歩いていたのは?3
「入院する少し前から熱が下がらんでな」
そう言いながら、彼はグラスの水滴を指でなぞった。
「おかしいな思いながら大きい病院に紹介状書いてもらったら、まぁ……ケツの方に膿が溜まっててよ。それで熱が下がらんかったんやけどな。どうもあと二、三日遅かったら死んでたらしいわ」
そう言うと、彼は目線を少し下げた。
「まぁ、それで緊急入院になったんやけど、その日は全然熱が下がらへんくてな。四人部屋の大部屋やったんやけど、俺ともう一人、爺さんの二人だけやってん」
箸を置き、彼は続ける。
「で、初日。熱が上がりすぎてたんか分からんけど、なかなか寝付けんかってん。そしたら夜中にバタバタバタって騒がしいな思ってたら、まぁ……爺さんが急変したらしくてな、さらに眠れんかったわけよ」
そこまで言うと、彼は烏龍茶をグビッと飲んだ。
「それはなんというか……大変やな」
そう言うと、彼は軽く肩をすくめた。
「おぅ。気付いたら朝やってんけど、寝不足と熱で気怠いしボーッとしてたら、まぁ、検査やらなんやらで気付いたら大部屋に俺一人やったわ。その日に膿が抜けたんか、熱が下がってきて眠れるようになってんけどな」
彼は指先で机を軽く叩きながら続ける。
「部屋のエアコンが急に止まってよ。暑いからつけに行ったら電源落ちてて、つけたらつくねん。で、また二、三時間したら勝手に切れるねん。タイマーかな?思って確認したけど、切りタイマーついてないし。変やな思いながら、暑くて目が覚めたらつける……を繰り返してたんよ」
「それは寝れんし辛いやろ?」
「せやねん。困ってな。翌朝の回診でその事を看護師さんに伝えたねん。そしたら、ちょっと目を逸らしながら“言うときます”言うて行ってもた」
彼は苦笑いを浮かべた。
「次の日は手術して、痛みで寝れんかったねんけど、それでも変わらんかったんよな。何回目かのつけ直ししてたら、耳元で“チッ”って舌打ち聞こえたりして……嫌やったわ」
「嫌やったってそれだけか?相変わらず肝が据わってるというか、なんというか」
そう言うと、彼は笑いながら
「生きてる人間の方が怖いやろ?」
「まぁ、そうかもしれんけど」
「まぁ、まだ続きがあってな」
そう言いながら、彼は指先を机の上で組んだ。




