背中に乗るのは?1
金曜日の夜。
部屋の灯りを落として、ベッドに寝転がりながら、流しっぱなしの動画をぼんやり眺めていた。
一週間の疲れがようやく抜けていくような、そんなゆるい時間だった。
そのとき、スマホがぶるっと震えた。
画面を見ると、友人からの短いメッセージ。
「よぅ、明日時間ないか」
用件書けよ、と心の中でツッコミを入れつつ、“空いてるけどどうした”と返すと、すぐに既読がついて通話がかかってきた。
「おぅ、夜分遅くにすまんな、明日、暇なら近くの山にプチ登山するんやけどどうや?」
「登山? このクソ暑いのに?」
「おぅ。山の中は日陰多いし、意外と涼しいんやで」
へぇ、と気のない返事をしながらも、少しだけ興味が湧く。
「お前、体重増えた言うてたやろ?」
「おい、それはズルいぞ」
「一人で登るのも夏場は色々困るしな。初心者連れていく方がペース考えられるし、どうや?」
全く、と思いながらも、どうせ断っても朝から家まで来るつもりなのは分かっている。
「わかったわかった。今から準備せなあかんもんあるやろ? 送っといて」
「おぅ、やっぱりええ奴やな」
そう言って通話が切れた。
すぐに必要な持ち物リストが送られてくる。
画面を見て、足りないものがいくつかあるのに気づき、ため息をつきながら買い足しに出かけた。
帰ってきて荷物をまとめ、明日は早いしな、と布団に潜り込む。
土曜の早朝。
まだ外が薄い青色をしている時間に目が覚めた。
いつもよりだいぶ早いけれど、不思議と体は軽い。
まずはコーヒーの準備をして、パンをトースターに放り込む。
じゅわっと広がるコーヒーの香りと、パンが焼ける匂いが部屋に満ちていく。
「今日は登山やし、しっかり食べとくか」
そう呟きながら、焼き上がったパンに卵を乗せ、その上にハムを重ねる。
横にはヨーグルトにりんごジャムをひとさじ。
簡単だけど、ちょっとした“ちゃんとした朝食”になった。
食べ終えて、改めて登山の準備を確認する。
水、タオル、行動食、救急セット。
そして念のために、パラコードを編んだものをバックの横に取り付ける。
「よしっ」
小さく声に出してから顔を洗っていると、ピンポーン、とドアチャイムが鳴った。
ドアスコープを覗くと、ニコニコ笑った友人が立っている。
「おはよう」
ドアを開けると、彼はいつも通りの調子で手を上げた。
「おはよう、迎えに来たぞ」
「おぅ、もう出れるからちょい待って」
上着を羽織り、靴を履いて家を出る。
朝の空気はひんやりしていて、これから登る山の気配を少しだけ感じさせた。
彼の車に乗り込むと、クーラーがほどよく効いていて、助手席のドリンクホルダーには麦茶が一本刺さっていた。
「それお前のな」
「ありがとう」
そう言うと、彼は満足そうに笑って車を走らせた。




