夜の物音2
リビングに通されると、テーブルには見慣れない女性が一人座っていた。
肩口で切り揃えた髪に、ぱっちりした目が印象的な人だ。
「ただいま。昨日話してたやつだよ」
彼がそう言ってこちらを見ると、女性は軽く会釈した。
「初めまして。彼とお付き合いしてる○○です」
突然の紹介に少し面食らいながら、俺も慌てて頭を下げる。
「初めまして。彼の悪友の○△です」
そう言ってから、横目で彼を睨む。
「……人がいるなら初めから言わんかい」
少し怒ったように言うと、彼は頬をかきながら、へへへと笑って目をそらした。
ため息をひとつつくと、彼は彼女の横に腰を下ろし、俺はその対面に座る。
彼女はすっと立ち上がり、台所でお茶を淹れて戻ってきた。
氷の入った麦茶を置いてくれたタイミングで、俺は小声で彼に言う。
「お前なぁ……彼女が家にいるなら言えよ。
そしたら菓子のひとつでも買ってこれたやろ」
すると彼は、少しだけ肩をすくめて言った。
「すまんな。ちょっと急いだほうがいいと思ってよ」
彼女は、俺と彼のやり取りを聞きながら、困ったように片方の眉を少し下げた。
俺が彼に向かって、
「何も用件聞いてないけど、なんや?」
と尋ねると、
「実はな……彼女と住み始めてから、ちょっと色々あってよ。お前なら、なんかわかるんちゃうか思って」
「なんやそれ」
そう返した瞬間、彼女の右手がそっと彼の服の袖をつまんだ。
不安というより、“話してええん?”と確認するような仕草。
彼はその手に気づいて、少し照れたように笑った。
「お前、そういう話好きやったやろ?」
「怪奇譚とかは好きやけど、聞くの専門やぞ」
「おぅ。聞いてくれるだけでええんや」
「聞くだけでええならええけどよ。変な期待すんなよ」
そう言って麦茶を一口飲む。
冷たさが喉を通っていくのが心地いい。
すると彼は、隣に座る彼女の方へ向き直って言った。
「大丈夫だ。彼はちゃんと聞いてくれるから」
その言い方に、俺は少しだけ引っかかって、
「ん? ちゃんと聞いてくれるってことは……誰かに話したんか?」
と尋ねた。
彼は苦笑いしながら頭をかいた。
「彼女の友達に話したらしいんやけどな……
信じてもらえんかったみたいでよ」
その言葉に合わせるように、彼女は少し俯き、けれどこちらの様子をそっと伺うように視線を上げた。




