第百十四話 ドランが北の情報を渡した
第百十四話 ドランが北の情報を渡した
前話までのあらすじ
帰国報告が完了した。三国がドランの条件を受け入れた。
アレンから、田中がいない間も城が動いていたと報告を受けた。
「帰国報告が完了した。田中がいない間も、いる間も、城が動いている。それが積み上げだ」とメモに書いた。
ドランとの情報共有が始まって、二週間が経った。
最初のドランからの情報が届いた。
バインからの手紙だった。
レオンが翻訳した。
「タナカ、ドランから初めての情報です」
「どんな内容ですか」
「北の情報が三点あります。一点目。ドランの東の山脈沿いで、動物の群れの移動が確認された。南向きではなく、東向きに移動していた」
「東向きに、ですか」
「そうです。三国の観察では、南向きが多かったです。東向きは初めてです」
「東の方向に何があるんですか」
「ドランの先、さらに東に、まだ調べていない山脈があるとのことです。カラさんの記録にも出てきていない方向です」
「なるほど。二点目は」
「二点目。先月から、山脈の東端で、新しい音が確認されている。低い振動音で、以前は聞こえなかったとのことです」
「音が出ています」
「そうです。三点目。ドランの村人が、夜中に光を見たという報告が三件あった。ランセルで確認された光と似ているとのことです」
「三点全部、北の問題に関係している情報ですね」
「そうです。ただ、ランセルやこの国で確認されている変化とは、少し方向が違います。東の方向が含まれています」
「東の方向、か」
「タナカ、これは何を意味していますか」
「まだわかりません。ただ、二点気になっています」
「どんな点ですか」
「一点目。三国は山脈の南と西の方向の変化を観察してきました。ドランの情報で、東の方向が加わりました。全体像が広がっています」
「死角が埋まった、ということですね」
「そうです。二点目。動物が東向きに移動している、というのは、東に何か変化が起きているかもしれないということです。三国だけで観察していたら、気づかなかった変化です」
「ドランが加わって、初めて見えてきた情報ですね」
「そうです。それが、ドランと情報共有することの価値です」
「最初から価値が出ましたね」
「そうです。良かったです」
田中はカラへの手紙を書いた。
ドランからの情報を共有して、ランセルの観察と照合してほしいという依頼だった。
「レオン、カラさんへの手紙を翻訳してください」
「はい。タナカ、一点確認していいですか」
「どうぞ」
「この情報、シアさんにも送りますか」
「そうです。三国全員に送ります」
「ドランにも、三国の情報を送り返しますか」
「そうします。情報共有は双方向です。ドランが渡してくれたから、こちらも渡します」
「わかりました。四通書きます」
「お願いします。レオン、今日は多いですが」
「大丈夫です。情報共有の窓口は私です。これが私の仕事です」
「そうですね。ありがとうございます」
「珍しくすぐ言えましたね」
「今日は言えます」
「では、書きます」
レオンが作業を始めた。
田中は横で資料を整理した。
三国の情報にドランの情報を加えた一枚を作った。
以前より、地図が広くなっていた。
東の方向が加わっていた。
「タナカ、この地図、以前より広くなりましたね」とレオンが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「田中が来たときと比べると、ずいぶん広くなっています」
「そうですね。最初は、この国だけの地図でした。今は、四国分の地図になっています」
「少しずつ広がってきましたね」
「そうです。これが積み上げです」
「タナカが来てから積み上がった、ということですね」
「皆さんが積み上げてくれたんです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
その日の夕方、ロイドが来た。
「田中、ドランからの情報を読んだ」
「そうですか」
「東の方向に変化がある、という点が気になった」
「そうですね」
「東の山脈の方向に、余が把握していない動きがある可能性がある」
「そうかもしれません」
「軍の観点から、一点だけ言っていいか」
「どうぞ」
「東の方向の偵察を、少し強化した方がいいと思う」
「どのくらい強化しますか」
「今は、南と西に偵察の力を入れている。東は、ドランが見てくれるとしても、国境付近は余が確認した方がいい」
「そうですね」
「ドランとの連絡が整ってきたら、東の情報をドランと共有する形を作れる」
「そうです。ロイド卿がドランの軍の担当者と連絡を取れるようになれば、東の情報が流れやすくなります」
「シアとの連絡ルートと同じ形だな」
「そうです。軍の連絡網を、ドランまで広げる形です」
「それは、同盟文書の範囲か」
「まだ同盟ではないので、文書の範囲外です。ただ、情報共有として進めることはできます」
「文書なしで動けるか」
「バインという担当者がいます。私が連絡を取ります。ロイド卿とバインを繋げます」
「そうしてくれ」
「わかりました。バインへの手紙に、軍の情報共有の打診を入れます」
「頼む」
「ロイド卿、一つだけ」
「なんだ」
「ロイド卿が自分で動きを提案してくれました」
「当然だ。これが余の仕事だ」
「そうですね。ありがとうございます」
「礼はいい」
「言いたいので言います」
「そうか。では、受け取る」
「ありがとうございます」
「何に礼を言ったんだ」
「自分で提案してくれたことへの礼です」
「前は違ったか」
「前は、田中が提案して、ロイド卿が受け入れていました。今は、ロイド卿から提案が来ます」
「そうか。変わったな、余も」
「そうですね」
「田中のやり方が染みついてきた」
「ロイド卿が身につけたんです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
翌日、バインへの返事の手紙を書いた。
三国の情報を共有した。
それから、軍の情報共有の打診を入れた。
田中からロイドをバインに紹介した。
「レオン、今日の手紙はロイド卿の紹介が入っています」
「そうですね。ロイド卿とバインさんを繋ぐ形ですね」
「そうです。田中が全部を担当するより、それぞれが直接繋がっていく方が、長く続きます」
「田中が繋いで、田中なしで動けるようにする」
「そうです」
「毎回そうしていますね」
「そうです。最終的には、田中が間に入らなくても、全員が繋がっている状態を作りたいです」
「それが完成したとき、田中はどうなりますか」
「やることが変わります」
「どんなやることに変わりますか」
「わかりません。ただ、やることがなくなることはないと思っています」
「なぜですか」
「どこに行っても、やることはあります。元の世界でも、この世界でも、同じです」
「そうですね」
「やることがある限り、動けます。やることがなくなったときが、本当に終わりのときです」
「終わりのときは来ますか」
「来るかもしれません。ただ、まだです」
「まだ、ですね」
「そうです」
「わかりました」
返事がドランから来たのは、五日後だった。
レオンが読んだ。
「タナカ、バインさんから返事です」
「どんな内容ですか」
「三点あります。一点目。三国の情報を受け取りました。ドランでは確認できていない情報が多く、参考になりました、とのことです」
「そうですか」
「二点目。軍の情報共有について、ロイド卿との連絡を開始したいとのことです。担当者を指定してもいいかとのことです」
「ロイド卿に伝えます」
「三点目が少し面白いです」
「なんですか」
「王がバインに言ったことが書いてあります。『田中殿が渡してきた情報の整理の仕方が、見やすい。ドランでも同じ形式にしてみた。ただ、難しかった』とのことです」
「王様が、田中の資料の形式を真似したんですか」
「そうです。難しかった、とのことですが」
「そうですか」
「バインさんが書いています。『王が田中殿を気に入っているようです。次に来たとき、また話したいと言っています』とのことです」
「そうですか」
「タナカ、喜んでいますか」
「少し」
「少しですか」
「王様が情報の整理を試してみた、というのが嬉しいです。難しかった、と正直に言っているのも、ドランの王らしいと思いました」
「そうですね。直接的な方ですから」
「そうです」
「タナカ、ドランとの関係が良い方向で動いていますね」
「そうですね」
「田中が三日間行ったことで、始まりました」
「ドランの王が話してくれたからです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
夜、田中は部屋でメモを整理した。
【ドランとの情報共有・第一回後の状況】
・ドランから初めての北の情報:三点。東向きの動物移動、新しい音、夜中の光。
・三国の地図に、東の方向が加わった。
・ロイドとバインの連絡が開始される。
・ドランの王が資料の形式を試した。田中を気に入っている。
田中はリストを見た。
ドランとの情報共有が始まって、すぐに価値が出ていた。
東の方向という、三国だけでは見えていなかった情報が来た。
繋がりが広がることで、見える世界が広がっていた。
最後に一行書き足した。
・ドランが加わって、見える世界が東に広がった。繋がることで、世界が広がる。それが今日わかったことだ。
次回「第百十五話 ドランが動いた」へつづく




