紅に触れそうで
茹だるような暑さが続くある日、仕事をきっちり定時で終わらせた。
クーラーの効いた更衣室から一歩外へ出る瞬間、思わず足が止まりそうになる。
扉の向こうは、まだ西に傾いた日差しが肌を焼くように照りつけていた。
オープンイヤーのイヤホンを耳にかけ、お気に入りの曲を流しながら駅へ向かう。
額に浮いた汗をタオルで拭い、ゆっくりと歩幅を整える。
ホームに着く頃には、背中にじんわりと熱がこもっていた。
滑り込んできた電車に乗り込み、壁に背を預けるとひんやりとした感触が心地よくてふぅ、と息が漏れた。
最寄り駅まではすぐだ。
けれど、この短い冷たさが今日いちばんのご褒美みたいに感じる。
バス停に向かい、待つ間に水筒の水をひと口。
冷たさが喉を通っていくたび、体の熱が少しずつ落ち着いていく。
ダイエットのために、手前のバス停で降りて歩くのが最近の習慣だ。
バスを降りる頃には、空の色がゆっくりと夕方へ変わり始めていた。
「今日も頑張るか」
小さく独り言をこぼし、住宅街を歩き出す。
静けさが少しずつ体の熱を落ち着かせてくれた。
夕方の光はまだ強く、アスファルトの照り返しがじんわりと足元にまとわりつく。
大きな幹線道路を超えて、家のある入口にかかる橋までたどり着いた。
橋の上は風が吹き抜けて、汗のかいた火照った体を冷やしてくれる。
橋の真ん中あたりで一息ついてから、もう一度歩き始める。
ふと、橋の先、少し広い駐輪場と花壇のある場所が見えてきた時、赤いワンピースに、長い髪の女性が立っていた。
街灯の下、やけにはっきりと見えるのが不思議だった。
そっちに歩かないと帰れないしと思いながら近付いて行くと、顔は俯いて分からないが指先がやけに綺麗な濡れたような紅いマニキュアが目を引く。
横を通りすぎる時に、軽く手が当たりそうになったその時、急に風が強く吹いた。
思わず目を瞑り、目を開けると
プチッ
という小さな音と何かが顔に当たった。
頬に触れると小さな粒が指先に引っ付いた。
そちらに顔を向けると誰もいなかった。
女が立っていた場所に紅い鳳仙花だけが、指先のように俯いていた。




