表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
106/120

第百五話 OLAへの手紙を書いた

第百五話 OLAへの手紙を書いた


前話までのあらすじ

三国で動物の動きが落ち着いていることを確認した。

OLAの足跡が南北両方向で確認された。往来している可能性がある。

「北の問題が、脅威から関係になってきた。それが、田中がここにいた意味の一つかもしれない」とメモに書いた。


 翌朝。

 田中は目が覚めて、少し考えた。

 OLAへの手紙を書きたいと思った。

 手紙が届くかどうかは、わからなかった。

 言葉が通じるかどうかも、わからなかった。

 ただ、書きたかった。

 田中は机に向かった。

 羊皮紙を取り出した。

 羽ペンを持った。

 何を書けばいいか、少し考えた。

 それから、書き始めた。


 OLAへの手紙は、この世界の言語で書いた。

 OLAが読めるかどうかは、わからなかった。

 ただ、田中が知っている言語で書いた。

 書いた内容は、四点だった。

 一点目。三国同盟が成立したこと。

 二点目。山脈の動物の動きが変わったことを確認していること。OLAが往来しているかもしれないこと。

 三点目。田中がここにいる間に、OLAと話せたことへの感謝。

 四点目。また会えることを、田中が望んでいること。

 書き終えた。

 田中は手紙を読み直した。

 届かないかもしれない。

 読まれないかもしれない。

 ただ、書いた。

 書くことで、田中の中で整理できることがあった。

 田中は手紙を折りたたんだ。

 封はしなかった。

 山脈に持っていって、置いてくるつもりだった。

 OLAが通る道があるとすれば、山脈の岩場のあたりだ。

 そこに置いてくれば、もしかしたら見つけてくれるかもしれない。

 田中は鞄に手紙を入れた。


 レオンに声をかけた。

「今日、山脈に行きます」

「一人でですか」

「そうです。カラさんに確認してもらった足跡の場所を、自分で見てきたいです」

「護衛はどうしますか」

「ロイド卿に一名だけつけてもらいます。遠くで待っていてもらえれば十分です」

「わかりました。ロイド卿に連絡します」

「ありがとうございます」

「タナカ、手紙を持っていくんですか」

「見えましたか」

「鞄に入れているのが見えました。OLAへの手紙ですか」

「そうです」

「届くといいですね」

「届くかどうかはわかりません」

「それでも書いたんですね」

「書きたかったので」

「タナカ、一つだけ」

「はい」

「OLAへの手紙を書くとき、どんな気持ちでしたか」

「友達に手紙を書く気持ちと、少し似ていました」

「友達ですか」

「そうです。言葉は完全には通じませんでした。ただ、名前を交わして、一緒に動いた。それが、友達に近い関係だったかもしれません」

「そうですね」

「この世界に来てから、友達と呼べる存在が増えました」

「誰ですか」

「OLAも、そうです。シアさんも、アレンさんも、レオンも」

「私も、ですか」

「そうです」

「タナカ、それは、この世界に来て良かったという理由になりますね」

「そうですね」


 山脈に向かった。

 護衛の騎士が一名、遠くについてきた。

 岩場に着いた。

 OLAはいなかった。

 ただ、足跡があった。

 カラが確認した足跡だった。

 南に向かうものと、北に向かうものが、両方あった。

 田中はしゃがんで、足跡を見た。

 大きかった。

 OLAの足跡だった。

「OLA」と田中は言った。

 返事はなかった。

 当然だった。

 田中は鞄から手紙を取り出した。

 岩の隙間に、挟んだ。

 風で飛ばないように、小石を乗せた。

「手紙を置いていきます。読めるかどうかはわかりません。ただ、書きました。また会えるといいですね」

 田中は頭を下げた。

 それから、少しの間、その場に立っていた。

 山脈が大きかった。

 光がなかった。

 ただの山脈だった。

 ただ、OLAがいる山脈だった。

 田中はそれが、好きだった。


 帰り道。

 護衛の騎士が横に並んだ。

「田中様、手紙を置いてきたんですか」

「そうです」

「届きますか」

「わかりません」

「届くといいですね」

「そうですね」

「田中様、向こうの生き物と話したことがあると聞いています」

「そうです」

「どんな生き物でしたか」

「大きくて、四本足で、岩の色をしていました。目が、こちらを真剣に見ていました」

「怖くなかったですか」

「最初は怖かったです。ただ、名前を呼んだら、反応してくれました」

「名前を呼んだだけで」

「そうです。名前を呼ぶことが、繋がりの始まりだと思っています」

「なるほど」

「どんな相手でも、名前を知って、呼べれば、繋がれます」

「田中様らしい考え方ですね」

「そうですか」

「はい。田中様が来てから、この城が変わったと、私も感じています」

「ありがとうございます」

「私は、田中様が来る前から、この城にいます。田中様が来てから、何かが変わりました。うまく言えませんが」

「どんな変化ですか」

「動きやすくなった気がします。何かあったとき、誰に相談すればいいかがわかるようになりました」

「仕組みができたからですね」

「そうかもしれません。仕組みができて、動きやすくなった」

「良かったです」

「田中様、ありがとうございます」

「あなたが動いてくれているからです」

「どちらも本当だ、ですね」

「そうです。知っていましたか」

「城の中で、みんなが使っています」

「そうですか」

「田中様の言葉が広がっています」

「皆さんが広めてくれたんです」

「どちらも本当だ、ですね」

「そうです」

 二人で少し笑った。


 城に戻った。

 レオンが待っていた。

「どうでしたか」

「足跡を確認しました。南北両方向の足跡が、確かにありました」

「OLAの足跡ですね」

「そうだと思います」

「手紙は」

「岩の隙間に置いてきました」

「良かったです」

「届くかどうかはわかりません」

「届かなくても、書いた意味はあります」

「そうですね」

「タナカが書いたという事実が残ります。それが大事です」

「そうかもしれません」

「タナカ、今日はどんな一日でしたか」

「良い一日でした」

「具体的には」

「OLAの足跡を見ました。手紙を置きました。護衛の騎士と話しました。それだけです」

「それだけですか」

「それだけです。ただ、全部、良かったです」

「タナカが、やることが少ない一日を、良かったと言えるようになりましたね」

「そうですね」

「変わりましたよ」

「そうかもしれません」


 夜、田中はメモを整理した。

 【本日の完了事項】

 ・山脈への訪問:足跡を確認。南北両方向の足跡あり。

 ・OLAへの手紙:岩の隙間に置いてきた。

 ・護衛の騎士との会話:城が動きやすくなった、と言っていた。

 最後に一行書き足した。

 ・OLAへの手紙を置いてきた。届くかどうかはわからない。ただ、書いて、置いた。それで十分だ。


次回「第百六話 周辺国が三国同盟に気づいた」へつづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ