白昼夢の会釈
連日うだるような暑さが続いていたけど、昨日の夕立から降り続いた雨のおかげで、その日の朝は少しだけ空気が軽かった。
早めに目が覚めてカーテンを開けると、昨日までの雨が嘘みたいに、透き通る青空が広がっていた。
「こりゃ暑くなりそうやなぁ」
そう独り言をこぼしながら、クーラーの効いた部屋からキッチンへ向かう。
アイスコーヒーを淹れつつ、トースターにパンを放り込む。
スマホを眺めながらトーストをかじり、今日どう過ごすかをぼんやり考える。
「そういや寺社巡り、最近してへんな。久しぶりに行くのも悪くないか」
そう決めて、顔を洗い、出かける準備を整える。
車に乗り込み、エンジンをかける。
エアコンが冷気を吐き始めるまでの間、移動のお供になる音楽を選ぶ。
「今日は流行りの曲にしよか」
そう呟きながら、ゆっくりと車を発進させた。
まずは少し離れた場所にある、前から気になっていた神社へ向かうことにした。
「今日は遠いほうから回って、家に向かってのんびり戻りながら巡ろうか」
そんな気分だった。
一件目の神社は天神様を祀る神社で、街中にあるのに木々が生い茂り、そこだけ空気がひんやりしているように感じた。
お参りを済ませ、ゆっくり境内を歩く。
木陰のおかげで日差しが和らぎ、少し涼しく感じられる。
そのあとも、いくつか神社やお寺を巡りながら車を走らせ、途中で昼飯を済ませた。
最後に、家の近くの神社に寄ってから帰ろうと思い、
近くの駐車場に車を停めて歩き出す。
蝉の鳴き声が耳にまとわりつくように響く中、鳥居の前で一礼し、ゆっくりと境内へ入る。
手水で手と口を清め、本殿の前で二礼二拍手。
手を合わせて目を閉じると、さっきまでうるさかった蝉時雨が、ふっと遠のいた気がした。
目を開け、手を下ろして一礼し、振り返る。
視界の端に、落ち着いた色の浴衣を着た女性が立っていた。
こちらを静かに見ている。
(参拝の人かな?浴衣にしては地味めやけど、こういうのもあるんやな)
軽く会釈すると、女性も微かに笑って会釈を返してくれた。
チリン…
と、ほんのかすかな音がした気がして顔を上げる。
けれど、そこには誰もいなかった。
蝉の声が、またシャワシャワと戻ってくる。
(白昼夢でも見たんかな)
そう思いながら鳥居へ向かう。
外へ出るとき、
ふふっ
と小さく笑う声が耳元で聞こえたような気がしたが、蝉の声にすぐかき消されていった。




