追いかけてきたのは?1
平日の昼間、有給を使って休みにした。
いつもより静かな家の中で、のんびりと出かける準備を進める。
持っていく荷物をひとつずつ確認して、鍵を閉めたかもう一度だけ確かめる。
玄関を出て、軽く伸びをしてから車に向かった。
トランクに荷物を積み込み、運転席に座ってエンジンをかける。
ゆっくりと暖気している間に、最近よく流れている曲をスマホで選んで再生した。
ナビに目的地を入力しながら、
「昼ごはん食べてから向かうか」
そんなことをぼんやり考える。
車をゆっくりと発進させると、昼の陽気がフロントガラス越しにやわらかく差し込んできた。
その暖かさに、自然と笑みがこぼれる。
昼に牛丼を食べながら店内を見渡すと、
客は俺と、反対側の席に座っている爺さんだけだった。
平日の昼にしては静かで、
「珍しいな、まだ早い時間やからかな」
そんなことを思いながら、さっと食べ終える。
会計を済ませて店を出ると、外の空気が少し暖かくて気持ちよかった。
車に乗り込み、シートに体を預けたところで、ふと視線を感じて店の入口のほうを見る。
さっきの爺さんが、こちらを見ていた。
特に意味はなさそうで、ただぼんやりと立っているだけに見える。
軽く会釈してエンジンをかけ、車を出した。
高速に乗ってしばらく走っていると、妙にさっきの爺さんのことが頭に残っていた。
俺が食べ終わって店を出る時、 あの爺さんはまだ食事中だったはずだ。
なんでだろう。
そんなことを思いながら、ナビの示す目的地へと車を走らせた。
目的の渓流に到着し、車を停める。
外に出ると、山の空気が思ったよりひんやりしていて気持ちよかった。
カメラの準備をして、リュックに最低限の飲み物とタオルを入れる。
首からカメラを下げ、ゆっくりと山道へ足を踏み入れた。
細い道を静かに歩いていくと、後ろのほうで小さく足音がしたような気がした。
振り返るほどでもなく、
「まぁ、有名な撮影スポットやし、誰か来たんかな」
そんな軽い気持ちでまた前を向く。
渓流の音が少しずつ近づいてくる。
木々の隙間から差し込む光が揺れて、その中をゆっくりと登っていくと、胸の奥がふっと軽くなるような感覚があった。




