温泉街での撮影3
夕飯を堪能したあと、カバンからカメラを取り出して設定を確認するために、部屋の窓から外を数枚撮ってみた。
街灯の灯りが、ぼんやりと滲むように点っている。
何度か試し撮りをして設定が決まると、首からカメラを下げて外へ出た。
旅館の下駄を借りて、カランコロンと軽い音を響かせながら街を歩く。
夜の街は、昼間とはまるで違う表情をしていた。
光の色も、影の落ち方も、どこか柔らかくて静かだ。
いい画角を探しながら歩いていると、川沿いの少し右に曲がった場所で、街灯の光が水面にきれいに反射しているのを見つけた。
奥の看板の白い光と、手前の街灯の淡いオレンジが重なって、思わず息をのむような一枚が撮れた。
「いいのが撮れたな」
そう小さく呟いたその時、
「おっ、兄さん写真撮ってんの?」
不意に声をかけられた。
振り向くと、地元の人らしいラフな格好のおじさんが立っていた。 どうやら撮影に夢中で、近づいてきたのに気づかなかったらしい。
おじさんはにこっと笑って、
「この辺、夜の川きれいやろ。ちょっと先の橋の上もええで」
と、気さくに話しかけてくる。
「そうなんですね、ありがとうございます」
そう言って軽く頭を下げると、おじさんは手をひらひらと振りながら
「ええ写真撮りや」
と笑って歩いていった。
その背中を見送りながら、教えてもらった場所へ向かって
カラン…コロン…
と下駄の音を響かせて歩く。
人通りの少ない道に入ると、川沿いの景色がさっきより少し暗くなっていて、そのぶん光のコントラストが綺麗に見えた。
「ここ、ええな」
振り向いた先がちょうどいいアングルだった。
設定を少し変えて、カッシャッ、カッシャッと何枚か撮る。
撮った写真は後でゆっくり確認しよう。
そう思ってカメラを片づけていると、背後からふわっと生暖かい風が吹いた。
同じタイミングで、どこか遠くで小さく チリン… と風鈴のような音がした。
夏の夜の空気が揺れただけだろう。
そう思いながらも、なんとなく肌がひやりとして、早足で旅館へ戻った。
部屋に戻って写真を確認していると、おじさんに教えてもらった場所で撮った一枚の左端、橋の欄干近くに、うっすらと“人の足のように見える影”が写っていた。
その瞬間、背後で小さく
チリン…
という音が聞こえた気がした。




