第百六話 周辺国が三国同盟に気づいた
第百六話 周辺国が三国同盟に気づいた
前話までのあらすじ
OLAへの手紙を書いた。山脈の岩の隙間に置いてきた。
OLAの足跡が南北両方向で確認された。往来している可能性がある。
「OLAへの手紙を置いてきた。届くかどうかはわからない。ただ、書いて、置いた。それで十分だ」とメモに書いた。
使者が来たのは、朝だった。
見慣れない旗を持っていた。
田中は城門で確認した。
「どこの国からですか」
「東の国、ドラン王国からです。王様への書状を持参しました」
「わかりました。城に入ってください」
使者を応接室に通した。
田中はすぐ王様に報告した。
「ドラン王国から使者が来ました」
「ドランか。余は、ドランとはほとんど付き合いがなかった」
「そうですね。国境が遠い国です」
「なぜ来たんだ」
「書状を確認してから報告します」
「わかった。田中が最初に読め」
「かしこまりました」
書状を開いた。
読んだ。
レオンが横で翻訳した。
「どんな内容ですか」
「三点あります。一点目。三国同盟について、ドラン王国は知っている。同盟の内容について、説明を求めたい」
「二点目は」
「北の問題について、ドランも関心がある。山脈から遠いが、動物の動きの変化はドランでも確認されている」
「ドランでも確認されているんですね」
「そうです。三点目。三国同盟に、ドランが参加できるかどうか、打診したい」
「参加の打診ですか」
「そうです。ただし、すぐに参加したいわけではない。まず、情報を共有したいということのようです」
「慎重なアプローチですね」
「そうです。田中、これはどう対応しますか」
「まず、王様に報告します。それから、三国に伝えます。ドランへの対応は、三国で方針を揃えてから動きます」
「一国で判断しない」
「そうです。三国同盟ができたのだから、外交も三国で動きます」
「わかりました」
王様に報告した。
「ドランが同盟への参加を打診しています」
「そうか。ドランは遠い国だが、大きい国だ」
「そうですね。ドランが加われば、同盟の範囲が広がります」
「それは良いことか」
「良いことだと思います。ただ、急ぎすぎると問題が出ます」
「どんな問題だ」
「三国それぞれが、ドランについて違う印象を持っているかもしれません。まず三国で情報を共有して、方針を揃えてから動いた方がいいです」
「三国で動く、ということだな」
「そうです」
「田中、余は一人で返事を出してはいけないか」
「今回は待ってください。ドランへの返事は、三国が合意してから出す方が、同盟として動いている証明になります」
「わかった。田中に任せる」
「ありがとうございます」
「田中、一つだけ」
「はい」
「余は、一人で判断したいと思った。ただ、田中の言う通りだとわかった。それが、成長か」
「そうかもしれません」
「一人で判断したい気持ちと、三国で動く方が良いという理解が、同時にある。難しいな」
「そうですね」
「田中は、どちらが正しいと思うか」
「どちらも正しいです」
「どちらも、か」
「一人で判断できる力は大事です。ただ、三国で動くことが必要な場面では、一人で動かない判断も大事です。どちらも本当です」
「どちらも本当だ、か」
「そうです」
「わかった。今回は三国で動く」
「かしこまりました」
その日、田中はシアとミラへの手紙を書いた。
ドランから使者が来たこと。書状の内容。三国で方針を揃えたいという提案。
二通書いた。
レオンが翻訳した。
「タナカ、手紙の最後に一点追加していいですか」
「どうぞ」
「ドランからの打診は、三国同盟が周辺国に伝わっている証拠です。それを最初に書いた方が、二人も受け取りやすいと思います」
「良い提案です。入れましょう」
「わかりました」
レオンが追加した。
「タナカ、こういう提案をするようになりましたね、私」
「そうですね」
「以前は、タナカが全部考えていました。今は、私が気づいたことを提案できます」
「そうですね」
「それが変化です」
「レオンが変わったんです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
「完全に自分の言葉になりました、この言い方」
「そうですね」
翌日、シアからすぐ返事が来た。
ミラからも同日に来た。
両方とも、三国で方針を揃えることに賛成だった。
シアの手紙に一点追加があった。
「魔王城でもドランからの動きは把握していた。ただ、田中が先に報告してくれた。それが、情報共有が機能している証拠だ」
ミラの手紙にも一点あった。
「ランセルはドランと国境が近い。ドランについての情報をランセルが持っている。方針を揃えるとき、ランセルの情報を活用してほしい」
田中はレオンに言った。
「三国から返事が来ました。全員が賛成しています」
「そうですね。ミラ公王が、ランセルの情報を活用してほしいと書いていますね」
「そうです。ランセルはドランに近い。ランセルの情報が、最も詳しいかもしれません」
「カラさんに確認しますか」
「お願いします。ドランについて、ランセルが持っている情報を全部教えてもらいましょう」
「わかりました。今日中に手紙を出します」
「ありがとうございます」
「タナカ、外交が広がってきましたね」
「そうですね」
「三国から四国になるかもしれません」
「そうかもしれません。ただ、急がないことが大事です」
「急がない方がいい理由はなんですか」
「数が増えれば、合意を取るのが難しくなります。全会一致の原則がある限り、参加国が増えるほど、決定が遅くなります。それが問題になるかもしれません」
「なるほど。数と速さは、トレードオフですね」
「そうです。どちらを優先するかは、状況によって変わります」
「タナカが判断しますか」
「三国で判断します」
「また同じことを言う」
「事実なので」
「わかりました」
夕方、王様に三国の返事を報告した。
「全員が方針を揃えることに賛成しました」
「そうか。ではドランへの返事はどうする」
「一点だけ確認させてください。陛下は、ドランについてどんな印象を持っていますか」
「印象か。ドランとはほとんど付き合いがなかった。遠い国だ。大きい国だ。それだけだ」
「詳しくはわからない、ということですね」
「そうだ」
「ランセルがドランに近いので、ランセルの情報を待ってから動きましょう。それまでは、ドランの使者に対して、検討中という形で待ってもらいます」
「検討中という返事を出すのか」
「そうです。断るわけではなく、急ぐわけでもない。三国で方針を揃えているところだ、という説明をします」
「三国で揃えているということを、正直に言うのか」
「そうです。ドランへの返事の中で、この同盟が三国で動いていることを示します。それが、ドランへの信頼を作ります」
「なるほど。三国で動いていることを見せることで、ドランが安心する」
「そうです。一国が独断で動く同盟より、三国が合意して動く同盟の方が、信用できます」
「田中、それは正しいな」
「そうだと思います」
「では、そうしよう。田中が返事を書いてくれるか」
「かしこまりました」
夜、田中はドランへの返事を書いた。
三点書いた。
一点目。使者のご訪問を歓迎する。
二点目。三国同盟は、三国が合意して動く仕組みです。ドランへの対応についても、三国で方針を揃えています。少しお時間をいただけますか。
三点目。北の問題について、ドランでも変化が確認されているとのこと。情報を共有できれば、双方にとって有益です。
書き終えた。
レオンに確認してもらった。
「どうですか」
「良いです。三点目が特に良いです」
「どうしてですか」
「北の問題を入れることで、ドランが同盟に興味を持つ理由が明確になります。参加したい理由が、外交的な打算だけでなく、共通の問題への対処にあることが示されます」
「そうですね」
「タナカ、これはどちらから考えましたか」
「どういう意味ですか」
「ドランのために考えましたか、それとも三国のために考えましたか」
「両方です」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
「わかりました。出します」
夜、田中はメモを整理した。
【本日の完了事項】
・ドラン王国からの使者:対応。書状の内容を把握。
・三国への報告:完了。全員が方針を揃えることに賛成。
・ランセルへの情報依頼:送付済み。
・ドランへの返事:送付済み。
最後に一行書き足した。
・周辺国が三国同盟に気づいた。外交が始まった。三国が一体で動く形が、試されるときが来た。
次回「第百七話 田中が外交の準備を始めた」へつづく




