温泉街での撮影2
あちこち見て回って楽しんでいるうちに、気づけばチェックインの時間になっていた。
川沿いの道をゆっくり歩きながら宿へ向かう。
水面を渡る風が少しだけ涼しくて、さっきまでの暑さがすっと引いていく。
今日泊まるのは、いかにも“老舗旅館”という佇まいの宿だ。
普段なら手が届かない値段だけど、特別価格のプランが出ていたのを見つけて、少しだけ予算を上乗せして予約した。
玄関をくぐると、落ち着いた空気がふわりと体を包む。
思わず背筋が伸びるような、静かな品の良さが漂っていた。
「ようこそお越しくださいました」
着物姿の女将さんが、柔らかい笑顔で深くお辞儀をして迎えてくれる。
その所作の美しさに、旅に来た実感がじんわりと湧いてきた。
靴を脱ぎ、受付でチェックインを済ませる。
門限や食事の時間を確認してから、案内された部屋へ向かった。
ハイシーズンによく一人で取れたな。
そう思いながら襖を開けると、一人で使うには広すぎるくらいの部屋が広がっていた。
畳の匂いが心地よくて、窓の外には表通りが見える。
人の気配が遠くにあるのに、部屋の中は不思議なくらい静かだった。
「いい部屋やな」
そう小さくつぶやいて、荷物をそっと畳の上に置いた。
今日は夜の撮影が目的だし、
日が落ちるまではゆっくり過ごそう
そう思って、浴衣に着替えて温泉へ向かった。
暖簾をくぐると、広めの洗い場と内湯、そして奥には露天風呂が見える。
まずは体を洗い、湯気の立つ内湯へそっと浸かった。
「はぁぁ〜……」
思わず声が漏れる。
ここ最近の忙しさが、湯の中に溶けていくようだった。
しばらくして露天風呂へ移動すると、こちらはまた違う風情があった。
岩を組んだ湯船の向こうに、青空がゆっくりと色を変え始めている。
まだ早い時間だからか、人影はほとんどない。
湯面を渡る風が心地よくて、
「やっぱりお高い宿の露天は一味違うな」
と小さく笑ってしまった。
たっぷり温泉を楽しんで部屋に戻ると、夕食まで少し時間があった。
座椅子に腰を下ろし、ぼんやりと天井を眺めていると、控えめにコンコンッと戸をノックする音で我に返る。
どうやら晩ごはんのようだ。
部屋の机には、色とりどりの料理がずらりと並んでいた。
旬の魚の刺身、揚げたての天ぷら、地元の食材を使った小鉢の数々。
「おぉ…」
思わずスマホを取り出して写真を撮る。
旅館の夕食って、どうしてこう胸が躍るんやろな。




