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猫に誘われて1

定時で仕事を終えた帰り道、うだるような暑さの中でタオルを額に当てながら空を見上げた。

日はゆっくり傾き始めているけれど、まだしっかり明るくて、夏の夕方らしい粘り気のある光が残っている。

そんな空気を胸いっぱいに吸い込みながら駅へ向かって歩く。

ちょうど駅に着いたところで電車が滑り込んできて、

「今日は運がいいな」

そんな小さな満足感が胸に広がった。

満員電車の壁際に背中を預け、スマホで通販サイトを眺めていると、あっという間に最寄り駅に着いていた。

雑踏を抜けてバス停へ向かい、駆け込みでバスに乗り込む。

クーラーの効いた車内でひと息つきながら、ふと自分の腹まわりに手を当てる。

最近ちょっと“嬉しくない成長”をしてきている気がする。

少し手前のバス停で降りて歩くか…

そう思いながら、涼しい車内から出るかどうか、ほんの少しだけ葛藤した。

甘えてたら腹はへこまんしな…

そう自分に言い聞かせるように呟いて、最寄りのバス停から七つ手前で降りた。

家までは六キロちょっと。

歩くにはちょうどいい距離だ。

夕方の空気はまだ暑いけれど、風が吹くと少しだけ汗が引いていく。

住宅街を抜けて歩いていると、塀の上を一匹の茶トラ柄の猫がこちらと並走するように歩いていた。

ちらちらと横目でこちらを見てくる。

「可愛いな」

思わず独り言が漏れる。

すると猫は、ニャン、と短く鳴いて目の前にひょいと降りてきた。

そのまま少し先を歩き、時々こちらを振り返る。

まるで「ついておいで」と言っているみたいだ。

角を右に曲がろうとすると、猫がニャーンと鳴いてこちらを見る。

その声に足が止まった。

「ん? えらく人懐っこいな」

帰り道に向かって歩き出そうとすると、猫はもう一度鳴いて足元に寄ってきて、すぐに元の位置に戻って、また鳴いた。


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