子供が見たのは?1
平日の夜、クーラーの効いた部屋で動画を流しながらメダカの採卵をしていた。
水に指を浸して卵を外していく単調な作業は、慣れてくると妙に落ち着く。
そんな時、スマホが震えた。
近くのタオルで手を拭きながら画面を見ると、友人からのメッセージ。
『よぅ、ちょっと今時間あるか?』
要件が書いてないのが珍しい。
“通話で良ければ行けるから3分後にかけてくれ” と返し、机の上のオープンイヤーのイヤホンを耳につける。
すぐに『準備できたらかけてくれ』と返ってきた。
えらく急いでるなと思いながら、通話のコールを鳴らすとツーコールで繋がった。
「よぅ、お疲れ。どうした?」
「おぅ、すまんな。ちょっと息子がな」
「Jrがどうしたよ?」
「おぅ、昨日の夜になんか変なことあったみたいでな。どうしてもお前に話すって言うてきかんねん」
その時、電話口の向こうから子供の声が割り込んできた。
「お父さん、おっちゃんに電話してんの?」
「今時間取れるか聞いてるから待っとけ」
「えぇー、おっちゃんに早く聞いてほしいのに…」
「おっちゃんにも都合あるんや」
親子で言い合いしてる声がそのまま漏れてくる。
採卵も終わったので、卵を容器に移し替えてスマホを部屋着のポケットに入れ、手を洗いに行く。
ついでにお茶を追加して部屋に戻ると、まだ向こうでは言い合いが続いていた。
「おぅ、ええぞ。話聞くわ」
そう言っても、どうやらヒートアップして聞いていない。
“いつでもJrから話聞くぞ” とメッセージを送ると、ようやく友人が気付いた。
「おぅ、すまん。変わるわ。ほら、ありがとうって言うんやぞ」
「わかってるよ」
少しブーたれた声のあと、Jrが電話口に出てきた。
「久しぶりやな」
「おっちゃん、ありがとう」
「おぅ、どうしたんや?」
「あんなおっちゃん、昨日の夜変なもん見てん」
Jrの声は、興奮とちょっとした自慢が混ざったような調子だった。
「変なもん見たって、どんなんや?」
「なんかな、ようわからんねんけどなぁ、なんやろあれ?」
「ゆっくり、変なもん見る前から話してくれるか?」
「ええでー」
少し息を吸う音がして、Jrが話し始めた。
「あんなー、夜トイレに行ってん」
「それで?」
「そしたらなぁー、なんか外から声みたいなん聞こえててなー、気になってん」
「声みたいなの?」
「そうやねん、何言うてんのかはわからんかってんけど」
「そうなんや」
「でなー、見てみたんやー」
「見たんか?怖なかったん?」
「怖いけど気になるやん」
「まぁそうやな」




