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第百四話 北の問題、その後

第百四話 北の問題、その後


前話までのあらすじ

ランセルから二点の情報が来た。ネルがアレンと巡回を始めた。山脈周辺の動物の動きが変わっている可能性が出た。

王様と一緒に山脈に向かってOLAに声を出した。

「王様と一緒に、OLAに声を出した。届いているかどうかはわからない。ただ、言えた」とメモに書いた。


 三国から動物の動きに関する確認が揃った。

 レオンがまとめた。

「三国の情報を整理しました」

「どんな内容ですか」

「まず、ランセルです。カラさんから追加の報告が来ました。動物の群れが二週間連続でゆっくり南に移動しているとのことです。以前のように急いで逃げる動きではないとのことです」

「続けてください」

「魔王城です。シアさんから確認が来ました。魔王城周辺でも、似たような変化があるとのことです。北から来る動物の群れが、以前より落ち着いた動きをしているとのことです」

「三か所で同じ変化が確認されたんですね」

「そうです。この国では、アレンさんが確認しています。同じく、落ち着いた動きだったとのことです」

「三国全部で、同じ変化が確認された」

「そうです。これは、偶然ではないと思います」

「そうですね」

「タナカ、これは何を意味していますか」

「向こうの状況が、GOL以前より安定している可能性があります」

「安定している、ですか」

「そうです。以前、動物が急いで逃げていたのは、向こうで何かが起きていたからだと思います。それが、GOLが止まってから変わっています」

「OLAと田中が働きかけたことで、向こうが落ち着いたということですか」

「可能性として。ただ、確認はできません」

「確認する方法はありますか」

「OLAと話せれば、わかります。ただ、今は話せません」

「では、どうしますか」

「観察を続けます。変化が続けば、安定しています。変化が止まれば、また動きが出るかもしれません」

「観察を続ける、ですね」

「そうです。急いで対処するより、観察する方が今は正しいと思います」

「わかりました。カラさんとシアさんに伝えます」

「よろしくお願いします」


 その日の午後、ロイドが田中のところに来た。

「田中、北の動物の変化について、一点確認したい」

「どうぞ」

「動物の動きが落ち着いたということは、軍の準備をどう考えればいいか」

「続けてください」

「GOLが止まってから、余は北方への備えを続けてきた。兵站、連絡網、偵察。全部、継続している。ただ、状況が安定しているなら、配置を変えるべきか」

「ロイド卿は、どう判断しますか」

「田中に聞きたかった」

「田中の考えを言いますが、最終判断はロイド卿にしていただきたいです」

「わかった。言え」

「配置は変えない方がいいと思います」

「なぜだ」

「状況が安定しているのは今のことです。来月も同じかどうかはわかりません。準備を続けることは、無駄ではないです。安心を作ります」

「安心を作る」

「そうです。住民が、軍が備えていることを知っていれば、安心できます。安心があると、普段の生活が続けられます。それが、平和の基盤です」

「なるほど。準備を続けることで、安心が生まれる」

「そうです」

「田中、余は以前、軍の備えは戦うためにあると思っていた」

「そうでしたね」

「今は、備えは安心を作るためにあると思っている」

「そうですね」

「田中が来てから、考え方が変わった」

「ロイド卿が考えたことです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「わかった。配置は変えない。ただし、緊急度を少し下げる。その分、訓練に充てる」

「それは良い判断ですね」

「田中に聞いてみると、判断しやすくなる」

「田中が整理しただけです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「この言い方、余も使うようになった。ガルドが先に使っていたが」

「そうですね。広がっています」

「田中の言葉が広がっている。田中が広めたのではなく、皆が広めた」

「どちらも本当です」

「そうだな」


 夕方、カラから追加の手紙が来た。

 レオンが読んだ。

「タナカ、カラさんから大事な情報です」

「どんな内容ですか」

「山脈の東端で、足跡を見つけたとのことです」

「足跡ですか」

「はい。以前、田中が最初に山脈を訪れたときに確認した足跡と、同じ種類の足跡だとのことです」

「OLAの足跡ですか」

「そう判断できると、カラさんが書いています。ただ、今回の足跡は、以前と違う点があるとのことです」

「どう違いますか」

「以前の足跡は、南に向かっていました。今回の足跡は、南に向かっているものと、北に向かっているものが、両方あったとのことです」

「北に向かっている足跡も、ですか」

「そうです。カラさんが書いています。『以前は、向こうからこちらに来ていた。今回は、こちらからあちらに戻っている足跡もある。往来がある可能性がある』と」

「往来、ですか」

「そうです。一方通行ではなく、行ったり来たりしている可能性があります」

「それは、大きな変化ですね」

「そうですね。タナカ、これは何を意味していますか」

「向こうとこちらの間に、OLAが自由に行き来できる状況が生まれているかもしれません」

「GOLが止まったから、ですか」

「GOLが完全に消えたわけではないかもしれません。ただ、田中とOLAが働きかけたことで、道が完全に閉じたのではなく、制御できる状態になったのかもしれません」

「制御できる状態、ですか」

「そうです。開きっぱなしでもなく、完全に閉じてもいない。OLAが必要なときに通れる道になっているかもしれません」

「OLAが自分で決めて通れる」

「そうかもしれません」

「それは、良いことですか」

「良いことだと思います。一方的に道が開くより、向こうが自分で判断できる方が、安全です」

「なるほど」

「ただ、確認できていないので、推測です」

「田中の推測は、大体当たりますよ」とレオンが言った。

「そうですか」

「そうです。信じます」

「ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えましたね」

「今日は言えます」


 夜、田中はメモを整理した。

 【北の問題・現状まとめ】

 ・三国で動物の動きが落ち着いていることを確認。GOL以前より安定している可能性。

 ・OLAと思われる足跡が確認された。南北両方向の足跡あり。往来している可能性。

 ・軍の配置は変えない。ただし緊急度を下げ、訓練に充てる。ロイドが判断した。

 ・OLAが自分で道を制御している可能性がある。良い変化。

 田中はリストを見た。

 北の問題が、田中が来た頃とは全く違う状況になっていた。

 脅威から、関係へ。

 一方的な問題から、双方向のやり取りへ。

 まだ確認できていないことは多かった。

 ただ、方向は良くなっていた。

 田中は最後に一行書き足した。

 ・北の問題が、脅威から関係になってきた。それが、田中がここにいた意味の一つかもしれない。


次回「第百五話 OLAへの手紙を書いた」へつづく

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