白い双手2
「で?急にどうしたよ?」
肉をひっくり返しながら聞くと、
彼はグラスを置いて、少しだけ真面目な顔になった。
「おぅ、実はな。お前なら言うても笑わんと思ってな、聞いて欲しい話があるんや」
「おん?笑わないで聞く?」
「おぅ。ちょっと夢か現かようわからん話なんやけどな」
「夢か現かわからんって」
そう言うと、彼は目線を上に向けて顎を触りながら腕を組んだ。
「いやぁ、話自体はそう、難しい話でもないんやけどな」
「まぁ、聞かせてもらうわ」
「おぅ、頼むわ」
鉄板の上で肉がじゅうっと音を立てる。
煙とタレの匂いがふわっと広がる中、彼はぽつりと話し始めた。
「実はな、今の所に住み始めた時の話なんやけどな」
「何年前の話やねん」
「いや、まぁ、時間は経っとるけどな」
彼は箸を置き、少しだけ視線を落とした。
「それでよ、夜中2時くらいかな。喉がかわいて水飲もうとキッチンに行ったねんな。冷蔵庫から水を取り出して飲んで、戻ろうとしたらな……流しの排水口の所に違和感があってよ」
「違和感があったってどんなよ」
「まぁ、聞いてくれ」
彼は軽く息を吸って続けた。
「眠たい目を擦りながら見たらな、白い手が両手で花を生けたように出ててよ」
「それは怖いな」
「おぅ。でや、なんとなくなんやけど、水をダーっと流したらゴボボって音立てて、流れていったんや」
彼は苦笑いしながらグラスを持ち上げた。
「あれはなんやと思う?」
「いやぁ、分からんけど……流れていったんならええんちゃうか?」
「まぁ、それから特になんも無いんやけどさ」
そんな話をしながら、二人でゆっくりと肉を焼き、飯を食い終えた。
店を出ると、夜風が少しだけ涼しく感じた。
家まで送ってもらい、
「ありがとう、送って貰って悪いな」
と言うと、彼は手を振りながら、
「いや、こちらこそ急に悪かったな」
そう言って車を走らせていった。
車のテールランプが角を曲がって消えるのを見届け、家に入り、手洗いを済ませる。
水を飲もうとキッチンに向かった時、ふと流しが気になって目を向けた。
特に何も変わりはない。
グラスに水を入れて飲む。
ただ、流しの奥からゴボゴボという音が聞こえた気がした。




