第百三話 ランセルからの新しい情報
第百三話 ランセルからの新しい情報
前話までのあらすじ
シアからの手紙で、魔王城の変化を把握した。魔王陛下が村に行った。グレイドの経験が手順書に入った。
「魔王陛下が村に行った。グレイドの経験が文書に入った。田中がいない場所で、変化が続いている。それが本物の変化だ」とメモに書いた。
カラから手紙が来た。
今回は、情報共有の定期報告だけでなく、別の内容が含まれていた。
レオンが翻訳した。
「タナカ、カラさんからです。二点あります」
「どうぞ」
「一点目。ランセルから来ているネルについてです。この城に来て一ヶ月が経ちました。アレンさんと一緒に巡回を始めたとのことです」
「ネルはどうですか」
「カラさんが書いています。『ネルから手紙が来た。アレンという人間が面白いと書いていた。剣が強いのに、攻撃しないで観察するやり方を教えてくれる、と』」
「アレンさんの観察するやり方が、ネルに伝わっているんですね」
「そうです。続きがあります。『ネルは、田中という人間にも会ったと書いていた。田中はほとんど何もしていないのに、城が田中を中心に動いているように見える、と』」
田中は少し止まった。
「ネルがそう書いたんですか」
「そうです。ネルの目には、そう見えるということですね」
「そうですか」
「タナカ、どんな気持ちですか」
「複雑です」
「なぜですか」
「ほとんど何もしていないのに、中心に見える、というのは、良いことなのか悪いことなのか、わかりません」
「私は良いことだと思います」
「そうですか」
「田中が何もしていないように見えながら、場が動いている。それは、田中の仕事が目に見えない仕事だということです。目に見えない仕事が機能しているから、良く見える」
「そうかもしれません」
「二点目を読みますか」
「読んでください」
「二点目は、北の情報です」とレオンが言った。
「どんな情報ですか」
「山脈の変化が一点あります。カラさんが書いています。『先週、山脈の東端で、新しい動物の群れを確認した。南に向かって移動していた。ただ、以前の群れと違う点がある。逃げているような動きではなく、ゆっくり移動していた』」
「逃げているのではなく、ゆっくり移動している、ですか」
「そうです。以前、田中が来る前の段階では、動物が北から逃げるように南に移動していました。それが、今回はゆっくりだったとのことです」
「状況が変わっているかもしれませんね」
「そうですね。カラさんが続けて書いています。『GOLが止まってから、山脈周辺の動物の動きが変わっている。田中とOLAが働きかけたことが、向こうの側にも影響している可能性がある』と」
「向こう側にも影響が出ているかもしれない」
「そうです。カラさんは、断言はしていません。ただ、可能性として伝えたいとのことです」
「そうですか」
「タナカ、これは大事な情報ですか」
「大事です。ただ、まだわかりません。動物の動きが変わった原因が、GOLが止まったからなのか、別の理由があるのか、確認が必要です」
「どうやって確認しますか」
「カラさんに、もう少し観察を続けてもらいます。また、シアさんにも魔王城周辺の動物の動きを確認してもらいます。三国で同じ変化が確認できれば、信憑性が上がります」
「三国で確認する、ですね」
「そうです。一国で確認したことより、三国で確認したことの方が、信用できます」
「わかりました。シアさんへの確認もレオンが出しますか」
「お願いします」
「はい」
午後、アレンを呼んだ。
「ネルはどうですか」
「良いですよ。最初は緊張していましたが、一緒に巡回するうちに慣れてきました」
「そうですか」
「タナカさん、ネルが変なことを言っていました」
「何を言っていましたか」
「タナカさんはほとんど何もしていないのに、どうして城が動いているんですか、と聞いてきました」
「そうですか」
「俺、どう答えればいいかわからなくて、答えられませんでした」
「どう答えようとしましたか」
「タナカさんが仕組みを作ったから、と言おうとしたんですが、それだけじゃない気がして」
「そうですね」
「タナカさん、ネルにどう説明しますか」
「田中がネルに説明する必要はないです」
「えっ」
「アレンさんが感じたことを、アレンさんの言葉で伝えてください」
「俺の言葉で、ですか」
「アレンさんは一年以上、田中を見てきました。田中がどういう人間か、アレンさんが一番わかっています」
「そうですか」
「田中が説明するより、アレンさんが説明する方が、ネルに伝わります」
「俺が、か」
「そうです」
「難しいですね」
「難しいですが、試してみてください。うまくいかなくても、やってみないとわかりません」
「タナカさんの言葉ですね」
「そうですね」
「わかりました。試してみます」
「ありがとうございます」
「タナカさん、一つだけ」
「はい」
「ネルに説明しようとしたら、俺がタナカさんのことをどう思っているかが、はっきりわかりました」
「どう思っていましたか」
「やることがある限り、動く人間だと思っています。それだけじゃなくて、動くことで周りも動けるようにする人間だと思っています」
「そうですか」
「それをネルに伝えます」
「よろしくお願いします」
「タナカさんのことを話すの、少し恥ずかしいですね」
「なぜですか」
「好きな人の話をするみたいで」
「そうですか」
「違いますよ。ただ、似た感じがします」
「そうですか」
「大事な人の話をするとき、ちゃんと伝えたくなる感じが」
「そうかもしれませんね」
「タナカさん、ありがとうございます」
「アレンさんが考えてくれたからです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
夕方、王様に報告した。
「ランセルから二点の情報が来ました。一点目はネルについてです。アレンさんと一緒に巡回を始めています」
「ネルは馴染んでいるか」
「そうです。アレンさんの観察するやり方を覚えてきているとのことです」
「アレンが教えているのか」
「一緒に動いているうちに、伝わっているようです」
「言葉で教えなくても、動きで伝わる、ということだな」
「そうですね」
「田中がよくやっていたことだ」
「そうですね。アレンさんが、同じことをしています」
「アレンも変わったな」
「そうですね」
「二点目は何だ」
「北の情報です。山脈周辺の動物の動きが変わっている可能性があります。三国で確認を続けます」
「向こうに変化があるということか」
「可能性として」
「田中とOLAが働きかけたことが、影響しているかもしれない、ということか」
「そうかもしれません」
「OLAは今、どこにいると思うか」
「わかりません。ただ、向こうの世界にいると思っています」
「連絡は取れるか」
「今は、取れません。ただ、田中が山脈に向かって声を出すことはできます」
「届くか」
「届くかどうかはわかりません。ただ、やってみることはできます」
「やってみないとわからない、か」
「そうです」
「田中、今夜、山脈に向かって声を出してみろ」
「そうします」
「余も一緒に出してみるか」
「そうしますか」
「余からも、OLAへの言葉がある」
「そうですか」
「ありがとう、という言葉を伝えたい。GOLを止めてくれたことへの礼だ」
「一緒に出しましょう」
「そうしよう」
夜、田中と王様は城の北側の壁の上に立った。
山脈が見えた。
光がなかった。
ただの山脈だった。
王様が言った。
「どうすればいい」
「ただ、声を出すだけです。届くかどうかはわかりません」
「わかった」
二人で山脈に向かって声を出した。
王様が言った。
「OLA、ありがとう」
田中が言った。
「OLA、変化が起きています。動物の動きが変わっています。向こうでも、何かが変わっていますか」
返事はなかった。
当然だった。
ただ、言いたかった。
「届くかな」と王様が言った。
「わかりません」と田中が言った。
「ただ、言えた」
「そうですね」
「言えただけで、良かった」
「そうですね」
「田中、余は山脈を見るのが、以前ほど怖くなくなった」
「そうですか」
「GOLが止まったから、だけではない」
「どうしてですか」
「向こうに、OLAがいるとわかっているから、だと思う。向こうが全部、敵ではないとわかっているから」
「そうですね」
「田中が教えてくれた」
「OLAが教えてくれました」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
二人でしばらく山脈を見た。
夜風が吹いていた。
田中はメモアプリを開いた。
一行書いた。
・王様と一緒に、OLAに声を出した。届いているかどうかはわからない。ただ、言えた。
次回「第百四話 北の問題、その後」へつづく




