ズレたのは?3
「先週末に隣県にある、元々鉱山で栄えた街があるからな。カメラで風景を撮りに行ってたんやけどな」
そこから俺は淡々と話し始めた。
二人は最初、軽い気持ちで聞いていた。
「壁とかが赤くて、統一感のある昔ながらの街並みを撮れるってことで、楽しく撮ってたんやけどな。山間の街やから、日が暮れるのが早くてさ」
烏龍茶を一口含んで、喉を湿らせる。
店内のざわめきが一瞬遠くなる。
「坂道を降りてる時に、変に違和感があってよ。
何が違和感かはその時はわからんかってんけどな…」
二人の視線が、自然と俺に集中する。
「街のメイン通りの坂道を降りてる時に、土産物屋の店主さんがいきなり話しかけてきてな」
俺はその時の声色を少し真似て言う。
『兄さん、帰りは摺り足でしっかりと地に足つけて歩きな。困ったことになるぞ』
「そう言われてよ。えっ?って聞き直そうと思ったら、もう店の奥に行ってて理由は聞けんかってんけど」
二人の表情が少し固まる。
「言われてから摺り足で、しっかり地面から足が浮かんように歩いて戻っててな。坂を降りながらふと、足音がズレてる気がしてな……ジャリジャリって音が一拍早いような……で、影もな…」
俺は軽く息を吐いて、言葉を落とす。
「なんか、俺が動く前に影が先に動いてるように見えたんだよな…」
そこまで話して二人を見ると、二人とも目を見開いて固まっていた。
「どうした?」
そう聞くと、彼が口を開く。
「いや、えっ?何それ?」
そこから言葉が続かず、目線があちこち散らばる。
彼女も、声を抑えたまま。
「普通に…めっちゃ怖すぎるんですけど。
それ、影が先に動いてたって…」
俺は何も言わずに烏龍茶を飲み干し、店員におかわりを頼む。
そして二人を見ながら、淡々と言う。
「信じるも信じないも好きにして」
そう言って、ニヤリと笑いながら目の前の料理に箸を伸ばそうとして、影が先に料理についたような気がした。




