↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
661/678

立っていたのは?

仕事を終えて更衣室でシャツを脱いでいると、ポケットの中でスマホが震えた。

画面を見ると、友人の名前がぽつんと浮かんでいる。

「珍しいな」と思いながら、汗の残る首筋をタオルで拭き、手早く着替えて会社を出た。

外に出ると、夕方前の空はまだ明るく、透き通るような青の奥で、入道雲がゆっくりと立ち上がっていた。

白い塔みたいに空へ伸びていて、見ているだけで胸の奥が少しだけ熱くなる。

「夕立来るな…」

そう思いながらオープンイヤーのイヤホンを耳にかけ、流れてきた曲と蝉の声が混ざるまま、駅へ向かう。

歩きながらメッセージを開く。

「久しぶり〜、今時間ない?ちょっと聞いて欲しい話あるんだけど?」

久しぶりの名前に、久しぶりのテンション。

なんやろと思いながら

「今帰ってるから、帰ってからで良ければ聞けるけど?」

と返すと、すぐに

「なら、帰ったら教えて〜」

と軽い返事が返ってきた。

電車に揺られながら窓の外を見ると、さっきの入道雲の影が、町の上にゆっくり伸びていくのが見えた。

最寄りに着いた頃には、空気がひんやりして、一滴、二滴と雨が落ちてきた。

「やっぱりな」

そう呟いた瞬間、ざあっと音が変わり、夕立が本気を出した。雨に打たれながら家まで走り、濡れた髪をタオルで拭きつつ部屋着に着替える。

冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出し、氷の入ったグラスに注ぐと、カラン、と澄んだ音が部屋に響いた。

「今からなら通話できるでー」

と送ると、すぐにコール音が鳴った。

「もしもし」

「やっほー、久しぶり。急にごめんね」

明るい声が耳に届いて、雨の音と混ざって、なんとなく懐かしい気持ちになる。

「久しぶりやん、大丈夫やで。それでどうしたん?」

「いや、ちょっと不思議なことあってさ。あんたなら分かるかなって」

「いやいや、ウィキペディアちゃうで」

「怪奇譚集めてるやん、あんた」

「まぁ、確かに」

「でしょ」

「まぁね」

「それで本題なんやけどさ、話していい?」

「ええで」

「実はこないだ引っ越したって話したっけ?」

「してたで」

「そこでさ、この前の休み、暑すぎて出かける気にならんくて部屋でゴロゴロしてたんやけど」

「そうなん?」

「この時期外へ出るなんて私にはむり!!」

「そういや、暑いのアカンかったな」

「そうよ」

「でね、夜までクーラーの効いた部屋でうちの子と遊んでたらね、外の廊下から足音みたいなん聞こえてさ」

「足音?」

「うん、コツコツって感じの。普段なら全然気にならないのに、その時は妙に気になってさ」

「まぁ、アパートならよくあるんじゃないん?」

「そうなんだけど、とりあえず静かに扉の前に行って、覗くやつで外見たの」

「うん」

「そしたら、真っ赤になってて何も見えなかったのよね」

「真っ赤? ドアスコープ覗いたら外が真っ赤やったってことやんな?」

「そうよ〜」

「なんか怖くなってその日はそのまま寝たんだけどさ、次の日覗いて見ても普通に見えるの。なんかそんな話聞いたことない?」

「えらいピンポイントな話やけど…聞いたことないなぁ…」

「そうなん?なんか知ってると思ったんやけど…」

「まぁ、また、時間ある時でも調べとくよ」

「ありがとう。またご飯でも行こー」

「おぅ、また行こやー」

そう言って通話を終えた。テーブルに置いたメモを読み返しながら冷たい麦茶をひと口飲む。

氷がカランと鳴って、夕立の湿気が少しだけ和らいだ気がした。そのときだった。

外の廊下から、


カツ…カツ…


と、乾いた音がした。

そう思って耳を澄ますと、音はすぐに止んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。