豪雨に出かけるのは?2
テレビを消して、部屋の外に出ようと扉に近付いた時だった。
廊下をギシッ、ギシッと、小さな人が歩くような音が聞こえた。
一人暮らしの部屋で鳴るはずのない足音。
雨音とは違う、はっきりとした“踏む音”がゆっくり響いている。
少し怖くなり、部屋の中を見回してから、キャンプで使うペグを打つハンマーを片手に持って廊下へ出た。
家の中をくまなく見て回ったが、誰もいない。
ハンマーを部屋に戻し、気を取り直してキッチンへ向かう。
冷凍の焼きおにぎりをレンジで温め、そのまま食べた。
部屋に戻る時、ふと気づいた。
廊下が濡れていた。
「えっ?」
足跡のように濡れた跡が、玄関へ向かって続いている。
まるで誰かが歩いたように、点々と玄関の扉の前で止まっていた。
「気持ち悪っ……掃除するか」
そう思って雑巾を取りに行こうとした瞬間、スマホが震えた。
画面には親父の名前。
「もしもし、どうしたん?」
そう聞くと、親父はいつもの調子で言った。
「おぅ、久しぶりに今日晩飯でも一緒にどうや?」
「いや、この雨やし家から出たないわ」
「そうか……たまには帰ってきて一緒に飯でも食おうや」
「おぅ、また帰るわ。」
「そういや、お前何しとったんや?」
「一日ダラダラしとるよ。
ただ、今部屋の廊下になんか濡れた足跡ついとって、掃除しようかと思っとるんやけど」
そう言った瞬間、親父の声が急に強くなった。
「それには触るな」
「え?」
「ええか、その足跡、乾くまで触るなよ。
玄関まで続いとるんやろ?」
「えっ?なんで分かったん?」
「ええから。お前、新しい靴あるか?」
「あるけど?」
「なら一足玄関に置いて、 “外は晴れてます、どうぞお行きなさい” って淡々と言うんや」
「えっ?なんでなん?」
「ええからそうせぇ。
絶対触るな。不注意で踏むな。
それと、今日は徹夜で寝るな」
「寝るなって……また珍しいこと言うなぁ」
「ええから言うこと聞け」
「……わかったよ」
「明日、お前ん家行くから出掛けんなよ」
「わかったよ」
電話を切ると、静かな部屋に雨音だけが戻ってきた。




