夏の夜に3
ホイル焼きが焼き上がる頃には、日もすっかり落ちて、キャンプサイト一帯がゆっくりと夕闇に沈んでいた。
タープを張っていない分、頭上には広い空がそのまま広がっていて、薄い藍色の中に星がぽつぽつと灯り始めている。
自分の周りだけ、ランタンスタンドに吊るした灯りがぽうっと丸い光の輪を作っていた。
その光が、まるで自分だけを世界から切り離しているように感じる。
香ばしい匂いがふわりと漂い、皿に盛り付けてテーブルに並べたときだった。
視界の端で、ランタンの下を何かがすっと横切った。
反射的にそちらを見ると、小さな男の子が一人、静かにこちらを見ていた。
「君、どうした? 迷子か?」
そう声をかけると、男の子は俯きがちに、ぽつりと。
「……お腹、減った」
その声は、泣き出す寸前のように細くて弱かった。
周りを見回しても、親らしい人影はどこにもない。
「お腹……減った……」
今にも涙が落ちそうな声に、 思わずため息をつきながら立ち上がる。
「仕方ないな……」
車から椅子をもう一つ出し、テーブルに自分の分から少し取り分けてやる。
パンとホイル焼き、それにぶどうジュースを紙コップに注いで渡した。
「食べたら、受付に連れていこうな」
そう言って向かいの椅子を指すと、男の子は小さく
「ありがとう……」
と呟き、静かに座って食べ始めた
その姿を見ながら、自分もゆっくりと食事を進める。
パンにホイル焼きを挟んでかじると、玉ねぎの甘さがじんわり広がった。
食べ終わると、皿や紙コップ、割り箸を火にくべて焼却する。
パチパチと音を立てて燃えていくのを見届けてから、
男の子に声をかけた。
「受付に連れて行ったげるね」
そう言って振り返る。
そこには、誰もいなかった。
「あれ?」
周囲を見回すが、ランタンの光の輪の中にも、その外の闇にも、小さな影は見当たらない。
不思議に思いながら、男の子が座っていた椅子に近づく。
座面に触れると、そこだけが湿っていた。
ただ、さっきまで確かに誰かが座っていた温度だけが、 ゆっくりと消えていく。
気づけば、虫の声も風の音も遠のいたように感じるほど、周囲は静まり返っていた。
耳が痛いほどの静寂の中、ランタンの光だけが、小さく揺れていた。




