第百五話 OLAへの手紙を書いた
第百五話 OLAへの手紙を書いた
前話までのあらすじ
三国で動物の動きが落ち着いていることを確認した。
OLAの足跡が南北両方向で確認された。往来している可能性がある。
「北の問題が、脅威から関係になってきた。それが、田中がここにいた意味の一つかもしれない」とメモに書いた。
翌朝。
田中は目が覚めて、少し考えた。
OLAへの手紙を書きたいと思った。
手紙が届くかどうかは、わからなかった。
言葉が通じるかどうかも、わからなかった。
ただ、書きたかった。
田中は机に向かった。
羊皮紙を取り出した。
羽ペンを持った。
何を書けばいいか、少し考えた。
それから、書き始めた。
OLAへの手紙は、この世界の言語で書いた。
OLAが読めるかどうかは、わからなかった。
ただ、田中が知っている言語で書いた。
書いた内容は、四点だった。
一点目。三国同盟が成立したこと。
二点目。山脈の動物の動きが変わったことを確認していること。OLAが往来しているかもしれないこと。
三点目。田中がここにいる間に、OLAと話せたことへの感謝。
四点目。また会えることを、田中が望んでいること。
書き終えた。
田中は手紙を読み直した。
届かないかもしれない。
読まれないかもしれない。
ただ、書いた。
書くことで、田中の中で整理できることがあった。
田中は手紙を折りたたんだ。
封はしなかった。
山脈に持っていって、置いてくるつもりだった。
OLAが通る道があるとすれば、山脈の岩場のあたりだ。
そこに置いてくれば、もしかしたら見つけてくれるかもしれない。
田中は鞄に手紙を入れた。
レオンに声をかけた。
「今日、山脈に行きます」
「一人でですか」
「そうです。カラさんに確認してもらった足跡の場所を、自分で見てきたいです」
「護衛はどうしますか」
「ロイド卿に一名だけつけてもらいます。遠くで待っていてもらえれば十分です」
「わかりました。ロイド卿に連絡します」
「ありがとうございます」
「タナカ、手紙を持っていくんですか」
「見えましたか」
「鞄に入れているのが見えました。OLAへの手紙ですか」
「そうです」
「届くといいですね」
「届くかどうかはわかりません」
「それでも書いたんですね」
「書きたかったので」
「タナカ、一つだけ」
「はい」
「OLAへの手紙を書くとき、どんな気持ちでしたか」
「友達に手紙を書く気持ちと、少し似ていました」
「友達ですか」
「そうです。言葉は完全には通じませんでした。ただ、名前を交わして、一緒に動いた。それが、友達に近い関係だったかもしれません」
「そうですね」
「この世界に来てから、友達と呼べる存在が増えました」
「誰ですか」
「OLAも、そうです。シアさんも、アレンさんも、レオンも」
「私も、ですか」
「そうです」
「タナカ、それは、この世界に来て良かったという理由になりますね」
「そうですね」
山脈に向かった。
護衛の騎士が一名、遠くについてきた。
岩場に着いた。
OLAはいなかった。
ただ、足跡があった。
カラが確認した足跡だった。
南に向かうものと、北に向かうものが、両方あった。
田中はしゃがんで、足跡を見た。
大きかった。
OLAの足跡だった。
「OLA」と田中は言った。
返事はなかった。
当然だった。
田中は鞄から手紙を取り出した。
岩の隙間に、挟んだ。
風で飛ばないように、小石を乗せた。
「手紙を置いていきます。読めるかどうかはわかりません。ただ、書きました。また会えるといいですね」
田中は頭を下げた。
それから、少しの間、その場に立っていた。
山脈が大きかった。
光がなかった。
ただの山脈だった。
ただ、OLAがいる山脈だった。
田中はそれが、好きだった。
帰り道。
護衛の騎士が横に並んだ。
「田中様、手紙を置いてきたんですか」
「そうです」
「届きますか」
「わかりません」
「届くといいですね」
「そうですね」
「田中様、向こうの生き物と話したことがあると聞いています」
「そうです」
「どんな生き物でしたか」
「大きくて、四本足で、岩の色をしていました。目が、こちらを真剣に見ていました」
「怖くなかったですか」
「最初は怖かったです。ただ、名前を呼んだら、反応してくれました」
「名前を呼んだだけで」
「そうです。名前を呼ぶことが、繋がりの始まりだと思っています」
「なるほど」
「どんな相手でも、名前を知って、呼べれば、繋がれます」
「田中様らしい考え方ですね」
「そうですか」
「はい。田中様が来てから、この城が変わったと、私も感じています」
「ありがとうございます」
「私は、田中様が来る前から、この城にいます。田中様が来てから、何かが変わりました。うまく言えませんが」
「どんな変化ですか」
「動きやすくなった気がします。何かあったとき、誰に相談すればいいかがわかるようになりました」
「仕組みができたからですね」
「そうかもしれません。仕組みができて、動きやすくなった」
「良かったです」
「田中様、ありがとうございます」
「あなたが動いてくれているからです」
「どちらも本当だ、ですね」
「そうです。知っていましたか」
「城の中で、みんなが使っています」
「そうですか」
「田中様の言葉が広がっています」
「皆さんが広めてくれたんです」
「どちらも本当だ、ですね」
「そうです」
二人で少し笑った。
城に戻った。
レオンが待っていた。
「どうでしたか」
「足跡を確認しました。南北両方向の足跡が、確かにありました」
「OLAの足跡ですね」
「そうだと思います」
「手紙は」
「岩の隙間に置いてきました」
「良かったです」
「届くかどうかはわかりません」
「届かなくても、書いた意味はあります」
「そうですね」
「タナカが書いたという事実が残ります。それが大事です」
「そうかもしれません」
「タナカ、今日はどんな一日でしたか」
「良い一日でした」
「具体的には」
「OLAの足跡を見ました。手紙を置きました。護衛の騎士と話しました。それだけです」
「それだけですか」
「それだけです。ただ、全部、良かったです」
「タナカが、やることが少ない一日を、良かったと言えるようになりましたね」
「そうですね」
「変わりましたよ」
「そうかもしれません」
夜、田中はメモを整理した。
【本日の完了事項】
・山脈への訪問:足跡を確認。南北両方向の足跡あり。
・OLAへの手紙:岩の隙間に置いてきた。
・護衛の騎士との会話:城が動きやすくなった、と言っていた。
最後に一行書き足した。
・OLAへの手紙を置いてきた。届くかどうかはわからない。ただ、書いて、置いた。それで十分だ。
次回「第百六話 周辺国が三国同盟に気づいた」へつづく




