夏の鈴の音1
定時で仕事を終え、むっとするような暑さの中を駅へ向かって歩く。
オープンイヤーのイヤホンから流れる音楽だけが、溶けそうな頭をなんとか保ってくれていた。
汗は止まらない。
さっき更衣室で制汗シートで拭いたばかりなのに、額を伝ってまた流れ落ちてくる。
「はぁ……」
うんざりしながら歩いていると、イヤホン越しにコール音が割り込んできた。
誰やねん、こんな時に。
そう思いながら画面を見ると、友人の名前。
「もしもし、どうしたん」
少し不機嫌に出た声に、向こうは相変わらずの元気さで返してくる。
『おぅ、今どこおる?ちょっと話したいんや』
ほんまエネルギーの塊みたいなやつやな、と苦笑しつつ、今駅に向かってることを伝えると、
『おっしゃ、近くおるから向かうわ。クーラー効かせた車で迎え行くから、ちょい付き合ってや』
こちらが断らないと分かってるような言い方に、思わずため息が漏れた。
「……まぁ、ええけど」
そう返すと、
『なら待ってるわ』
とだけ言って通話はあっさり切れた。
なんやねん、ほんま。
歩く速度を少し上げると、駅の手前にハザードを焚いた車が見えた。
あいつの車やな、と近づくと、助手席の窓がゆっくり開いていく。
「乗ってくれ」
笑いながら手を上げる友人に、
「はいはい」
と返して乗り込む。
車内の冷気が火照った体に触れた瞬間、ふっと肩の力が抜けた。
「おぅ、すまんな。お前なら話くらい聞いてくれると思ってな」
そう言って笑う彼に、またひとつため息がこぼれた。
「ため息吐いてばかりだと幸せが逃げるぞ」
運転席から軽く笑いかけてくる彼に、殴ってやろうかと思わなくもない。
けど、ここまで強引に迎えに来る時は、だいたい厄介事を抱えてるのを知っている。
舌打ちしないだけ、自分は優しいほうだと無理やり思うことにした。
「で? 仕事終わりの俺を迎えに来てまで聞いてほしいことってのは?」
ジト目で横を見ると、彼は片眉を少し下げて苦笑いを浮かべた。
「やっぱり、わかるか?」
「長い付き合いやからな。で? 彼女と別れたか、喧嘩でもしたか?」
そう言うと、彼は即座に首を振る。
「いやいや、それならお前には言わん。
お前に言ったら正論で俺の悪いとこ十は挙げてくるやろ?」
そう言って笑う声は、いつもより少しだけ弱かった。




