猫に誘われて2
何度かそんなやり取りを猫としているうちに、胸の奥に小さな興味が芽生えてきた。
ここまで案内されるように歩かれたら、そりゃあ付いて行きたくもなる。
猫のいる方へ歩み寄ると、その子は静かに前へ進みながら、ときどき振り返ってこちらを確認する。
小さく喉を鳴らしていて、その音が妙に心地いい。
「この子、一体どこに連れていこうとしてるんやろな」
そんなことを考えていると、猫は角を右に曲がった。
角を曲がった先で、猫は一度だけこちらを見て、また前を向く。
その仕草がなんだか人間みたいで、思わず笑ってしまう。
「面白い猫に会ったな」
そう思いながら同じように角を曲がる。
周りは少し薄暗くなってきていたけれど、
まぁまだ大丈夫だろう。
最悪タクシーを呼べばいい。
そんな軽い気持ちで、好奇心のまま猫のあとを歩いていく。
相変わらず前を歩く猫と、その後ろをついていく俺。
周りから見たら、随分と変わった光景に見えるんやろな。
そんなことを思っていると、ふいに、行き止まりにたどり着いた。
一瞬考えるように目線を上にあげる。
「あれ? これ、塀の上とか行かれたらついていけんぞ」
そう思って猫のほうを見る。
けれど、そこにはもう猫の姿はなかった。
「えっ?」
思わず声が漏れた。
さっきまで確かに目の前を歩いていたはずの猫の姿が、どこにも見当たらない。
周りを見渡しても、そこは住宅街の袋小路で、静かに家々が並んでいるだけだった。
夕闇がゆっくりと降りてきて、街全体が少しずつ夜の色に染まり始めている。
「なんだったんだ?」
そう呟きながら、元来た道に戻ろうと振り返りかけたその瞬間、背後から、風に混じるような小さな声がした。
「楽しかったよ、また、遊んでおくれ」
あまりにも自然で、柔らかい声だったから、反射的に振り向いてしまった。
けれどそこには、ただ静かな住宅街の夕暮れがあるだけで、誰の姿もなかった。
風がひとつ通り抜けて、チリンという音が微かに聞こえた。




