映り込むのは?2
居間に通されると、親父さんがお茶を飲みながら座っていた。
「おはようございます。お久しぶりです」
そう挨拶すると、親父さんは湯呑みを置いて笑った。
「おはよう。久しぶりやな。今日はすまんな」
「いえいえ、暇してたので」
「気に入ったもんあれば持って行ってええぞ」
ガハハと豪快に笑う声が部屋に響く。
「ありがとうございます」
そう言って部屋の隅に座ると、親父さんが眉をひそめた。
「お前はいつまで寝起きのままなんや。はよ着替えてこんかい」
バシンッと友人の背中を叩く。
「いてぇよ、着替えるがな」
「さっさとしてこい」
友人は渋々部屋に戻っていった。
「そんな隅に座らんと、こっち来い」
親父さんが自分の近くの座布団をトントンと叩く。
「はい」
座ると、親父さんは少し声を落として言った。
「もし変なもん見ても、なんも言わんようにな。
うちの蔵はちょっと古いのと、爺さんが偏屈でな。変な収集物が多いんや」
「わかりました。気をつけておきます」
「おぅ、頼むで」
肩をポンポンと叩かれたところで、友人が戻ってきた。
どうやら顔も洗ってきたようだ。
「じゃあやるか」
親父さんを筆頭に、奥にいた親戚のおっちゃんらも加わり、五人で蔵へ向かう。
重い扉を開けると、少し埃っぽい匂いが漂った。
「とりあえず奥から外へ出していくか」
葛籠、ダンボール箱、陶器の木箱。
次々と外へ運び出していく。
蔵の中は薄暗く、外とは違ってひんやりしていた。
ふと、大きな姿見が目に入る。
外に出そうと近づいた瞬間、鏡に映る自分の足元に、小さな男の子がいた。
「……えっ」
声が漏れそうになり、慌てて飲み込む。
足元を見る。誰もいない。
もう一度鏡を見ると、男の子は口元に人差し指を当てていた。
シーッ。
親父さんの言葉が頭に響く。
“変なもん見てもなんも言わんようにな”
外へ運び出さないといけない。
しかし、体がうまく動かない。
ごくりと唾を飲み込み、鏡に自分が映らない角度を探してから、そっと持ち上げて外へ運んだ。
「一回休憩しよう」
親父さんの声で作業が止まる。
部屋に戻り、冷たい麦茶をもらう。
さっきの子供のことが頭から離れず、つい考え込んでしまう。
「おい、大丈夫か?」
友人が少し慌てたように覗き込んでくる。
「おぅ、大丈夫やぞ?どうした?」
「いや、なんか難しい顔してたからよ」
そのやり取りを聞いていた親戚のおじさんが言った。
「兄ちゃん、さっき鏡持ち出してたな」
「はい、最後に外に運びました」
「なんかあったか?」
「まぁ、ちょっと……」
そう答えると、おじさんと親父さんが顔を見合わせると眉間に皺を寄せた。
少し間を置いてから静かに、おじさんが親父さんに向かって言った。
「ガムテープ持ってこい」
「えっ?」
親父さんとおじさんはガムテープを持って蔵へ向かっていった。
休憩が終わり、蔵に戻ると、鏡はガムテープでぐるぐる巻きにされていた。
おじさんが怖い顔で俺の肩を掴む。
「今見たもんは、口に出すな。ええな」
有無を言わせぬ迫力に、ただ頷くしかなかった。
その後、蔵の整理を終え、少し遅めの昼飯に庭でBBQをすることになった。
友人と親戚はビール片手に、俺は麦茶を飲みながら肉をつつき、夕方前に帰ることにした。
友人は最後まで何があったか聞きたがったが、その度に親父さんに頭を叩かれていた。
車に乗り込み、バックミラーを見る。
何も映っていない。
しかし、あの子供は一体。
そんなことを考えながら車を走らせていると、耳元で、静かに。
「……内緒だよ」
思わずハンドルを切りかけ、危うく事故を起こしそうになった。




