第百話 同盟成立後、初めての月次情報交換
第百話 同盟成立後、初めての月次情報交換
前話までのあらすじ
同盟が成立して一ヶ月が経った。やることが少なくなった。焦らなかった。
王様が「余はお前が来てから、変わった。変わり続けられると思っている」と言った。
「今日、空を見た。焦らなかった。それが、積み上げの証拠かもしれない」とメモに書いた。
同盟成立後、初めての三国月次情報交換の日だった。
これまでの月次情報交換は、田中とシアの二者間だった。
今日から、三国が揃う形になった。
レオンが窓口として、シアとカラに連絡を取り、日程を調整していた。
田中はレオンに聞いた。
「今日の準備は大丈夫ですか」
「大丈夫です。資料も揃っています」
「田中は今日、何をしますか」
「聞きます」
「聞くだけですか」
「そうです。今日の情報交換は、レオンが進めます。田中は聞いています」
「本当にそれだけですか」
「問題が起きたときだけ、口を挟みます」
「わかりました」
「レオン、今日が最初の三国月次情報交換です。うまくいかない部分が出るかもしれません。それは問題ではないです」
「そうですか」
「最初は、うまくいかない部分を見つけることが目的です。うまくいかない部分を見つければ、次に直せます」
「失敗しても良い、ということですか」
「失敗ではなく、発見です。最初からうまくいくより、発見がある方が、次が良くなります」
「わかりました。発見を探します」
「よろしくお願いします」
午前中、三国の情報が集まった。
シアがこの城に来ていた。
カラはランセルにいて、手紙で情報を送ってきていた。
レオンが全体を進めた。
「では、三国月次情報交換を始めます。最初に、この国の現状から」
レオンがこの国の情報を読み上げた。
シアが魔王城の情報を話した。
カラの手紙から、ランセルの情報をレオンが読み上げた。
全部で一時間だった。
終わった後、レオンが田中に言った。
「タナカ、今日はどうでしたか」
「良かったです」
「問題はありましたか」
「一点、発見がありました」
「どんな発見ですか」
「カラさんが手紙で参加しているので、リアルタイムで話し合えない部分がありました。手紙の内容に質問が出ても、その場で答えが来ません」
「そうですね。どう対処しますか」
「次回から、事前に質問を想定しておいて、カラさんに答えを用意してもらう形にしましょう」
「わかりました。カラさんに伝えます」
「レオンが伝えてください」
「はい」
「他に、レオンが気になった点はありましたか」
「一点あります」
「なんですか」
「三国の情報を読み上げるとき、フォーマットが揃っていない部分がありました。次回から、全員が同じフォーマットを使う方が、比較しやすくなります」
「正しいですね」
「フォーマットを作って、三国に送ります」
「お願いします」
「他に、シアさんから何かありましたか」とレオンがシアに聞いた。
「余からは一点だけ」とシアが言った。
「どうぞ」
「初めてにしては、うまくいった。ただ、次はもっと良くなる」
「そうですね」とレオンが言った。
「レオン、余は今日、レオンが進めているのを見て、思ったことがある」
「なんですか」
「田中がいなくても、これが続く、と思った」
「そうですね」
「田中が間に入っていたとき、田中がいないと動けないかもしれない、という不安があった。今日、レオンが動いているのを見て、不安がなくなった」
「そうですか」
「田中が作ったものが、田中なしで動いている。それが、本物の仕組みだ」
「シアさん、ありがとうございます」とレオンが言った。
「礼は田中に言え」とシアが言った。
「田中にも言います。ただ、今日はレオンにも言いたかったです」
「そうか。受け取れ」
「はい。受け取ります」
昼食を三人で食べた。
田中、レオン、シアの三人だった。
スープが出てきた。
「今日もスープだな」とシアが言った。
「そうですね」と田中が言った。
「余がこの城に来るたびに、スープが出る」
「そうですね」
「スープを飲むと、この城に来たと感じる」
「そうですか」
「スープが、場を作っている」
「王様もそう言っていましたね」
「王もか」
「そうです」
「田中がスープが好きだから、スープが出る。スープが出るから、場が作られる。田中が場を作っているということだな」
「スープが場を作っているんです」
「どちらも本当だ」
「そうですね」
三人で笑った。
「レオン、今日は本当によくやった」とシアが言った。
「ありがとうございます」とレオンが言った。
「田中、レオンに何か言うか」とシアが言った。
「今日は、レオンの仕事でした。田中が何か言うより、シアさんが言ってくれた方が重みがあります」
「それが田中の役割か」
「そうです。今日の田中の役割は、聞いていることでした」
「聞いているだけで、役割があるのか」
「田中が聞いていると、レオンが安心します。何か起きたときに、田中がいます。それが、今日の田中の役割でした」
「なるほど。いるだけで、役割がある」
「そうです」
「田中、一つだけ」
「どうぞ」
「今日は、どんな気持ちで聞いていたか」
「良かった、という気持ちです」
「良かった、だけか」
「あと、少し、誇らしかったです」
「誇らしい、ですか」
「レオンが動いているのを見て、少し誇らしかったです」
「そうか。受け取れ」
「受け取ります」
午後、シアが帰った。
田中とレオンは、今日の記録を整理した。
「タナカ、今日の発見が二点ありました。カラさんへの事前質問と、フォーマットの統一です」
「そうですね」
「次回までに対処します」
「よろしくお願いします」
「タナカ、今日はどうでしたか。本当に」
「本当に、良かったです。レオンが動いていました。シアさんが来てくれました。カラさんが手紙で参加してくれました。三国が揃いました」
「初めて揃いましたね」
「そうです。三国が揃った月次情報交換。以前は、田中とシアさんの二人でした。今日は、三国が揃いました」
「それは、大きな変化ですね」
「そうです。ただ、田中はほとんど何もしていません」
「それが、田中がここにいた意味ですよ」
「そうですね」
「タナカ、今日は誇らしかったと言いましたね」
「言いました」
「私もです」
「レオンも誇らしかったですか」
「タナカが聞いているだけで、私が動けました。タナカが何も言わなくても、タナカがいるから動けた。それが誇らしかったです」
「そうですか」
「タナカが変わりましたよ」
「どう変わりましたか」
「以前は、タナカが全部動いていました。今日は、私が動いていました。タナカは聞いていました。それが変化です」
「そうですね」
「良い変化です」
「そうかもしれません」
夜、田中はメモを整理した。
【同盟成立後・初めての三国月次情報交換】
・参加:この国(田中、レオン)、魔王城、ランセル(カラ、手紙で参加)。
・進行:レオンが担当。問題なく終わった。
・発見:カラさんへの事前質問の仕組みが必要。フォーマットの統一が必要。
・田中の役割:聞いていること。いること。
田中はリストを見た。
三国が揃った月次情報交換が動き始めた。
田中は聞いていただけだった。
レオンが動いていた。
シアが来てくれた。
カラが参加していた。
それが、この一年間で積み上がってきたものだった。
田中は最後に一行書き足した。
・三国が揃った月次情報交換が始まった。田中は聞いていただけだった。それが、積み上げだ。
次回「第百一話 アレンが前線で変化を感じた」へつづく




