第百七話 田中が外交の準備を始めた
第百七話 田中が外交の準備を始めた
前話までのあらすじ
ドラン王国から使者が来た。三国同盟への参加打診だった。
三国で方針を揃えることを決めた。ドランへの返事を出した。
「周辺国が三国同盟に気づいた。外交が始まった。三国が一体で動く形が、試されるときが来た」とメモに書いた。
ランセルからドランについての情報が届いた。
カラが書いた手紙だった。
長かった。
レオンが翻訳した。
「タナカ、カラさんの手紙、かなり詳しいです」
「どんな内容ですか」
「ドランについて、五点まとめてくれています」
「読んでください」
「一点目。ドランは東の大国です。人口はこの国の三倍程度。軍事力は高いが、最近は北の問題への対処に関心が移っている」
「なるほど」
「二点目。ドランの王は、慎重な人物です。すぐに動かない。ただ、動くと決めたら、速く動く」
「慎重で、決断すると速い」
「そうです。ミラ公王に少し似ているとのことです」
「ミラ公王に似ていますか」
「カラさんがそう書いています。直接的で、話が早いとのことです」
「三点目は」
「ドランは山脈から少し遠いですが、北の問題は把握しています。動物の動きの変化は、ドランでも三ヶ月前から確認されているとのことです」
「三ヶ月前から、ですか」
「そうです。GOLが止まった後からですね」
「そうです。四点目は」
「ドランはランセルとは貿易関係があります。ランセルを経由してこちらに物資が流れることもあります。バルト卿の港とも間接的に繋がっている可能性があります」
「繋がりが既にあるんですね」
「五点目。ドランが三国同盟に参加したい理由として、カラさんが推測しています。北の問題への対処に、一国では限界を感じているのではないか、とのことです」
「一国では限界を感じている」
「そうです。以前の魔王軍がそうだったように、ドランも北の問題を一人で抱えているのかもしれません」
「なるほど。孤立していては続かない、ということをドランも感じているかもしれない」
「そうかもしれません」
「カラさん、良い情報をくれましたね」
「そうですね。ランセルがドランに近いから、こういう情報が集まるんですね」
「そうです。ミラ公王がランセルの役割を情報提供と言っていた。それが機能しています」
田中はシアとミラへの手紙を書いた。
カラから来た情報を共有した。
それから、外交の方針案を書いた。
三点にまとめた。
一点目。ドランとの情報共有を先に始める。参加の話は後。
二点目。ドランの王に、三国の代表が直接会う機会を作る。書類だけでなく、顔を合わせる。
三点目。北の問題を共通の話題にする。外交的な打算よりも、共通の問題への対処が動機であることを示す。
書いてから、レオンに確認した。
「どうですか」
「三点目が重要ですね」とレオンが言った。
「そうですね」
「共通の問題があると、繋がりやすいです。田中がいつも言っていることです」
「そうです。ドランと三国の間に、共通の問題がある。それが外交の土台になります」
「タナカ、一つだけ」
「はい」
「今回の外交準備、以前の停戦交渉と何が違いますか」
「良い質問ですね」
「違いを聞かせてください」
「停戦交渉は、対立していた二者が話し合う形でした。今回は、同じ方向を向いている可能性がある者同士が繋がる形です」
「対立から始まるか、共通から始まるかの違いですか」
「そうです。対立から始まると、条件の争いになります。共通から始まると、どう一緒に動くかの話になります」
「今回は、共通から始める」
「そうです。北の問題という共通の課題がある。それを入り口にします」
「わかりました。翻訳します」
返事が来た。
シアから。
「方針に同意する。ただし、ドランの王と直接会う前に、田中がドランに行ってみてほしい。田中が直接確認した後の方が、三国が安心して動ける」
ミラから。
「方針に同意する。ドランの王が慎重な人物なら、田中が行くのが適切だ。田中が話せる相手かどうかを確認してから、三国で動けばいい」
田中はレオンに言った。
「二人とも、田中がドランに行くことを提案していますね」
「そうですね。シアさんもミラ公王も、同じ判断をしました」
「田中が行って確認してから、三国が動く」
「そうです。以前の魔王城訪問と同じですね。田中が最初に行く」
「そうですね」
「タナカ、行きますか」
「行きます」
「王様に報告しますか」
「します」
王様に報告した。
「ドランに行きます」
「田中が行くのか」
「そうです。シアさんとミラ公王が、田中が先に確認してから三国で動く方が良いと言っています」
「三国が田中を先に出すのか」
「そうです」
「田中が先陣を切る、ということだな」
「そうですね」
「以前と同じやり方だ。田中が先に行って、確認して、三国が動く」
「そうです」
「田中がいなければ、この方法は使えないな」
「今は使えます。ただ、田中がいなくなっても使える方法を、一緒に作っていきたいです」
「次は誰が先陣を切るか、ということか」
「そうです」
「アレンか」
「アレンさんが成長すれば、できるかもしれません。ただ、今回はまず田中が行きます」
「わかった。行ってこい」
「はい」
「帰ってこい」
「帰ります」
「約束か」
「約束です」
「何回目かわからないが」
「わかりません」
「毎回、本気で言っている」
「わかっています」
「わかっているなら、守れ」
「守ります」
夜、田中はメモを整理した。
【外交準備・決定事項】
・ドランへの方針:情報共有を先に。顔を合わせる。北の問題を共通の入り口にする。
・田中がドランを先に訪問する。三国の合意。
・訪問の準備:カラから情報を受け取った。ドランの王は慎重で決断すると速い。
田中はリストを見た。
また、新しい国に行くことになった。
草原で目が覚めたとき、この世界に知り合いは誰もいなかった。
今は、三国の仲間がいる。
ドランは知らない国だった。
ただ、知らない国に行くことへの怖さは、最初より小さくなっていた。
やってみないとわからない、という言葉が、自分の体に染みついていた。
田中は最後に一行書き足した。
・ドランに行くことになった。知らない国だが、怖くない。やってみないとわからないから。
次回「第百八話 王様が一人で判断した日」へつづく




