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木の葉を透かし、光が降り注ぐ。
枝でゆらゆらとぶら下がる葉っぱの虫食いの穴の向こうに清々しい水色の空が覗いていて、そのあまりの鮮やかさに自分の心まで澄みわたるような気がした。
道の両脇を林に囲まれた道を歩きながら、乾いた土や枯れ葉の匂いを胸いいっぱいに吸い込む。
林の奥に見える寂れた祠は、樹々の間から差し込む光を、屋根にこびりついた苔が幻想的に反射させていた。
綺麗だな――。
手入れのされていない鬱蒼とした草に埋もれているのに、あの周りだけ瑞々しくて、神々しく見える。
静かなのがまた良い。人の気配を感じないのに、命の気配はそこかしこに感じる。
鳥の囀りが、虫の声が、人間もまた自然の一部でしかないのだと突き付けてくるかのようだ。
暫く見ていないうちに、また雑草の背丈が伸びた。
祠の入り口をも覆い隠すように、猫じゃらしが好き放題に生えていた。
夜まで時間があるし、やる事も無いから、寒くなる前にちょっとだけ手入れしようかな。
蛇は夜行性と聞くから、冬眠前であっても出会わないだろうか。
まだ明るいから現れても気付ける筈だ、多分。
その前に、この場所を掃除しても良いのか確認しなければならない。
どこに電話して良いのかわからない僕は、とりあえず役場に電話し、そこからこの土地を管理している人に確認をしてもらう事になった。
返事はすぐだった。
酷い有様なのはわかっていたので、いくらでも好きにやってくれて良いという事らしい。
ジャージに着替え、ベランダで虫よけスプレーを振り、軍手とゴミ袋を念の為三枚用意した僕は、気合を入れるようにタオルを首に掛けて両端をぎゅっと握る。
「よし、行くか」
帰って来たばかりの僕がまた出て行こうとするのを、水槽の中から金魚が不思議そうな表情を浮かべながらも「がんばれよー」とひれを振っていた。
チチチッ
チュン チュンチュン
林の中を、鳥たちのさえずりが響く。少しツンとした木肌や雑草の匂いが僕の鼻をくすぐる。
祠の周りの雑草をむしり、ゴミ袋に入れていく。涼しい筈なのに、僕の首回りや額にはあっという間に汗が滲み始めていた。
手近な草を掴もうとして、手を止めた。
テントウムシが遊んでいるみたいに風にのってゆらゆらと揺れていたのだ。
これは後にしよう。
祠の屋根にこびり付いた苔を丁寧に剥がし、緑に沁みついた苔の痕跡をペットボトルに入れて来た水で流して、木材を傷めないようにそっと布で撫でながら取っていく。
「お。良い感じ」
ぼそっと呟いた僕の声は、近くの枝の上で楽しそうにキィーキィーと囀るモズの声にかき消された。
気が付けば、濃厚な色を帯びた木漏れ日が、森に幾重にも射していた。
黙々と作業をしているうちに4時間も経っていたらしい。
せっかく生えている野の花や草も、あまり取り過ぎるとさっきのテントウムシみたいに生き物の生活する場所が無くなってしまう気がする。
「これくらいで良いか」
4時間前までの鬱蒼と茂っていた場所とは見違えるほどにさっぱりして、野の花たちも猫じゃらしも、ゆとりをもって風に揺れている。
祠も苔や汚れ、住人のいない蜘蛛の巣を払い、随分とすっきりしたように見える。
満足感で自然と頬が緩む。
首に巻いていたタオルで額の汗を拭い、ぱんぱんになったゴミ袋三つの口を縛って家路についた。
田んぼの向こうに群生する黄色いセイタカアワダチソウ。
薄紫とピンク色が混ざり合う優しい夕空と、民家の庭に植えられたキンモクセイの香りに、大きく深呼吸する。
田んぼでは農家のお爺さんが野焼きをしていた。
白い煙と共にどこか懐かしい匂いが漂い、少しセンチメンタルな気持ちになりながら、長い田舎の一本道を堪能するように歩いていた。




