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第百十三話 帰国報告。三国に伝えた

第百十三話 帰国報告。三国に伝えた


前話までのあらすじ

帰国の道中、田中が帰るかどうかという問いが出てきていると、レオンに話した。

道中の村人から、田中の言葉が広がっていると聞いた。

帰国するとアレンが「タナカさんがいない間、城がちゃんと動いていました」と言った。

「帰ってきた。城が帰る場所になっている。それが今日の一番大事なことだった」とメモに書いた。


 翌朝。

 田中は早く起きた。

 よく眠れていた。

 旅の疲れが、一晩で抜けていた。

 窓を開けた。

 北の空を見た。

 山脈が見えた。

 光がなかった。

 ただの山脈だった。

「ただいま」と田中は言った。

 小声で言った。

 山脈に向かって言った。

 返事はなかった。

 当然だった。

 ただ、言いたかった。

 田中は窓を閉めた。

 今日のやることを確認した。

 王様への報告。三国への報告。アレンから城の動きを聞く。

 三点だった。

 少なかった。

 ただ、全部、大事なことだった。


 朝食の後、王様に報告した。

「ドランからの報告です。ドランの王が、三国同盟への参加を前向きに検討すると言いました」

「参加するということか」

「まだ参加ではありません。条件があります」

「どんな条件だ」

「まず半年間、三国との情報共有を続ける。その後、参加するかどうかを決める、ということです」

「段階的に進む、ということか」

「そうです。ドランの王は慎重な方です。いきなり参加するより、まず情報共有から始めて、信頼を作ってから決めたいとのことです」

「それは、理にかなっているな」

「そうです。三国も同じ方法を取ってきました。最初は停戦、次に情報共有、そして同盟。段階的に進みました」

「ドランも同じ方法か」

「そうです」

「田中、この条件を三国に伝えるか」

「今日、手紙を出します。三国が受け入れれば、来月から情報共有を始められます」

「三国は受け入れるか」

「受け入れると思います。シアさんもミラ公王も、急かさないと言っていました」

「そうか。田中、今回のドラン訪問、よくやった」

「ドランの王が話してくれたからです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「最近、余もこの言い方が出やすくなった」

「そうですね」

「田中の言葉が、余の言葉になった」

「王様が使えると思ったから、使えるようになったんです」

「どちらも本当だ」

「そうです」

 王様は少し笑った。


 午前中、アレンから城での出来事を聞いた。

「タナカさんがいない間、いくつかありました」

「どんなことがありましたか」

「一点目。セルムへの返事について、王様がガルド卿と話し合っていました」

「田中なしで、ですか」

「そうです。王様がガルド卿を呼んで、セルムへの対応をどうするか相談していました」

「そうですか」

「ガルド卿が、今はセルムを刺激しない方がいいという意見を出しました。王様がそれを採用して、検討中という返事を出していました」

「田中がドランで考えていたことと同じ判断ですね」

「そうですね。田中がいなくても、同じ判断ができていました」

「王様とガルド卿が動いてくれたんですね」

「そうです。二点目は、ネルについてです」

「どうしましたか」

「ネルが、初めて一人で村を巡回しました」

「一人で、ですか」

「そうです。アレンが用事があって行けない日があって、ネルが一人で行きました。報告書も書いてきました」

「そうですか」

「良い報告書でした。アレンが教えたことが、出ていました」

「アレンさんが教えたことが、ネルに伝わっているんですね」

「そうです。嬉しかったです」

「そうですね」

「三点目は、レオンさんのことです」

「レオンが何かやりましたか」

「月次情報交換を一人でまとめました。タナカさんもいなくて、シアさんもいなかったんですが、カラさんとのやり取りを一人で進めていました」

「そうですか」

「後で確認したら、全部ちゃんとできていました」

「レオンが一人でやり遂げたんですね」

「そうです」

「アレンさん、報告してくれてありがとうございます」

「珍しくすぐ言えましたね」

「今日は言えます」

「毎回そう言いますね」

「毎回本当のことです」

「わかっています。タナカさん、これが今回一番大事な報告です」

「何ですか」

「タナカさんがいない間、全員が動いていました。ガルド卿も、王様も、レオンさんも、ネルも。田中さんがいなくても、城が動いていました」

「そうですね」

「それが、一番大事だと思いました」

「そうです。それが、田中がここでやってきた意味の一つです」

「田中さんが作った仕組みが、田中さんなしで動いた」

「そうです」

「タナカさん、どんな気持ちですか」

「良かった、という気持ちと、少し寂しい気持ちと、両方あります」

「両方ありますか」

「そうです。田中がいなくても動く、ということは、田中がいなくてもいい、ということに近いです。それが、少し寂しいです」

「そうですか」

「ただ、良かった、という気持ちの方が大きいです」

「どちらも本当ですね」

「そうです」

「タナカさんも、この言い方が自分の言葉になってきましたね」

「そうかもしれません」


 午後、田中はシアとミラへの手紙を書いた。

 ドランの報告と、条件の確認だった。

 レオンが翻訳した。

「タナカ、今回の手紙、内容が良いですね」とレオンが言った。

「どこがですか」

「条件を伝えるだけでなく、ドランの王がなぜその条件を出したかの背景も書いています。背景がわかると、受け取りやすくなります」

「そうですね。条件だけ伝えると、なぜそうなったかがわからない。背景があると、判断しやすくなります」

「タナカが学んできたことが、手紙に出ていますね」

「そうかもしれません」

「ところで、タナカ、田中がいない間の城の動きを聞きましたか」

「アレンさんから聞きました」

「どうでしたか」

「全員が動いていたとのことでした」

「私も動きました」

「そうでしたね。レオンが月次情報交換を一人でやり遂げたとのことです」

「少し緊張しましたが、できました」

「そうですね」

「タナカ、一つだけ言っていいですか」

「どうぞ」

「タナカが旅に出てから、私は少し変わりました」

「どう変わりましたか」

「タナカがいない、という状況になって、初めて、自分が窓口だということを実感しました」

「そうですか」

「以前は、タナカが隣にいた。タナカに確認すればいい、という安心がありました。いなくなって、自分だけで動かなければならないとわかりました」

「どうでしたか」

「怖かったです。最初は」

「そうですか」

「ただ、やってみたら、できました」

「そうですね」

「やってみないとわからない、という言葉が、本当だとわかりました」

「そうですね」

「タナカ、また旅に出てください」

「えっ」

「私がもっと成長するために、タナカがいない時間が必要です」

「そうですか」

「こういうことを言えるようになったのも、変化だと思います」

「そうですね。レオンが変わったんです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「わかりました。では、この手紙、出します」

「よろしくお願いします」


 夕方、返事が来た。

 シアから。

 「ドランの条件、受け入れる。半年間の情報共有から始める。来月から動ける」

 ミラから。

 「受け入れる。ドランの王が慎重な方なら、この方法が正しい。田中殿が判断した通りだ」

 田中はレオンに言った。

「両方から受け入れの返事が来ました」

「そうですね。早かったです」

「シアさんとミラ公王は、田中が持ってきた案を信用してくれています」

「そうですね。田中への信頼が、判断を早くしています」

「そうかもしれません」

「タナカ、四国目への道が開きましたね」

「道が開き始めました。ただ、まだ始まりです」

「半年後、ドランが正式に参加したら、本当に開きます」

「そうですね」

「楽しみですね」

「そうですね」

「タナカ、半年後もここにいますか」

 田中は少し止まった。

「わかりません」

「そうですか」

「ただ、今はここにいます。今はやることがあります」

「それで十分ですか」

「今は、十分です」

「わかりました」

「レオン、ありがとうございます」

「何がですか」

「聞いてくれたことへの礼です」

「聞いて良かったです」

「そうですか」

「タナカが正直に答えてくれたことが、嬉しかったです」

「そうですか」

「以前は、タナカは答えなかったかもしれません」

「そうかもしれません」

「今日は答えてくれました。それが変化です」

「そうかもしれません」


 夜、田中は部屋でメモを整理した。

 【帰国後・完了事項】

 ・王様への報告:完了。

 ・アレンからの報告:城が動いていた。全員が動いていた。

 ・三国への連絡:完了。シアとミラが受け入れた。

 ・来月から:ドランとの情報共有が始まる。

 田中はリストを見た。

 帰国から一日で、全部が動いていた。

 田中が動かなくても、全員が動いていた。

 田中が動いたことで、さらに動きが加速した。

 それが今の形だった。

 最後に一行書き足した。

 ・帰国報告が完了した。三国がドランの条件を受け入れた。来月から四国目との情報共有が始まる。田中がいない間も、いる間も、城が動いている。それが積み上げだ。


次回「第百十四話 ドランが北の情報を渡した」へつづく

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