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雨の中で佇む子2

冷たい烏龍茶をグイッと飲み、ジョッキをテーブルに置く。

彼が先に頼んでいた料理をつつきながら、三人でゆっくり腹を満たしていく。

店内のざわめきと、焼き場の香ばしい匂いが心地よく混ざっていた。

ある程度落ち着いたところで、

「で、本題はなんや?」

と切り出す。

彼はビールを一口飲んでから、

「おぅ、聞いてほしいのはな……通勤の時に見たもんなんやけど」

と話し始めた。

「俺も最近、電車通勤になってよ。梅雨頃かな、雨の多い時期に乗り換えでホームの先頭に並んでたんや。傘さして待ってたら、駅の入口近くのフェンスに、小さな男の子が傘さして立っててな」

「まぁ、誰か待ってるとかじゃないんか?」

と返すと、彼は首を横に振る。

「それがな、雨の日だけそこに佇むようにホーム向いて立ってるねん。なんか妙に頭に残ってな」

「親迎えに来たとかじゃなくて?」

と聞くと、

「おぅ、その子がさしてる傘しかないで。しかも駅の先頭のホームって屋根ないやろ?入口のとこも屋根ないし。親待つなら屋根あるとこ行くやろ?」

「まぁ、たしかにな」

「でな、決まって雨の日だけなんや。不思議やろ?」

「まぁ、それは不思議やな」

彼はさらに続ける。

「あと、その乗り換えの駅、お前も使ってるあの駅やぞ? お前も先頭で待ってるけど、見たことないか?」

「ん?あの駅のとこか?西側の入口側やろ?」

「おぅ。ほら、駅の入口前にコインパーキングある方」

「あんなとこでそんな子見たことないけどな」

「そうか……」

彼は少しだけ目線を落とした。

彼女は話には入らず、ただ彼の背中をそっと撫でていた。

少し落ち着いたのか、彼が顔を上げた。

「でな、こないだの雨の日や。気になってその子の方見てたら、その子がこっち向いててな。目ぇ合ったんよ」

「ほう」

「ほんでな、笑いながら手ぇ振ってきたから……つい、振り返したんや」

「まぁ、子どもが手ぇ振ってきたら返したくはなるよな」

「せやろ?」

「せやな」

彼はビールを一口飲んで、少し声を落とした。

「でもな、その日家帰ったら……こいつが言うてきたんよ。“誰か一緒に帰ってきたん?”って」

俺は思わず彼女の方を見る。

彼女はジョッキを持ったまま、少し眉を寄せて言った。

「だって、ガチャって扉開いて“ただいま”って聞こえた時、二人分の足音したんやもん」

「二人分の足音?」

「そうやで。ひとつはこの人の。もうひとつは……小さい、裸足みたいな“ぺた、ぺた”って音」

彼女は淡々としているが、声の奥にわずかな戸惑いがあった。

「で、それからやで。私が一人で家におる時、廊下で“ぺたぺた”って聞こえるようになってん……」

彼が俺を見る。

「お前、どう思うよ?」

「どうって言われてもな……」

彼は苦笑いしながら肩をすくめる。

「俺が一人の時は聞こえへんねん。たまに俺の好きな菓子が減ってるくらいや」

「お前の好きな菓子って……あれか?子どもも好きなやつ」

「おぅ、あれや。あれ食べてる時にな、気づいたら“あれ?1個余分に減ってる?”ってなるねん」

「美味いよな、俺もたまに食べたなるからな、それにしても不思議な話やな」

俺はそう言って烏龍茶を少し飲む。

「せやろ?」

「菓子については……まぁ無意識に食べてる可能性もあるけど、足音はなぁ……」

「それは酷いやろ?俺はボケてる扱いかよ……」

「まぁまぁ」

と、彼女が彼の背中をそっと撫でてなだめる。

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