様、魔王、ミラ、ドランの王の四人が揃った。
ドランの王が、この場所に来るのは初めてだった。
「ここが、三国が会合を開いた場所か」とドランの王が言った。
「そうです」と田中が言った。
「田中殿が選んだのか」
「最初は田中が選びました。今回は、ミラ公王が選びました」
「同じ場所を続けて使う、ということか」
「そうです。同じ場所で続けることで、繋がりが見えます」
「なるほど」
「ドランの王様、この場所をどう思いますか」
「良い場所だ。三方が山に囲まれて、一方だけ開いている。外から見えにくく、中では話しやすい」
「そうですね」
「三国が、こんな場所で話し合ってきたのか」
「そうです」
「余も、これからここで話し合う」
「そうですね」
「良かった」
「そうですね」
ミラが全員を会議に案内した。
テントの中に入った。
ミラが進行を担当した。
「では、四国確認会を始めます」
田中は議事録を取り始めた。
以前は、田中が全部進めていた。
今日は、ミラが進めていた。
田中は記録するだけだった。
それが、今の形だった。
確認会は二時間続いた。
四点が確認された。
一点目。ドランが正式に同盟に参加する。手続きは来月。
二点目。東の変化の情報を四国で共有する。ドランが窓口になる。
三点目。軍の連携にドランを加える。ロイドとバインが担当する。
四点目。北への対処方針の見直し。東の変化を踏まえて、改めて話し合う。
田中はメモに書いた。
四点全部が、田中なしで決まっていた。
ミラが提案した。ドランの王が受け入れた。魔王と王様が確認した。田中は書いていただけだった。
「タナカ」とレオンが小声で言った。
「はい」
「今日、タナカはほとんど話しませんでしたね」
「そうですね」
「それが良かったです」
「そうですね」
「全員が動きました」
「そうです」
「タナカが間に入らなくても、動きました」
「そうです」
「それが、今日の一番大事なことですね」
「そうかもしれません」
確認会が終わった後、ドランの王が田中のところに来た。
「田中殿、今日はほとんど話さなかったな」
「そうですね」
「田中殿が全部進めると思っていた」
「今日は、ミラ公王が進めました」
「ミラ公王が田中殿のやり方でやっていた」
「そうですね」
「田中殿のやり方が、ミラ公王に移っている」
「ミラ公王が身につけたんです」
「そうか。田中殿は、今日何をしていたんだ」
「記録を取っていました」
「それだけか」
「それだけです」
「それだけで十分か」
「今日は、それだけで十分でした」
「なるほど」
「ドランの王様、今日はどうでしたか」
「良かった。余は、こういう会議が初めてだった」
「そうですか」
「四国が揃って、それぞれが話す。一国だけで決めるのとは、違う感覚がある」
「どう違いますか」
「一国で決めると、速い。ただ、孤独だ。四国で決めると、時間がかかる。ただ、孤独ではない」
「そうですね」
「田中殿が言っていた、一人で抱えていたものを手放す、という感覚が、今日わかった気がした」
「そうですか」
「孤独でなくなる、ということだな」
「そうです」
「田中殿、来て良かった」
「ドランの王様が来てくれたからです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
「田中殿の言い方、覚えた」
「そうですか」
「使いやすい言葉だ」
「そうかもしれません」
「では、また」
「また」
「次に来るときも、元の世界の話を聞かせてくれ」
「話します」
「約束か」
「約束です」
「良い」
ドランの王は歩いていった。
田中はその背中を見ていた。
四国が揃った。
それぞれが、田中なしで話せていた。
田中は記録するだけだった。
それが、今日の形だった。
帰り道。
田中とレオンで馬を進めた。
「タナカ、今日はどうでしたか」とレオンが言った。
「良かったです」と田中が言った。
「四国が揃いましたね」
「そうですね」
「田中がほとんど話さなかったです」
「そうですね」
「それが良かった、と思っていますか」
「思っています」
「寂しくないですか」
「少しあります。ただ、良かったという気持ちの方が大きいです」
「そうですか」
「以前、子どもが一人で歩けるようになった親の気持ちに似ている、と言いました」
「言いましたね」
「今日は、その感覚がありました」
「どんな感覚ですか」
「嬉しいけど、少し寂しい。ただ、一人で歩けるようになったことが、本当に嬉しい」
「そうですね」
「レオン、今日のミラ公王はどうでしたか」
「完璧でした」
「そうですね」
「タナカが以前やっていたことを、全部やっていました」
「ミラ公王が自分のものにしてくれました」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
「タナカ、これからどんなやることが見えてきましたか」
「見えてきています」
「どんなことが見えていますか」
「四国が揃った。外交が広がった。田中がいなくても動ける体制が整ってきた。次は、田中が間に入る頻度がさらに減ります。そして、その先に、田中が次の問いに向き合う時期が来ます」
「次の問いとは」
「帰るかどうか、という問いです」
「そうですか」
「まだ答えは出ていません。ただ、時期が近づいている気がします」
「そうですか」
「レオン、この話は今日だけにしてください」
「わかりました。ただ、一つだけ」
「はい」
「どんな答えが出ても、私は待っています」
「そうですか」
「タナカが決めることです。ただ、どちらを選んでも、私はここで続けます」
「ありがとうございます」
「珍しくすぐ言えましたね」
「今日は言えます」
「良かったです」
馬を進めた。
山の中腹が遠ざかった。
城が見えてきた。
帰る場所が見えてきた。
田中はその景色を見ながら、少し考えた。
四国が揃った。
外交が広がった。
次の問いが近づいていた。
ただ、今日は、帰る場所が見えていた。
それで、十分だった。
夜、田中はメモを整理した。
【四国確認会・完了】
・四国が正式に揃った。ドランの参加が確定。
・ミラ公王が進行を担当。田中は記録のみ。
・四点が確認された。全部、田中なしで決まった。
・ドランの王が「孤独でなくなる感覚がわかった」と言った。
最後に一行書き足した。
・四国が揃った。田中がいなくても動く形ができた。次の問いが近づいている。ただ、今日は帰る場所が見えていた。それで十分だった。
次回「第百十七話 帰国報告。三国に伝えた」へつづく




