うわの空の理由4
後輩は慌てたようにこちらを見て、
「そんなことないっすよ。確かに指導員の先輩には怒られる回数増えてますけど、特に悪いとは思ってないっす」
と言った。
「そうか?今日も忘れてたりとかあったけど、なんかあったんか? プライベートで言いづらいなら無理には聞かんけど」
そう言うと、それまで落ち着きなく動いていた指先がぴたりと止まった。
眉が寄り、視線が泳ぎ、口元がわずかに歪む。
言葉を探している。
俺は肉をひっくり返しながら、彼が話し始めるのを待った。
焼けた肉を彼の皿に乗せると、そんな状況でも箸だけは素直に動いていた。
数分後、後輩はふぅーと息を吐き、
「先輩、ちょっと不思議な話してもいいですか」
と、声を落として言った。
「おぅ、なんでも言うてみぃや」
そう笑って返すと、後輩はようやく腹を括ったように、ぽつりぽつりと話し始めた。
「実は、最近……彼女が出来たんですけどね」
「へぇ、おめでとう」
「ありがとうございます」
一度だけ小さく笑ったあと、後輩は少し声を落とした。
「ただ、その彼女……ちょっと不思議なこと言う子で。なんか考えが読まれたり、遊びに行ってたら“女の子とおる?”ってメッセージが来たりして。もちろん、二人きりで遊んでるわけじゃなくて、友達数人とカラオケ行ったタイミングとかなんですけど……」
そこまで言って、後輩はまた箸を止めた。
「直感が鋭いとか、ストーカー気質とかの話か?」
軽く返すと、後輩は首を横に振った。
「いや……信じられない話なんですけどね。
なんか、俺が“教えてくれる”って言うんですよ」
「教えてくれる?」
「でも、遊びに行く時、場所も日時も連絡してなかったし…… そもそも遊びに行くこと自体も伝えてないのに、そう言うから…… なんかよくわからなくて」
「へぇ、教えてくれるねぇ……」
そう返しながら、頭の奥で何かが引っかかった。
昔聞いた怖い話に、似たような話があった気がする。
そんなことを考えていると、後輩が真剣な顔でこちらを見てきた。
「先輩、なんか知らないっすか?」
「まぁ、昔そんな話聞いたことあるわ。
同じとは限らへんけどな」
そう言うと、後輩は食い気味に聞いてきた。
「その時はどうしたんですか?」
少し記憶を探るように目線を上げる。
「その時は確か……彼女にちゃんと予定をしっかり伝えるようにしたら、無くなったって言うてたな」
そう言った瞬間、後輩のスマホが震えた。
画面を見た後輩の顔が、みるみる青ざめていく。
口をパクパクさせながら、スマホをこちらに向けてきた。
画面には、こう書かれていた。
「先輩と焼肉いいですね
今度は私と一緒に行きましょうね」
「へぇ、すごいな。
それで悩んでたのか?」
そう聞くと、後輩は俯いたまま小さく言った。
「ちょっと怖くて……仕事に手がついてなかったです……今日のことも、彼女には一言も伝えてないんです……」
「まぁ、面倒でもちゃんと伝えるようにしてみて、
改善するか見てみたらどうや?」
「そうしてみます……」
後輩は軽く頭をかきながら答えた。
「まぁ、とりあえず焼肉食ってるんやから返信して、“またいこー”って返しとけ。困ったことあったらまた言えよ」
そう言って笑い、彼の皿に焼けた肉をどんどん盛っていく。




