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第百十五話 ドランが動いた

第百十五話 ドランが動いた


前話までのあらすじ

ドランから初めての北の情報が届いた。東向きの動物移動、新しい音、夜中の光。

三国の地図に東の方向が加わった。

「ドランが加わって、見える世界が東に広がった。繋がることで、世界が広がる」とメモに書いた。


 情報共有を始めて、六週間が経った。

 バインから手紙が来た。

 いつもより、短い手紙だった。

 レオンが翻訳した。

「タナカ、バインさんから短い手紙です」

「どんな内容ですか」

「三行だけです。読みます」

「どうぞ」

「『田中殿、王が決断しました。半年を待たずに、三国同盟への参加を決めます。理由は、東の変化が予想より速く進んでいるためです。急いで動く必要があると判断しました。詳細は使者を送ります』とのことです」

 田中は少し止まった。

「半年を待たずに、ですか」

「そうです。前倒しで決断したとのことです」

「いつそう決めたんですか」

「手紙の日付は三日前です」

「東の変化が速く進んでいる、というのは、田中が訪問したときに報告を受けた情報ですね」

「そうです。動物の東向き移動、新しい音、光。それが加速しているということかもしれません」

「そうかもしれません」

「タナカ、これは、良いことですか」

「良いことです。ただ、北の変化が速くなっているとすれば、注意が必要です」

「両方あるんですね」

「そうです。ドランが加わることは良い。ただ、理由が北の変化の加速であれば、対処が必要です」

「わかりました。三国に伝えますか」

「今日中に伝えます。使者が来たら、詳細を聞きます」


 使者がドランから来たのは、翌日だった。

 田中が応接室で迎えた。

「バインさんからの書状を持参しました」

「ありがとうございます。内容を教えていただけますか」

「はい。王の決断の理由が二点あります。一点目は、東の変化が三週間で急速に進んだことです。動物の移動が南東方向に変わり、音が大きくなっています。光も昼間に見えるようになりました」

「昼間に光が見えるようになった、ですか」

「そうです。以前、ランセルでも同じことが起きていましたね」

「そうです。GOLが止まる前に、同じことが起きていました」

「そうです。王は、以前三国が経験したことと同じ動きが東で始まっていると判断しました」

「そうですか。二点目は」

「二点目は、情報共有の六週間で、三国との連携に信頼を感じたとのことです。急いで動く必要があるとき、信頼できる仲間がいた方がいいと王が判断しました」

「信頼が動機になったんですね」

「そうです。王が、田中殿との会話が判断の根拠の一つになったとも言っていました」

「そうですか」

「一人で抱えていたものを手放す、という経験を、王は情報共有の六週間でしたとのことです」

「六週間で、実感できたんですね」

「そうです」

「わかりました。三国に伝えます。参加の手続きを進めましょう」

「よろしくお願いします」

「使者さん、一つだけ」

「はい」

「王様に伝えてください。決断してくれてありがとう、と」

「そのまま伝えます」

「よろしくお願いします」


 田中はすぐ三国に手紙を書いた。

 ドランが前倒しで参加を決めたこと。

 理由が東の変化の加速であること。

 手続きを進めたいこと。

 レオンが翻訳した。

「タナカ、今日の手紙、急ぎですか」

「急ぎです。東の変化が加速しているとすれば、早めに動いた方がいいです」

「わかりました。今日中に出します」

「ありがとうございます」

「タナカ、東の変化が加速しているということは、北の問題が再び動き始めているということですか」

「そうかもしれません。ただ、東の方向は今まで観察していませんでした。以前と同じ問題なのか、新しい問題なのか、まだわかりません」

「どちらにしても、四国で対処できる形を早く作る方がいいですね」

「そうです」

「タナカ、OLAのことが気になりますか」

「気になっています」

「東の変化に、OLAが関係していると思いますか」

「わかりません。ただ、向こうの世界の変化であれば、OLAが何かを知っているかもしれません」

「OLAに伝える方法がないですね」

「今はないです。ただ、山脈に行って声を出すことはできます」

「それしかないですか」

「今のところは」

「タナカ、また山脈に行きますか」

「行きます。ただ、今日は手続きを進めることが優先です」

「わかりました」


 王様に報告した。

「ドランが前倒しで参加を決めました」

「そうか。早かったな」

「東の変化が加速しているとのことです。急いで動く必要があると判断したとのことです」

「東の変化か。余のところには、まだその情報が来ていなかった」

「ドランから来た情報です。以前、ランセルでGOLの前に起きたことと似た変化が、東で始まっているとのことです」

「それは、深刻な話だな」

「そうです。ただ、今回は四国が揃って対処できます。以前より、準備が整っています」

「そうだな。以前は、問題が起きてから対処していた。今回は、早めに気づいた」

「そうです。ドランが情報を持ってきてくれたから、早めに気づけました」

「繋がりが、早期発見を生んだということだな」

「そうです」

「田中、四国が揃うのは、いつになるか」

「手続きが順調に進めば、来月中には形になると思います」

「来月か。早いな」

「ドランの王が決断すると速いです。三国も受け入れる準備ができています」

「わかった。田中、段取りを進めてくれ」

「かしこまりました」

「田中、一つだけ」

「はい」

「余は、三国同盟を作ったとき、四国目が来るとは思っていなかった」

「そうですか」

「ただ、来た。それは、田中がドランに行ったからだな」

「ドランの王が動いてくれたからです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「田中が動き続けているから、繋がりが広がっている」

「皆さんが動いているからです」

「どちらも本当だ」

「そうです」

「田中、余はお前に言いたいことがある」

「はい」

「今の段階で、余は一人で動ける。王様としての判断ができる。それはお前が来てから作られたものだ。ありがとう」

「……ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えたな」

「今日は言えます」

「今日は特別な日か」

「ドランが参加を決めた日です。特別な日だと思います」

「そうだな。四国になる日だ」

「そうですね」


 その夜。

 田中は中庭に出た。

 空を見た。

 星が多かった。

 アレンが来た。

「タナカさん、ドランが参加を決めたんですか」

「そうです」

「早かったですね」

「そうですね。東の変化が加速しているとのことで、急ぎで動いたようです」

「東の変化が加速している、というのは、また北の問題ですか」

「そうかもしれません。ただ、今回は四国が揃っています」

「以前と違いますね」

「そうです」

「タナカさん、俺、また山脈に行きますか」

「行ってもらえますか」

「行きます。東の方向の変化を確認してきます」

「ありがとうございます」

「タナカさんが感謝しているのを見ると、嬉しいです」

「そうですか」

「以前は、タナカさんがあまり感謝を言わなかったので」

「そうでしたね」

「最近、よく言うようになりました」

「そうかもしれません」

「変わりましたね、タナカさん」

「そうかもしれません」

「良い変化だと思います」

「そうですね」

「タナカさん、一つだけ」

「はい」

「俺、タナカさんと一緒に動いてきて、本当に良かったです」

「そうですか」

「一緒に動いてきたから、俺も変わりました。ありがとうございます」

「アレンさんが変わったんです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「この言い方、完全に俺のものになりました」

「そうですね」

「タナカさんから受け取って、俺のものにしました」

「そうです」

「どちらも本当だ」

「そうです」

 二人で少し笑った。

 空が広かった。

 星が多かった。

 田中はしばらく空を見た。

 四国が揃いつつある。

 東の変化が動き始めている。

 やることが、また増えた。

 ただ、今日は少し、空を見る時間があった。

 それで良かった。


 田中は部屋に戻った。

 メモアプリを開いた。

 【本日の完了事項】

 ・ドランの使者対応:完了。

 ・王様への報告:完了。

 ・三国への手紙:送付済み。

 ・アレンに山脈確認を依頼:完了。

 最後に一行書き足した。

 ・ドランが動いた。四国が揃いつつある。東の変化が加速している。やることが増えた。ただ、今日は空を見る時間があった。それで十分だった。


次回「第百十六話 帰国報告。三国に伝えた(ドラン参加確定)」へつづく

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