温泉街での撮影1
週末の金曜日。
いつもより多かった仕事を、なんとか定時までに片づけた。
上司に「お疲れ様です」と挨拶して更衣室へ向かう足取りは、自然と軽くなる。
明日は、久しぶりの温泉泊まりだ。
そのことを思い出すだけで、胸の奥がふわっと明るくなる。
職場を出て駅へ向かう道も、いつもより少しだけ早足になる。
歩きながら、頭の中で荷物の確認をする。
忘れ物はないか、カメラの設定はどうするか、温泉街の夜の光をどう切り取るか。
そんなことを考えていると、思わず顔がゆるんでしまった。
家に着くと、急いで晩ごはんを済ませ、明日の準備をひとつずつ整えていく。
バッグの中がきれいに揃ったのを確認すると、満足感と同時に、旅の前の静かな高揚が広がった。
「明日、楽しみやな」
そう小さくつぶやいて、その夜はいつもより早く布団に潜り込んだ。
予定より早く目が覚めた。
いつもなら布団の中でぐずぐずしてしまうのに、今日はすっと体が起き上がる。
カーテンを開けると、透き通るような青空が広がっていた。
うーんと背伸びをすると、胸の奥まで新しい空気が入ってくるようで、自然と口角が上がる。
布団を手早く片づけ、トースターにパンを放り込みながらコーヒーを淹れる。
立ちのぼる香りに、頭がようやく“今日”に追いついていく気がした。
昨日のうちにまとめておいた荷物を手に家を出て、
車に乗り込む。
エンジンをかけ、クーラーの風を少しだけ弱めに当てながら、暖まるまでの間にナビを設定し、音楽を選んだ。
「よし」
小さくつぶやいて、旅の始まりを味わうようにゆっくりと車を発進させた。
旅路は驚くほど順調で、渋滞もなく思っていたより早く目的地に着いた。
宿のチェックインまでは、まだ一時間ほどあるだろうか。
外に出ると、夏の陽気がじりじりと肌に触れてくる。
温泉に浸かるには、もう少し涼しくなってからのほうが良さそうだ。
「とりあえず、時間つぶすか」
そんな独り言をこぼしながら、近くの土産物屋や観光案内所をのんびりと見て回る。
店先に並ぶ地元の名産品や、観光マップに載っている小さな名所の写真を眺めていると、旅先特有の“知らない土地の匂い”がふっと胸に広がった。
風鈴の音がどこかから聞こえてきて、暑さの中にも少しだけ涼しさが混ざる。




