雨の中で佇む子1
仕事を定時で上がり、更衣室で汗を拭き取ってから制汗シートでさっぱりさせ、私服に着替えて会社を出た。
外に出ればどうせ駅までの間にまた汗が吹き出すんやろな、と思いながら、オープンイヤーのイヤホンを耳にかける。
最近よく聞いている、若い子が好みそうなアップテンポの曲を流しつつ、ゆっくり駅へ向かって歩き出した。
いつもの交差点で信号待ちをしていると、突然イヤホンの音楽が止まり、コール音が鳴る。
胸ポケットからスマホを取り出して画面を見ると、友人の名前が表示されていた。
「なんやろ?」
そう思いながら通話ボタンを押す。
「もしもし、久しぶり。今大丈夫?」
「今仕事帰りやけど、大丈夫やで」
「おっ、ええタイミングやったな」
「まぁ、駅着くまでやから数分やけどな」
そんなやり取りをしていると、友人が急に言った。
「今日今から空いてない? 飯でもどうや?」
「えらい急やな……まぁ、空いてるよ」
「なら、駅前で待ってるわ」
「わかった。ほな、いつもの居酒屋で」
「おぅ、いつもの居酒屋で」
そう言って電話は切れた。
電車に間に合うように早足で駅へ向かい、ホームに着いたときには、ちょうど電車が入ってくるところだった。
「ギリギリやな……」
そう思いながら、閉まりかけの扉に体を滑り込ませる。
車内のひんやりした空気が、火照った身体に心地よかった。
反対側の扉に背中を預け、少し深呼吸して息を整える。
目的の駅に着くと、友人に
「今から向かうで」
とメッセージを送り、雑踏の中を縫うように歩いていく。
駅前の喧騒を抜け、一本裏の細い通りへ入ると、いつもの居酒屋の暖簾が見えてきた。
ちょうど店の前に着いたタイミングで、
「もう入ってるで」
と返信が届く。
扉を開けると、だしの香りと焼き場の香ばしい匂いがふわっと広がり、思わずぐぅと腹が鳴った。
入り口から見える席に友人の姿を見つけ、店員さんに「連れです」と指さして伝えると、「ごゆっくりどうぞ」と笑顔で案内された。
席に着くと、「お疲れ様」と友人が言い、俺の席にはすでに烏龍茶が置かれていた。
「随分と手回しがいいな」
そう言いながら腰を下ろすと、友人の横には彼の彼女が座っていた。
「二人でってのは予想外やな」
そう笑うと、友人が肩をすくめる。
「おぅ、聞いてほしい話があってな。今日“晩飯いらん”って言うたら、“私も行く”ってついてきたんや」
「お久しぶりですね〜」
彼女はビールジョッキを軽く持ち上げながら笑った。
「お久しぶり」
そう返して、三人で、カチンっと軽くジョッキを合わせた。




