653/672
会釈を返したら3
彼の最後の言葉が、どこか冗談みたいに頭の中で反芻されながら、帰りの電車の時間を確認した。
休日の夕方ということもあって、駅は人で賑わっていた。
券売機に並びながら運賃を確認していると、
前に並んでいた人がふいにこちらを振り向いた。
なんとなく気まずくて、軽く会釈をする。
相手も同じように軽く会釈を返してくれた。
自分の番になり、サッと切符を買ってホームへ向かう。
少し待って電車に乗り込み、揺られながら家路についた。
家に着いてからスマホを取り出し、
『今日はありがとう
無事帰ったよ』
とメッセージを送ると、少しして返事が来た。
『おぅ、こちらこそ
ちゃんと会釈はして帰ったか?』
『おぅ、券売機並んでる時に会釈返してもろたわ』
『そうか、ならええんや』
『なんか知ってるなら教えてくれや』
『まぁ、気にすんな』
そこから何回か聞いてみたが、返ってくるのは
「気にすんな」
だけだった。
「ちぇっ」
と舌打ちして、夕飯を食べ、早めに寝ることにした。
その日以降、窓をコン…コン…と叩く音は聞こえなくなった。
なんでやろな……何が解決したんやろ……
後味の悪さを感じながらも、
「まぁ、寝れるようになったしええか」
と独り言をこぼし、久しぶりにゆっくり休日を楽しむことにした。




