夜についてくるのは?
陽の光が少し傾いてきて、空の色がゆっくりと夕闇に溶けていく。
昼間のじりじりした暑さはまだ残っているけれど、さっきまでよりは少しだけマシに感じられた。
「そろそろ歩くか」
そんな気分になって、加圧スーツとジャージに着替える。
ポケットには小銭を少し、スマホと鍵だけ。
身軽な格好で玄関を出ると、むわっとした空気が肌にまとわりついた。
歩き始めはゆっくりと、体を慣らすようにいつもの散歩コースへ足を向ける。
ポケットの小銭がジャラジャラと小さく鳴るけど、
まあこれもいつも通りだ。
体重は相変わらず横ばいのまま。
けど、続けていればそのうち減るやろ
そんなことをぼんやり考えながら歩く。
大きな幹線道路を渡り、山裾の道へ入ると、少しだけ風が通った。
靴底がジャリジャリと鳴る音が、夕方の静けさに溶けていく。
30分も歩けば、汗が額からポタポタ落ちてきた。
袖で拭いながら、自販機で水を買う。
冷たい水が火照った体にしみていって、思わず息が漏れた。
「はぁ……生き返るわ」
時間を見ると、一時間を少し過ぎていた。
「そろそろ戻るか」
そう独りごちて、来た道とは反対側のルートをゆっくり戻り始める。
幹線道路沿いはまだ明るい。
車のライトが流れていくのを横目に、自宅へ抜ける細い道へ入る。
街灯が少なく、少し暗い坂道を登っていくと、空気がひんやりしてきた。
そのときだった。
バキ…バキ…
大きな公園とは反対側、山の斜面のほうから何かが折れるような音が響いた。
「ん?」
思わず足を止め、耳を澄ます。
バキバキ…さっきより近い。
何かが山間を降りてくるような、重い音。
ゴクリ、と唾を飲む。
今朝のニュースで、少し離れた場所に何かの目撃情報があったのを思い出す。
暗い雑木林の奥を目を凝らして見るが、木々の影が揺れるだけで、何がいるのか分からない。
それでも、バキ…バキ…と、何かが歩くような音だけは続いている。
しばらくその場で耳を澄ませていた。
結局、正体は分からないまま、
「帰るか…」
と歩き出す。
ジャリ…ジャリ…
自分の足音に並ぶように、山の中からも
バキ…バキ…
と音がついてくる。
気味が悪くなり、少し足早になる。
すると、向こうの音も早くなる。
「……ヤバいな」
そう思い、家とは逆方向へ遠回りするように歩く。
十分ほど進むと、いつの間にかバキバキという音は消えていた。
「……ふぅ」
胸の奥の緊張がほどけていく。
そのまま家路につき、玄関の鍵を開ける。
鍵を回す音だけが、やけに大きく響いた。
ドアノブに手をかけた、その瞬間
パキッ
背後で、小さく何かが折れる音がした気がした。




