背中に乗るのは?2
登山口近くの駐車場に車を停め、バックを背負って歩き出す。
彼が“プチ登山”と言っていた通り、道はそこまで急ではなく、木漏れ日が揺れる気持ちのいい山道だった。
汗はじんわりとかくけれど、彼はこまめに休憩を挟んでくれる。
どう見てもこちらのペースに合わせてくれていて、その気遣いがありがたかった。
「しんどくないか?」
「まぁ、ぼちぼちやな」
そんな軽口を交わしながら登っていくと、やがて視界が開け、展望台にたどり着いた。
そこには、雲ひとつない青空と、遠くまで広がる景色が待っていた。
「……暑さ忘れるな、これ」
思わず本音が漏れる。
「な、登って良かったやろ」
彼がさわやかに笑いながら言うので、つい皮肉を返す。
「まぁまぁやな」
「男のツンデレはキモイぞ」
「うるさいわ」
軽く蹴りを入れてやると、彼は笑いながら避けた。
展望デッキのベンチに腰を下ろし、持ってきた軽食を広げる。
風が通り抜けて、汗がすっと引いていく。
近況や仕事の愚痴、最近見たアニメの話まで、他愛ない会話が続いた。
気づけば、1時間ほどゆっくりしていた。
「そろそろ下りるか」
「せやな。帰りは楽やしな」
そう言いながら立ち上がり、ゆっくりと下山を始めた。
夏の光が、木々の間からきらきらと差し込んでいた。
下山が一番危ない、と彼が言っていたので、足元をしっかり確認しながらゆっくり降りていく。
登りよりも神経を使うせいか、休憩を多めに挟んでくれるのがありがたい。
「気ぃ抜くと滑るからな」
「わかってるって」
そんなやり取りをしながら、ちょうど中間地点に差し掛かったときだった。
ふわりと、甘い発酵したような匂いが鼻をかすめた。
「……ん?」
同時に、背中のバックが急に重く感じる。
(疲れが溜まってきたか?)
そう思いながら、「まぁ、もう少ししたら休憩できるし」と自分に言い聞かせて歩く。
自然とペースが落ちていき、口数も減っていった。
彼がちらりとこちらを見てくる。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
そう返すものの、足がだんだん重くなり、ついにその場にへたり込んでしまった。
「すまん、ちょっと休憩させて」
「おぅ、無理すんなよ」
道の端に座り込み、水を飲んで深呼吸する。
けれど、なかなか調子が戻らない。
「……ヤバいな」
思わず漏れた独り言に、彼はそっとチョコレートバーを差し出してきた。
「食う元気ないぞ……」
そう言う俺に、彼は包装を開けながら笑う。
「ひとくちでもええから食え」
そのまま口に突っ込まれ、モチャモチャと咀嚼して飲み込む。
すると、さっきまでの疲れやだるさが、嘘みたいにすっと消えていった。
「あれ?」
自分でも驚くほど体が軽い。
彼はニヤリと笑いながら
「それ食べ終わったら急いで降りるぞ」
彼が立ち上がるのに慌てて、残りを口に放り込んで立ち上がる。
さっきまで感じていた重さも、あの甘い匂いも、すっかり消えていた。
彼の後ろについて歩き出すと、風が通り過ぎる時
チッ
舌打ちのよう音が聞こえた。




