声をかけてきたのは?1
休日の昼下がり、隣県の友人から「今日、うちで飲まないか?」とメッセージが届いた。
いいね、と返しつつ、外の暑さを思い浮かべて少しだけ眉を寄せる。
「昼間は移動したくないから、日が傾いてから向かっていいか?」
そう送ると、すぐに返事が来た。
「おぅ、何人か声掛けてるし、夕方から飲もうかって言ってるから夜到着でも大丈夫やぞ」
ありがたい返事に、アイスコーヒーをひと口。
グラスの氷がカランと鳴って、部屋の静けさに小さな音が溶けていく。
「久しぶりやし、酒の肴でも作って持っていくか」
そう独り言をこぼしながら、クーラーの効いた部屋からキッチンへ向かう。
扉を開けた瞬間、むわっとした熱気がまとわりついてきた。
冷蔵庫を開けると、前日に多めに買っておいた鰯がちょうど残っている。
「南蛮漬けなら食べやすいし、持ち運びも安心やな」
野菜を切り、漬け汁を火にかけると、酸味のある香りがふわりと広がった。
粗熱を取っている間に鰯を手開きし、粉をまぶして油へ落とす。
ジュッ、と弾ける音が心地よい。
額に汗が滲むけれど、揚がった鰯を漬け汁にくぐらせる瞬間がなんとも楽しい。
タッパーにたっぷり詰めて蓋を開けたまま冷まし、その間にシャワーを浴びて出かける準備を整える。
クーラーボックスに氷を詰め、秘蔵のぶどうジュースと南蛮漬けを入れて、車に乗り込んだ。
エンジンをかけて、クーラーを全開にする。
熱気が冷気に変わるまでの数十秒、フロントガラス越しに揺れる陽炎をぼんやり眺めながら、車内で流す音楽を選んでいく。
今日は季節感のある曲をかけながら、アクセルを軽く踏んで車をゆっくりと発進させた。
高速に乗ると、風景が滑るように後ろへ流れていく。
サービスエリアの案内板が過ぎ、やがて最寄りのICで降りる。
そこからは山間部を抜ける道。
木々の影が道路に落ちて、夕方の光が少しずつ柔らかくなっていくのが分かる。
途中、ふいに腹の痛みがきて、近くの道の駅に車を滑り込ませた。
空は藍色がゆっくりと広がり始め、昼と夜の境目が静かに混ざり合っていく。
勢いよく車の扉を閉めると、バンッと乾いた音が周囲に響いた。
急ぎ足でトイレに向かい、少し乱暴に扉を開け閉めする。
音は響いたけれど、今はそれどころではない。
ただただ、間に合ったことに胸を撫で下ろす。




